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特訓

二時間後。

「リースさん。私に魔法を教えてください」

とライラは突然頭を下げる。

「どうして?今でも十分に戦えているじゃない」

「私は、無詠唱も使えないし魔法の威力も低い・・・何より掛けてもらった回復と強化魔法の効果には驚きました。何か、自分の鍛え方が違うような気がして・・・」

「・・・そうね。今のままでは魔力量は増えてもあなたの求める結果は付いてこないわね」

とステーキと酒のおかわりを注文するリース。その姿にトウヤとセイルは驚きの表情を浮かべる。

(これだけ食べて、まだ食べるのか・・・)

トウヤ達がそう思っていることなど知らず、ライラは話を続ける。

「だ、だったらどうすればいいですか?」

「四人の中で、あなたは一番簡単よ。魔力の練り上げを鍛えなさい。そうすれば、同じ魔力消費でも効果は桁違いに上がるわ」

「練り上げ。そこは考えた事が無かった・・・分かりました師匠!明日から毎日やります!」

「し、師匠?いやいや、そんな大それたことは」

「そんな事よりリースさん。今、四人の中で。って言いましたよね?という事は私たちの足りない部分も分かるって事ですか?」

そんな事ではないのだが、と思いつつも、マリの言葉に、えぇ。と頷くリース。

「じゃ、じゃあ私から教えてください」

全員分の指摘をする流れに面倒くさいことをしてしまったと、内心思うがとりあえず運ばれてきたワインをグラスに注ぎ、一口付ける。

「マリは着眼点自体は良いと思うわ。けれど、攻撃を加える事だけが目標になっている所がある。それよりも先ずは、彼我の戦力差を考え、反撃が来る事も考慮しないといけないわ。今日みたいに反撃を受けたぐらいで取り乱して、必要以上の攻撃を加えていると後ろでセイルが言っていたように、その間に増援が来る事もある。もし、あの時敵が弓で狙っていたら最悪死んでいたわ」

マリは自分でもある程度は分かっていたのか、それを言葉にされ落ち込む。

「ありがとうございます」

頑張ってね、とリースはステーキを切り、口に運ぶ。

「俺は今日、自分が出来る事と使命感で迷惑をかけてしまった。リースさん。俺はどうすればいいですか?」

「セイルは正直、このパーティーの中では唯一のCランク相当の実力を持っているわ。足りない事と言えば、もう少し周囲に目を配り、来た攻撃をどう捌けば味方が動きやすく倒しやすいのか?そして観察力を養って、敵の動きを読めるようになれば、ゴブリンの数匹程度なら一人で倒せるようになるわ。でも今回の様に自分が助かる事を考えない殿はただの自殺行為よ。あの時、あなたが殿を務めていたとしたらすり抜けたゴブリン達が逃げるトウヤ達を襲っていたでしょうし」

「あ、ありがとうございます。そうか、確かに先の事までは考えが回らない事があるな・・・それにあの時は確かに死を覚悟したが、すり抜けられる事までは考えていなかった・・・」

セイルはぶつぶつと考え込む。

「さて、正直な所あなたがこの中で一番問題点が多いのだけれど、聞く?」

トウヤはグラスに入ったワインを一気に飲み干す。

「もちろん!どんとこいだ!」

「・・・先ず、あなたはリーダーとしてもっと全体を見られる視野を養う事。幼馴染だからと言っても細かい指示がないと伝わらないし、なにより相手が自分と同じことを考えている訳ではない事を自覚する事。そして、決断はもっと早く的確に。悩む時間が長ければ長いほどダンジョン内では、死が近づくと思いなさい。あなたは、戦闘の仕方云々の前にリーダーとしての心構えを養うのが先よ。そこだけ何とかすれば晴天の絆はすぐにCランクに上がれるだけの力がある。とりあえず、今直すべき所はこんな所ね。頑張ってね」

「・・・はい。がんばります」

落ち込むトウヤを励ます三人を見ながら、リースはステーキを食べる。

(この子たちは素直に人の意見を取り入れることが出来る。その気持ちをランクが上がっても忘れずにいれば、Bランクもすぐにいけるわ。頑張って、晴天の絆)


