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不滅の旗

二年前のある日、アイン達はある村に着く。そこは見た感じだとどこにでもある平穏な村だが、そこに住む村人の顔が皆暗く笑顔が全く無かった。それに違和感を覚えた三人は村長の元へ行き、事情を尋ねる。初めは何もないと突っぱねていたが、何度も聞いていく内に根負けし他言無用と涙ながらに語るその内容に三人は憤りを感じた。

それはある日、Aランクパーティーの「不滅の旗」が近くを根城にし、魔物の侵攻から村を救ってくれたのを皮切りに町の護衛料として法外な金額を請求され、村から逃げ出したものは躊躇なく殺し、支払いが滞った時は村の子を奪い奴隷商人に売り飛ばし、その代わりに向こう三か月分の護衛料を免除し、それを断ると一番支払いの悪い家の女を村の中央で見せしめに代わる代わる犯していた。

「その女の人は?」

「翌日、旦那が目を覚ますと首を吊っていたそうです・・・」

「そう・・・。もう安心して、これからは怯えることなく暮らせるようになるわ」

リズはそう言い、村長の家を出る。

「安心してってどうするつもり・・・だ」

アインは問いかけるが、リズの小さな背中から感じる圧に言葉が詰まり、アイン達の背中を冷たい汗が流れる。

「決まっている。今から殺す。付いて来い、今は勇者の肩書が必要だ」

走り出すリズの後ろをアイン達は無言で付いて行く。

不滅の旗の根城は一見すると、貴族が住むような豪邸だった。

「ここか」

五キロの距離を休まず全力疾走したにも拘らず、リズは息一つ乱れることなく到着したその数分後、大量の汗をかき、息を乱す二人が到着する。リズは振り向くことなく二人に話す。その言葉は普段の様な楽天的な言い方ではなく、淡々と抑揚なく紡ぐ。

「・・・だらしない。まぁいい。お前たちをここに連れて来たのは勇者パーティーが解決したという名目の為だけだ。戦うのは私がやる。お前たちは間違えても私の指示なく勝手に動くな。・・・死にたくなければな」

この時の勇者パーティーのランクはA。それでも二人の脳裏には、指示に背いた瞬間に死ぬ未来しか浮かばず、分かった、と頷く事しか出来なかった。その言葉を聞き、右手を門に向けると突如門は、はじけ飛ぶ。

その音を聞き、中から数人の男達が現れる。その中の一人にアインとクライスは我が目を疑った。それは世界中でも数少ないSランク冒険者のサイスがいたからだ。二人は顔を見合わせ、いざとなればリズを助けようと頷く。通常、Sランク冒険者を倒すにはAランク冒険者が三人いると言われていた。

「誰かと思えば、最近メキメキと腕を上げている噂の勇者パーティー様。人の家の門を壊して一体何用で?って、そのお嬢ちゃんの顔を見れば分かるか。あーあ。こりゃ、お仕置きとしてまた若い女を全員が見ている前で犯さないとなぁ。次は死なないようにここに連れてきて飼うとするか」

サイスの言葉に周りにいる男達も下卑た声で笑う。

「クズ共が」

リズは右手を前に出し、勢いよく拳を作る。その瞬間サイス以外の男たちは倒れ、悲鳴を上げる。その声にサイスが驚き振り向くと、そこには足首から下がない男達がいた。サイスはリズに向き直り、剣を抜く。

「女。何をした?」

「リーダーはお前か?」

リズはサイスの質問には答えず、抑揚のない声でそう言い、ゆっくりと歩き出す。二歩目が地面に到着した瞬間、リズの首が落ち、身体は前に倒れ込む。

「ったく。妙なことをしなければ、飽きるまで可愛がってやったのに、バカな女だ。それで?次は勇者様が相手か?」

とサイスはアイン達に向かい歩き出す。

(一歩も動いていないのにリズの首が切られた?だめだ。俺達二人掛かりでも勝てる気がしない。だがそれでも)

アイン達は無言で剣に手を掛ける。

「指示は出していないぞ?」

「なっ!」

リズの言葉にいち早く反応したのはサイスだった。サイスは神速と呼ばれるほどの斬撃でリズの体を切り刻む。心臓を貫き、頭を二つに割る。サイスはふぅ、と短く息を吐き再びアイン達に向かう。

