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バイトテロ奇譚 ~人外娘を求めて旅立ったら呪われた~  作者: さっさん
第一章 獣食った報い
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第二十八話 詰み始めた

 昼食を爆乳のアスタに奢ってもらい、俺はその後アサーガ城を訪ねた。アポは取ってある。入り口で軽い身体検査を受けると、中へと案内された。

 以前アサーガ警察に捕縛された時は、大聖堂に向かったっけ。今回は応接間のようだ。国王に縁のある人物や各界の重鎮、大御所、特別な人々が来賓した時に使用される部屋と思われる。


 部屋には物が殆ど置かれていなかった。数対の窓とカーテン、真ん中に鎮座したテーブルと椅子だけだ。

 近衛兵に座るよう言われ、俺は着席する。


「やあ、元気だった?」


 数日振りの再会である。部屋に入ってきた和田君は俺の顔を見て、微笑んだ。前世の和田君のままで、気さくな態度だ。

 俺はその様子に安堵しつつ、「体の方はね」と答える。それからエルフの村での顛末を語った。

 俺の話を聞くと、その額に和田君も驚いているようだった。表情には出さずとも、俺の言葉を時折反芻していた。


「五千万ターラか……それは流石に難しいね。アサーガの国家予算並みだよ」


 そうして和田君は「立花君、君に渡した一億円も、なけなしのお金を集めたものなんだ」と続けた。語気は弱い。しかし、現状がどれほど深刻かを理解するには充分であった。


「こ、国王様はな! 自らの財産を売っ払って……ポケットマネーを貴様にお渡ししたんだぞ!」


 近くで待機していた近衛兵が涙ながらに語った。俺を叱るように叫ぶと、遂には感極まったのか号泣した。和田君はそれを諭し、黙って俯く。

 どうやら俺は物凄い迷惑を掛けていたらしい。ありがとうと言っていいのか、ごめんと言っていいのか。返す言葉が見つからなかった。


 一国の主と言っても、金銀財宝が有り余っているわけではないという事か。


 和田君は人が良いからな……俺みたいに困っている人に恵んだり、私財を分け与えたりしているのだろう。貧乏生活の出自で豪遊もしていないようだし。


「ぼくも少し知り合いを当たってみるけど。力になれなくてごめん」


「いや、そんな! こっちこそゴメン、急にこんな事言い出して」


 国王からお金を工面する事は出来なさそうだ。むしろ無理を言っている俺が謝る方なのに、和田君は頭を下げた。それを見ていた近衛兵はまた感動してしまったのか、咽び泣いていた。その様子を見て、思わずこちらも破顔しそうになるのを堪える。


 短い謁見の時間は終わりを迎え、俺は応接間を退室した。

 ひとまず転生者支援協会へ行ってみよう。それで何か収穫があれば良いが……。




 協会には前回、電話してから伺った。今回ふらりと来てしまったが、特に問題はなかった。役所みたいな感じで、基本的にどの手続きも行えるみたいだ。

 受付で相談をしてみる。前回断った職業の斡旋も検討していると話すと、専用の窓口を紹介された。そこで、俺はざっくりとした経緯を話し、大金が早めに必要だという事をアピールする。


「その……借金って、お幾らぐらいなんですか?」


 係りの女性が言いにくそうに尋ねてきたので、俺は包み隠さず「五千万ターラです」と告げる。


「ごせ……ッ!?」


 すると非常に驚いていた。眉根を寄せ、一瞬固まる係員女性。

 俺だって、ちゃんとこの世界の通貨を把握していれば驚いていたさ。エルフの族長に提示された時に。

 係員は困った様子で、パラパラとページを捲っていく。大金を一遍に稼ぐ方法でも探しているのだろうか。いや、ハッキリ言っておく。そんなものは――


「あ、ありましたよ。これなんてどうです」


 あるんかい!

 悪い仕事じゃないだろうな? 前世の事、俺は反省してんねんて……本当。


 係員に見せられたのは、依頼書(クエスト)だ。まさか、異世界転生、ここに来て急にクエストなんざやる事になるのか、俺は。


「魔王種を討伐するクエストです」


「え、魔王って居るんですか!?」


 声が大きかったのか、周囲から奇異の目で見られる。ビックリしてデカイ声が出てしまった。

 しかし、魔王が居るのか、アロファーガには。……そういや、ババ様が言っていたような?


