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バイトテロ奇譚 ~人外娘を求めて旅立ったら呪われた~  作者: さっさん
第一章 獣食った報い
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第二十二話 フォルジュの村

 エルフの棲家はハイテクだった。どういう事かと言うと……電気が通っているようなのだ。俺の頭の中にあったファンタジーの概念をぶち壊しに来ている。尤も、電柱が町からずっと続いていたから察していたけど。

 言ってしまえばアロファーガに転生して数分で、どうせ俺の固定観念は全て砂塵と化しているようなものだ。


「電気、ガス、水道、全てオーケー。アタシの家、いいでしょ!」


 先頭を歩いているラフィリアはそう言うと、ニッコリと笑ってみせた。少女然とした笑顔に、俺の心が癒される。


 見渡すと、電柱、それから家屋に繋がる電線やガスボンベ……森の妖精という神秘的な印象はない。ただし家屋はコンクリートではなく、木造が多い。


「エルフっていうと魔法が使えて、自給自足みたいなイメージがあったんだけど……」


「だって、魔法よりも科学のほうが便利だし。エルフの里はどこもこんな感じですよ?」


 確かに、まぁ……そうだな。魔法が便利かどうかは知らないが、科学は便利だ。その波がエルフ界にも伝播した、というわけか。

 公園のワンカップおじさんが言っていたけど、エルフは頭が良い。頭が良いからこそ、良い物はすんなりと受け入れているのだろう。便利なもの、高性能なもの、役に立つもの。新しくて良いものを取り入れる心構えは立派だ。時代遅れで古い考えの人達も居る。……古くて良いものもあるけどね。合理的な考え方をしているのかもしれないな。


 そういえば、ワンカップおじさんに「エルフは人間を嫌っているから注意して」、みたいな事を教えてもらったけど……。


「ラフィリア、お前……嫌われてんのか?」


「ち、違いますっ! あなたでしょ!?」


 成る程な。視線が刺さる刺さる。

 あちらこちらから、誰かの視線を感じた。殺意はないようだが……あまり人間が来る事もないのだろうか。人間の来訪者に興味を抱いている、という塩梅か。


「はぁ……、言い忘れていましたが、この村は族長も居ます」


 呆れた物言いだった。ラフィリアはそう口にすると、立ち止まって前方を見据えた。俺も彼女に倣って前を見てみる。蔦に覆われた、古びた住居がそこにはあった。

 疑問に思っていると、ラフィリアはその小さな手でギュッと服の裾を掴んで言う。


「でも、アタシが案内できるのはここまでです」


「え、なんで?」


「その、ハグレなんです。アタシは他のエルフとはズレてますから……へへへ、私も嫌われてるんです」


 目を伏せるエルフ娘は、寂しげな表情を浮かべていた。

 当然ラフィリアも家の中まで付いて来てくれるものだと思っていたが、違うみたいだ。


 ズレている、嫌われている? ……はみ出し者って事か。どうやらこのエルフの界隈には何かがあるようだ。俺の頭に因習、悪習、そういった単語が浮かんだ。




 ラフィリアに促された住居は族長の家らしかった。平屋の木造建築で、他の民家よりも一際大きい。

 俺はラフィリアに礼を述べて族長の家、そこに続く石畳みの坂道を登る。途中彼女を一瞥すると、無言でこちらを見ていた。

 玄関まで辿り着くと、インターホンが設置されている事に気づいた。俺はボタンを押す。


「こんにちは、族長さんは居らっしゃいますか」


『はいはい……どうぞ、中にお入りくだされ……』


 スピーカーからはしわがれた声が聞こえてきた。取っ手を引いてみるとドアが開いたので、俺は一言述べてから足を踏み入れた。


 家具や壁紙は木をベースにしていて、自然のぬくもりが感じられる内装だった。どことなく北欧系のインテリアを彷彿とさせる。

 入ってすぐに客間……だろうか。対話スペースみたいな一部屋があって、その奥部に年老いたエルフが鎮座していた。ソファに悠々と座り、こちらを見ている。その横にはもう一人エルフが居た。


「タチバナと言います。人間の転生者です。……アンティークですか。良いご趣味をお持ちですね」


 俺がそう言うと、顎の髭を触りながら年老いたエルフが笑った。


「ほほほ、コンクリートよりも落ち着くのですじゃ」


 ソファは向かい合わせの形で二脚置かれていた。対面に座るよう促され、俺は腰を落ち着ける。

 間近で見ると、迫力のあるエルフだった。皮は弛み、皺だらけ。だが目の奥に宿る鋭さは、見る者に威圧感を与えた。……只者ではない。様々な修羅場を潜り抜けてきたに違いない。

 この貫禄、直感だが族長で間違いないだろう。恐らく、世辞や建前は通用しない。そう思っだ。だから、俺は取り繕うのをやめにした。


「昔は魔法が栄えていたんじゃが、発展と共に廃れてきてのう……」


 族長は力なくうな垂れる。先程とは打って変わって、好々爺のような雰囲気を見せた。

 そうは言っても、とんでもない緊張感が漂っている。俺の手の平からは汗が滲んでいた。


 昔、か。このエルフにとっての昔とはいつ頃の話なのだろうか。


「……失礼を承知で聞きますけど、お幾つですか?」


 疑問に思った俺は、前置きがてら尋ねてみる。すると、族長は小首を傾げた。


「はて、五百程までは数えておったのじゃが……もう分からなくなってしもたわい」


 少なくとも五百年前から生きているのか。地球で言うと十六世紀。大航海時代、貿易が盛んに行われていた頃だろうか。

 確か日本史で言うと『以後よく広がるキリスト教』でお馴染み、ザビエルが来たくらいだな。で……戦国時代の真っ只中に当たる。それぐらい昔から生きているという事か。


「そうでしたか。来るのは気付いてたかもしれませんが――」


 俺は唾をごくりと飲んで、本題へと入る。


「――族長さん、今日はお願いがあって来ました。……グランド・ラクリマはご存知ですか」


「ふむ、やはりそれか……」


 族長は腕を組んで何か考え込んでいるようだった。そして暫しの沈黙の後、一言「持っておるぞ」と答えた。

 俺がラクリマを探しているという事も当然看破しているのだろう。

 族長が今言った。「知っている」ではなく「持っている」。開口一番の初手で否定されなかった所を鑑みると、交渉の余地はありそうだ。

 しかし、一体何を考えているのか。飄々とした雰囲気で真意は分からない。俺は探り探り、会話を続けた。


「俺はこのキメラの足を直したくて、ラクリマを探してるんです。そのラクリマを……譲ってはいただけませんか」


「駄目じゃ」


 あっさりと切り捨てられた。族長は俺の顔面を見据え、微動だにしない。


 ダメか……。ちょっとはイケるかと思ったけど……でも、そうだよな……。そう簡単には渡しちゃくれないか。

 分かっていた。譲ってもらえる可能性が途轍もなく低い事は。ラフィリアに遭遇し、族長も発見できた事はラッキーだったけど。


 族長の目は……どこか面白がっているようにも感じられる。

 もしかして、この老人には何か腹案があるのではないか。


 ……いっその事ラフィリアを人質にして、暴れたらラクリマを譲ってくれたりしないだろうか。

 いや……駄目だ。それでは強盗じゃないか。


 俺が邪推していると、族長が口を開いた。


「じゃが、条件によっては譲ってもいい」


「マ、マジですか!」


「マジじゃ、マジじゃとも」


 俺が会話の続きを待っていると、族長は遠い目で語り出した。


「実は今、エルフの村は存亡の危機にあるのじゃ」



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