「どこに行く?質問に答えろ」

サイスは驚き、声のする方を振り向くと、そこには先ほどと変わらぬリズの体があった。サイスは、気のせいかと思い頬を伝う汗を拭う。再びアインの方へと振り向くと目の前に首の繋がった、無傷なままのリズがこちらを見ていた。眼前に突如現れたリズにアイン達も驚きの表情を浮かべる。

「リーダーはお前か?」

サイスは自身に強化魔法を掛け、先ほどよりも数倍速い斬撃を放つ。だが、その斬撃はいとも容易く二本の指で止められる。

(バカな!今の一撃は過去最速なんだぞ。何者だこの女)

「遅い」

とサイスの股間は、ぱきっと音を立て蹴り上げられる。声も出せず股間を押さえ倒れ込むサイスにリズは魔法を掛け、サイスの剣で左の土踏まずを刺し貫く。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

リズは足首を切られた男達にも魔法を掛け、微笑みながら屈む。

「お仲間も一緒に痛さで気絶しないようにしてあげたから、死ぬまで痛みを感じられるわよ。まぁ、死んでも蘇生してあげるから安心しなさい。本当に死にたくないでしょう?それと、あなただけには特別に重力魔法で体の動きを制限しているから、動きづらいでしょう?」

その言葉にサイスの顔から血の気が引き、額を地面に当て命乞いを始める。はぁ、と立ち上がり剣を引き抜く。その瞬間サイスは隠し持っていた短剣でリズの太ももを突き刺す。

「アッハッハッハ。女、油断したな。この剣には即効性の毒と麻痺の呪文を付与している。助けてほしくば、俺に忠誠を誓えぐあぁぁぁ!」

リズは右の土踏まずを刺し貫き、太ももに刺さった短剣を引き抜く。

「だから?」

その時、サイスはどうやっても勝てない人間がいる事を悟り、心の底からの命乞いをする。

「両手を重ねろ」

言われるがままに両手を重ねた瞬間、短剣がその上から一気に根元まで埋まる。

「そろそろ答えろ。質問の答えは?」

サイスは涙を流しながら、リーダーは中にいる、と言い許しを請う。

「分かった」

と、魔法で細身の槍を作り出しサイスの両足、腹部、首を刺し貫き他の者には人数分のゴーレムを作り出し、炎を纏った鋸で足首から一センチずつ切り刻む、炎は止血を兼ねている為失血死はなかった。

「ちなみにあなた達はそのゴーレムを倒すか、死ぬかしか道がないから」

そう言い、リズは屈みサイスに優しく伝える。

「呼吸器系が破壊されたのに生きているって不思議でしょ?あなたは私の許可なく死ねないから。それに、中にリーダーがいなかったら簡単には死ねないわよ」

サイスは体をねじらせ、口をパクパクと動かし首を振る。

「首から空気が漏れているのが分からない?あなたはもう、発声なんて出来ないのよ。ちゃんと中にリーダーがいるなら、直ぐに後を追わせてあげるわ」

と冷たく言い放ち、アイン達を連れて屋敷の方へと歩き出す。リズは血が這った跡が中へと続いているのを見て、微笑みを浮かべる。

(手間が省けて良いわね)

中へと入った途端、上級魔法がリズ達三人に放たれ、その直後複数の斬撃と打撃が三人を襲う。だが、悲鳴が上がったのは不滅の旗のメンバーからだった。

魔法による煙が晴れたそこには、リズ達三人に掛けられた魔法、物理攻撃の反転により無傷の三人がいた。リズはメンバー達に先ほどと同じように痛さで気絶をしないように魔法を掛け、細身の槍で四肢と腹部を刺し貫く。そして、その傷口から徐々に火が燃え広がり体を覆っていく。リズは泣き叫ぶ声を無視し、探知魔法で見つけた魔力反応の方へと歩き出す。