その夜、トウヤ達と解散したリースは宿の前に立つクライスを見て立ち止まり、大きな溜息を吐く。

「事情を説明してもらうぞ」

リースに気付いたクライスは近寄りながらそう言い、近くに停めていた馬車に乗り自分の屋敷へと移動する。十分後、馬車の中で魔法を解いたリズは馬車から降り驚きの声を上げる。

「これは凄いわね。これはひょっとして王様に貰ったの?」

「これとか言うな。まぁ、そうだな。「一応、爵位を貰った手前それなりの家に住まねばなるまい」と頂いた」

「へぇ。大出世ね。どこにでもいる生意気な二人が今は爵位持ちと、王族ですもんね。人生分からないものね」

としみじみ言うリズにクライスは笑顔を向ける。

「これも全てお前のおかげだ。さぁ、中に入ろう」

と案内され、クライスの私室で座る二人。リズは事の顛末を話し、自身が張った結界を解く薬を渡す。クライスは明朝にAランクパーティー一組とBランクパーティー二組を討伐に向かわせる事を約束し、その夜は帰るのが面倒くさいとリズは客室で泊まった。


翌日、リースへと戻り昨晩トウヤ達と約束した時間にギルドに着き、トウヤ達と合流し向かったのは、前にトウヤ達がイビルベアに襲われていた場所だった。

「ここは、俺達がイビルベアに襲われ何者かに助けられた場所で、俺達がもっと強くなりたいと思った場所なんです。だから、ここで特訓をつけてください」

昨晩、トウヤが落胆状態から復活した第一声が、俺達に特訓を付けてください、だった。その言葉にリースは週に一度ならと了承しその一回目が今日だった。

(一回目の特訓を翌日にする辺り、相当気合が入っているのね)

リースは、地面から三体のゴーレムを作り出す。

「それじゃあ、先ずはこのゴーレムと戦ってもらうわ。勿論全員でね。ゴーレムの強さはEランク程度。これぐらいは余裕よね?」

その言葉にトウヤ達は陣形を取り、構える。

「お願いします!」

四人の言葉を合図にゴーレムが動き出す。

(先ずは、考える相手にランクでの見方は無意味と知りなさい)

とリースは昨晩の酒場での会話を思い出していた。それは、トウヤが特訓を付けて欲しいと言った時の話だ。

リースはトウヤの言葉にグラスを置き、真剣な表情で話す。

「・・・G~Fランクまで上がるのは少し頑張れば誰にでもなれ、F~Dへはある程度の強さがあればいい。なら、D~Cに上がるのに必要なものは何か分かる?」

トウヤ達は顔を見合わせ話し合い結論を出す。

「個々の強さですか?」

その言葉にリースは首を振る。

「それは冒険者としてのランク。パーティーランクを上げるには、それも必要だけれども今のあなた達に必要なのは、個々の強さではなくパーティーとしての強さ。つまり、連携と想像。この二つが揃えば直ぐにCランクに上がれるわ」

リースはワインを一口飲み、質問をする。

「あなた達はどうして強くなりたいの?」

その問いにトウヤは真っすぐにリースの目を見据え、答える。

「俺達の生まれ育った村は、昔魔物に襲われて半壊したんだ。誰もが死を覚悟したときに救ってくれたのは、勇者様達だった。俺達はその背中に憧れ、いつか強くなって今度は自分達で村を守るんだと誓ってこの町に来たんだ」

その目に信念を感じたリースは微笑み頷く。

「分かったわ。申し出を受けましょう」


息を切らせ、倒れ込むトウヤ達にリースは指摘をする。

「先ず、セイル。あなたはマシになっているから、後は周囲への警戒を怠らない事。敵は眼前だけとは限らないわ。マリとライラは昨日言われたことをしっかりと意識して出来ていたわ。あなた達三人は取りあえず及第点」

その言葉に心配そうな視線をトウヤに送る三人。

「トウヤ。ゴーレムが一体ライラ達に向かって行くのを認識しながら、あなたは目の前のゴーレムの相手をしていたわね。途中、横目でライラ達が対処しているのを見て大丈夫だと思ったのでしょうけれども、あれが不意打ちになり、ゴブリンよりも強い相手だったら最悪ライラ達はやられ、全滅してもおかしくないわ。あの時にリーダーとしてすべき事は、ライラ達に敵が向かった事を伝える事。それと全体の把握に努めパーティーを立て直すこと。それが無理なら、セイル達に状況を聞くなりする事も大事よ。あなたは一人で戦っているんじゃない。仲間を無事に帰すこと、それが最優先よ。もちろんあなたも含めてね。それに、これは練習なのだから色々と試しなさい」