「魔人、魔族、魔獣も居るんですよ? 前回……話しましたよね?」


 そういえば転生者向けの講座を受けた時、説明された気がする。

 ともあれ、魔王の首を持ってくれば討伐賃金としてお金が貰えるらしい。その報酬金額は、この依頼書によれば一千万ターラ。

 魔王を討伐できればお金が貰える。つまり魔王と戦って……勝たねばならない。


 ……俺に秘められた力があるとは思えない。っていうか断言する。絶対に無い。転生して、足がちょっと速くなったくらいだ。


 魔王種の討伐。これを達成した場合、一回で数億円規模のターラが動くらしい。

 これだけ高額な報酬が出される理由は、二つある。一つ目は、危険性だ。強大な種族であり、並大抵の人間や種族では力が及ばない。そんな相手を捕縛、もしくは討伐するのだから、命の保障はない。


 二つ目は魔王種の影響力によるものだ。魔王種による被害は自然災害に準えられる程に理不尽なものらしい。物理的な被害もそうだが、その経済的損失は計り知れない。そこに存在しているだけで、交通機関は機能を麻痺させ、物流は滞る。逆に居なくなれば、新たな路線の開拓、物流の増加、観光や産業の活性化。つまり、退治してしまえば、それだけ商業的成長が見込めるのだ。それゆえ、莫大とも言える報酬が、達成者には支給されるそうな。有益な情報を届け出た場合も、少しばかり報酬が貰えるようだ。


「魔王って何体も居るんですか?」


「いえ、そんなに多くは……確認されているのはティアマト、アスタロト、ルシファー、ベルゼビュート。この辺りですね。……どうします? 受けてみますか?」


「いやいやいや! 確実に死にますやん! やりませんて!」


 首を振って食い気味に答える。割と最近死んだばかりで、また死ぬのかよ。それは御免被りたい。前世は凍死……だったのかな。記憶が朧げだけど、痛い死に方ではなかった。だけどこれは絶対に痛い。四肢が爆散したり、内臓が破裂したりして死んでいくのは嫌だ!


 他に何かないか訊いた所、やっぱり無いみたいだった。強いて言うならギャンブル、と述べる係員女性だったが、口を真一文字にし、先程の依頼書を薦めてきた。


「いや、俺が勝てると思います?」


「で、ですよね……」


 そう口にすると、係員は依頼書を引っ込めた。何だか遠まわしに「お前は弱い」って言われたみたいで釈然としないが……詰んだ。ラクリマ探索……一筋縄では行かないな。


「何かないんですか?」


「ええ、そうですね……あとは、こういうのは協会では勧められないんですけど、地下闘技場で戦い抜き、ファイトマネーを貰うとか……」


「却下で」


「あとは迷惑系ユーチューバーになって動画を炎上させるとか……」


「うん、却下で」


 こんな事ならアスタの謎の仕事を請けておけば良かったか。いや、しかし十中八九、あれは悪事に加担する流れだった。それはちょっと、俺の善意が許さない。

 というかユー〇ューブあるのかよ。


 正直言って、この先俺に勇者の力が宿って、悪い奴等をバッタバッタと切り倒して世界を救うみたいな事もないだろう。

 直感だが……俺をこの世界に連れて来た神様だったら、きっとそうする。……神様、つまり、天使ガブリエルの事だ。


 あいつの裁量でこの世界に飛ばされたわけだが、こんな酷い目に遭い続けている。それって飛ばされた時点で運命が既に決まっちゃってるって事でしょ。この下半身と借金、それから教えてもらえなかったアロファーガの常識が欠如した結果、このザマ。過去は変えられない。だけど……


「未来は変えられる……」


「そうですよ! 頑張ってください。希望を捨てないでくださいね」


 罰が悪そうに告げる係員。

 俺は分かっている……この莫大な借金は返済不可能だ。所詮は他人事。励ましの言葉を掛けてはいるが、この女の人も無理だと悟っているのだろう。

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