アインとクライスは地獄絵図の様なその光景に目を背け、無言で付き従う。

奥の部屋の扉を開けるとそこには、紅茶を飲みながら読書をする男の姿があった。男はリズ達の姿に驚き、声を上げ立ち上がる。

「な、何だお前らは!他の者はどうした!」

リズはそれに答えるように指を鳴らす。その瞬間、屋敷中に泣き叫び許しを請う声や、怨嗟の声が響く。

「戦闘箇所をずっと防音にしていたのよ。静か過ぎて不思議に思わなかったのかしら?少なくとも、門が破壊された音ぐらいは聞いたでしょうに」

男はその瞬間、サイスですら倒したであろう目の前の女に恐怖を覚え、気付けば震えながら床に額を擦り付け許しを請うていた。

「・・・リーダーはまさかあなたじゃないわよね?」

男は、リーダーは遠征に行っていると答える。リズは男に近づき、肩に手を置く。

「なるほど。つまり、最初からいなかったのね。リーダーの名前は?」

「ま、マールです」

「分かったわ。興醒めしたし、あなたは楽に殺してあげる」

と男は懇願するように顔を上げるが、突然苦しみだし口と鼻からは火が噴き出す。

「と言っても、内部から焼かれるのだから他の者と比べると楽っていうだけだけど」

動かなくなった男に目もくれず、リズは屋敷を出てすかさずサイスの体に雷撃を打ち込む。サイスは痙攣し、力なく項垂れるがリズは槍を霧散させ倒れ込む腹部に蹴りを入れる。サイスは夥しい血を吐き腹部を押さえ蹲る。

「その血の量は、内臓が破裂したのかしらね」

と魔法で小さな蟲を作り出し、サイスに投げる。蟲は孔の開いた喉から体内へと侵入する。少しすると、サイスの喉から空気の漏れる音が聞こえ、痛みにのたうち回る。

「大丈夫よ、死なないから」

サイスは腹這いになりながらリズの足にしがみつき、懇願の涙を流す。が、リズの顔からは僅かな笑みが消え、サイスの顔を蹴り飛ばす。

「何を勝手に触れているの?汚れたでしょ?それよりあなた、リーダーは中にいるって言ったわよね?」

その言葉にサイスの顔が恐怖に染まり、震えだし土下座をする。リズはサイスの喉を治し続ける。

「あの人数なら私を倒せるとでも思ったのでしょうけど、残念ね。私からすればあなた達の力なんて児戯にも等しいわ。現にあなたに頭を両断され、心臓は貫かれても生きているでしょう?・・・まぁいいわ。あの町への掠奪は誰の指示なのかしら?」

そう淡々と話しながら近づくその目は、簡単には殺さない、と言っているようだった。

「り、リーダーの指示です」

そう、とリズは右手をサイスの肩に置く。その瞬間、サイスは腹部を押さえのたうち回る。

「さっきは蟲が暴れただけ、今は食事をしているわ。あなたが正直に話せば楽に死ねたのにね。私は触れたものの記憶が読めるの。あなたは好きにしろという言葉を受けただけで、掠奪はあなたの指示ね。それと、あなたがここで奪った命は15人。なら、少なくとも15回は死なないとね」

言い終わると、サイスの体は変貌し一本の木へと変わる。

「体が変わり、動くことも話すことも出来ないけれど、五感ははっきりとしているでしょう?その蟲があなたを食い殺すのに、一年。つまり、今の状態だと16回目の死があなたの死になるわ。まぁ、蟲から解放された所であなたの体は根が腐り果てた木として生きるだけ。つまり人で言う所の餓死があなたの死因ね」

リズは振り返り、右手を上げるとゴーレムに体を切り刻まれているメンバーをサイスの元に運ばせ、精神操作の魔法で全魔力をサイスに注がせる。注ぎ終わった者は朦朧とした状態で、再び切り刻まれる。リズは木に触れ笑顔を向ける。

「よかったわね、仲間のおかげであなたの寿命は延びたみたいよ」

リズは顔面蒼白のアイン達に微笑み、村へと戻るように声を掛け歩き出す。徐々に燃え広がる屋敷と、小さな呻き声に連動するように響く骨を切る音を背中に聞きながら、アインとクライスは重い足を一歩ずつ前へと出す。

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