とトウヤ達の傷を癒し、パンっと手を叩く。

「じゃあ、今の話を踏まえてもう一度」

とリースはゴーレム達に距離を取らせ、再び襲わせる。


その日の夜。リース達は反省会を兼ねて食事を摂っていた。四人はお互いの足りない部分を指摘し合い、また要望を出し時にはリースの意見を聞きながらも各々すんなりとそれを受けいれる。

リースはその光景にアイン達との旅を思い出していた。

(あの子たちも特訓が終わった日は毎回こんな光景だったわね。懐かしく感じるわ)

優しく笑うリースにセイルは問う。

「リースさん。あのゴーレムは本当にEランクなのですか?戦った感じだとDランクはありそうでしたが」

その言葉に、トウヤ達は深く頷きリースを見る。

「間違いなくEランクよ。後半は一体倒せたでしょう?そんなに強かった?」

「確かに言われてみれば、一体だけだとそんなに強くなかったな。あれ?じゃあ、なんであんなに強かったんだ?」

トウヤの疑問に四人は考え、マリが口を開く。

「連携していたからじゃない?」

「多分それね。セイルとトウヤの相手をしながら、残る一体は状況に応じて動いていたし」

ライラの言葉にトウヤは驚きの声を上げる。

「そうなのか?ずっとセイルに二体いるものだと思っていた」

「そりゃね。残りの一体はあなたの死角に入るように動いていたし、気付かないのも無理はないわ。なら、残りの一体はどうすれば見つけられるのかしら?」

リースの問いにトウヤはハッとする。

「そうか、俺が距離を取るか皆に聞けば良かったのか。確かにあれが実戦で、もう少し強かったら・・・」

言いながらトウヤの顔は青ざめていく。

「言われた意味が分かった?前から来て、数が分かっている状態でもそうなるの。もしそれが、後ろからも来ていたら?数が分からない相手だったら?そんな相手には今日と同じ戦い方じゃあ通じないわ」

とリースはワインを一口飲む。

「確かにそうだ。俺がもっと周りを見てトウヤの死角を把握しておけば」

「それを言ったら、私は後衛だから全体を見られるわ。でも、前衛のあなた達に任せて来る敵にばかりに気を取られていた」

「私もそう。状況に応じて動いていたのに、ライラに向かってくるゴーレムの相手をしていただけだった」

「はいはい。落ち込むのはそこまでにして、反省は帰ってからでも出来るでしょう?今は食事を楽しみましょう」

落ち込む四人にリースは明るくそう言い、食べるように促す。

(この子たちはまだまだ強くなれる。Cランクぐらいなら数週間でなれそうね)


数日後、ギルドから帰ってきたリースは宿の前に見慣れた男がいるのを見て、踵を返す。

「待て、なぜ逃げる」

数秒後、肩に手を置かれ引き留められる。

「なんか、面倒くさい気がしたからつい」

「はぁ。お前は本当に面倒くさい事から逃げる癖は変わらんな。まぁ、いい屋敷に来い。話がある」

とクライスはそう言い、歩き出す。リースはその隙に逃げようと後退るが

「逃げてもいいが、お前が戻るまで俺はあそこで待っているからな」

背中越しにそう言うクライスの言葉にリースは溜息を吐き、渋々付いて行く。

「準備してくるから先に屋敷で待っていて」

宿の前に立ち笑顔で言うリースにクライスは真剣な顔で答える。

「分かった。なら、さっきも言った通りここで待つとしよう」

逃げられないと悟ったリースは、分かったわよ、と宿に入って行く。

リースはいつもよりも時間をかけ、入浴と着替えを済ませた頃には二時間は経過していた。宿を出ると変わらず立つクライスに溜息を吐く。

(まだいるの?諦めが悪いのは相変わらずね)

