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バイトテロ奇譚 ~人外娘を求めて旅立ったら呪われた~  作者: さっさん
第一章 獣食った報い
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第二十六話 脱糞した思い出

 指定された時間まで、まだ少しある。昼食がてら休憩がしたかった。俺の体というものは、絶望していても腹が減るようだ。アサーガを歩きながら店を選んでいく。

 ここで多少の小銭を消費したとて、五千万ターラの借金にクソ程の影響は出ないだろう。いっその事、今持っている金を全部使って豪遊して死んだ方が幸せなんじゃないか? いや……でもなぁ。前世の後悔がな……。叶うかは分からないけど、前世の皆に謝りたいっていう願いも果たせなくなるからな……。死ぬのはダメだ。


「ここでいっか……」


 俺は店の看板を見やり、中に入った。扉を開けたのは高級そうなカフェだ。エクセリオンカフェというらしい。

 景気付けに奮発するのも悪くない。……というか、そうでもしないとやっていられない。

 昼前という事もあって、店内は客で混み始めていた。そこそこ人気店なのかもしれない。内部はごく一般的な喫茶店のチェーンっぽい。落ち着いた雰囲気であるが、客数の割には静かだな、と思った。「店内でお召し上がりですか?」と聞かれたので、同意してメニューを眺める。


「えーと、それじゃあ、何にしようかな」


 この前ヴィータと訪れた喫茶店と違い、メニューがよくわからない。勿論、文字は読める。だが、商品のイメージが浮かばない。


 なんだ、パニーニって。


 パスタもあるけど、麺類の気分ではないし。最近は自炊する時に麺類が多いからね。具材と一緒に茹でて味付けするだけという工程が、初心者の俺にはぴったりなのだ。


「んーと、じゃあ、アイスメープルラテと……あと……」


 迷っていた所、ふと店内に異様な空気が流れている事を察知した。一瞬、自分がまたキメラマンと揶揄されているのかと思ったが、そうではないらしい。

 見渡すと、真っ青な顔をしている客、店内からそそくさと帰っていく客。従業員も怯えている様相だ。何かあったのだろうか。


 俺は自らのケツを慌てて触った。……良かった、ウ〇コは付いていない。小学生の頃、遠足に行ったら脱糞した覚えがあるからな……またやってしまったのかと思った。


 ……あの時は生きた心地がしなかった。当時も貧乏だった和田君。俺は彼とお菓子を交換したのだが、貰ったブツが腐っていたようなのだ。すぐに猛烈な便意を催した。


 だが、時は戦国時代。遠足という名のデスマーチが続いていて、近くにトイレがある筈もなく、同級生に前後を挟まれながらの行軍が続いていた。

 少しでも楽になりたくて……そう、屁をするだけ、屁をするだけのつもりで力んだ。括約筋を緩めるだけ。少し緩めるだけ……「左手は添えるだけ」の亜種のような呪言を唱えながら反乱軍(うんこ)を解放すると、ゼロ戦のプロペラみたいな音と共に奇妙な感覚を覚えたのだ。……俺のブリーフってこんなに重かったか。いや、重くない、と。

 咄嗟に機転を利かせた俺は「あ、ツチノコだ!」と言って茂みにダイヴする。慌てて確認してみれば……もう、そのアレね。広がっているわけよ、黒柿色の暗黒大陸が。


 阿鼻叫喚の地獄絵図に正気を失いつつ、俺はその後ノーパンで無事隊に合流した。誰も気付いていない。ホッと胸を撫で下ろした。そうして楽しい楽しいピクニックの時間は最悪の結末を迎えずに済んだ……と思ったのだが、そうは問屋が卸さない。当時、密かに思いを寄せていたクラスのマドンナ、美香ちゃんが言うのだ。――なんか、くさくない? と。


 結論を述べると、バレた。

 何故バレたのかは未だに分かっていない。誰かが一部始終を見ていたか、ケツにエビデンスがこびれ付いていたか。分からない。だけどあの時の、クラスメイトが俺を見る目……あれは忘れられないし、出発しようとしていた帰りのバスから蜘蛛の子を散らすように皆が逃げていったのは絶対に忘れない。

 そんな記憶が呼び起こされる程に、エクセリオンカフェの現状は似ている。皆が逃げるように出て行く。


「とんでもない負のオーラを感じて来て見れば……」


 店の入り口から声が聞こえた。振り返れば、妙齢の女性が居た。褐色の肌。白みがかったロングヘアー。頭部には山羊のような角。人外である。背中からは禍々しい翼が生えていた。

 その細い首や腕にはファーのような装飾があるのだが……布面積は少なく、体の大事な部分しか隠せていないようなファッションだった。抜群のプロポーションで、どこか高貴な雰囲気が漂う。

 初心な少年なら目のやり場に困っていた事だろうが、俺はガン見するスタイルを貫いた。


「ほほう、転生者の人間であったか」


 艶やかな唇から言葉が漏れる。お尻から伸びる一本の黒い尻尾が、ゆらゆらと揺れていた。悪魔だろうか。

 愉快げに話すその姿は可愛く、格好良く、エロイ。ちょっと前までの俺なら狂喜乱舞していた事だろう。


「えーと、サキュバスですか?」


「我をサキュバス扱いとは……まぁ、良い」


 どうやらサキュバスではないらしい。不快感を露わにしていた。彼女は腕を組むと、興味深そうに俺をジッと見てくる。


「怒り、憎しみ、後悔、それから絶望……あと劣情。様々な感情が渦巻いておる。素晴らしい逸材だ」


 よく分からないが、この人外女性は昼飯を食いに来たのだろうか。それとも一体、何をしに来たのか。俺にはサッパリ分からなかった。不審に思いつつ、俺はメニューを注文する。すると、人外女性が「待て」と割って入った。

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