「たかだか準備に時間掛け過ぎじゃないか?そうすれば俺が諦めると思っていたのだろうが、無駄だぞ?」

リースの姿を見たクライスは真剣な顔で威圧的にそう言う。

「女の子は準備に時間がかかるのよ。野宿じゃないんだし、そんな事も分からないからあなたはモテないのよ」

と悪びれる事もなくそう返す。

「ぐっ。相変わらず減らず口を。モテなくとも結婚は出来るから良いんだよ」

と馬車に乗り込むと同時にリズに戻り、驚きの声を上げる。

「結婚!?あなたが!?一体どんな物好きな子を捕まえたのよ」

「失礼な。まぁ、その子爵令嬢だ」

その言葉に前のめりになったリズは椅子に深々と座り、溜息を吐く。

「あぁ、伯爵様との政略結婚ね。おめでとー」

「急激に興味が消えたな。それに俺達は会って間もないが、心の底から愛し合っている。俺は彼女と出会い分かった。愛は時間ではないのだと。まぁ、高望みしすぎて無縁のお前には分からんだろうが」

「どうせ、私には分からないわよ。それに、あなたが平民のままで出会ったとしても同じ状況になるの?なるならその言葉に信憑性は出るけど?」

「ぐっ。な、なるに決まっているだろう。嫉妬とは見苦しいぞ」

「ふーん。そう」

とせせら笑うリズにクライスは悔しそうな顔を浮かべる。

(くっ。いつも気付いたら俺が負けている。今回は悔しがるリズが見られると思ったのに)

「そう言えば、私これから食事に行くつもりだったからお腹空いているのだけれども?」

その言葉にクライスは自信に満ちた顔で答える。

「今日はうちのシェフ達に、パーティーを開くぐらいの量を作るように言っている。楽しみにしていてくれ」

「そんなの初めに言いなさいよ。それなら今日は久々にお腹一杯食べられるかなぁ」

恍惚な表情を浮かべるリズ。

(そうだ、こいつはただ飯なら直ぐに動くのだった。くそっ!あの待ち時間は一体なんだったのだ。と言うより、リズのあの顔、まさか全部食べられるのか?・・・念のため戻ったら、食料の調達をさせよう)


屋敷に着き、食堂に通されたリズは執事の案内を無視して駆け寄り、クライスの言葉も無視して食べ始める。

「・・・お前達、リズの空けた皿の回収と食べ物を目の前に運んでやれ、それからセバン。厨房に行き、料理を余らせても良いから食材を全部使いきるように指示をするのと、食材と酒の買い出しを買えるだけ買って来させろ」

クライスの指示に従い、メイドと執事のセバンは動き出し、自身はゆっくりと着席をする。気付いたメイドは、どの料理をよそうかを聞いて来たがクライスはそれを断り、リズに付くように指示を出す。

三時間後、晩酌を楽しむクライスの元にセバンが声をかける。それは買ってきた食材を含め、食料が底を突き、後は備蓄用しかないと伝える。それを聞いたクライスは、申し訳なさそうにリズを見るが、話が聞こえていたのか残念そうな表情を浮かべ、グラスに入ったワインを飲み干す。

「そっか。もう終わりか。仕方ないわね。ありがとう、もう良いわ。おかげで食べるのに専念できたし」

とメイド達に回復魔法を掛ける。メイド達はお礼を言うが、リズは笑顔で返し食事を再開する。

「なぁ、リズ。今まで満腹になった事はあるのか?」

食べ終わり、皿を下げて貰いながらグラスに入ったワインを飲み干し、次はブランデーと保存食のナッツを少し欲しいとメイドに伝えクライスの質問に答える。

「竜を食べた時はなったわよ」

「はっ?竜?あの巨体を一人で食べたのか?一体何百人前なんだ・・・この町中の食料でも持って来なきゃ満腹にならないんじゃないか?」

(と言うより、あの小さな体のどこに入るんだ?あれだけ食べても腹も出ないし・・・まぁ、聞いてもはぐらかされるだけだが)

「ありがとう。もう食べないから、美味しかったってシェフ達にもお礼を言っておいて。後、この水を飲ませてあげて疲労回復の効果を付与させているから」

と酒とナッツを持って来たメイドに伝えるリズ。

「そろそろ本題に入るがいいか?」

「聞かなきゃだめ?」

「これだけもてなしたんだ。諦めて聞け」

真剣な面持ちのクライスの言葉にリズは諦めて聞くことにした。

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