冒険者リース
数か月後。城下町へと戻った三人は、兵に促されるままに用意されていた凱旋パレードの中心へと連れられ、そのまま王城へと帰城し王に討伐報告を済ませ、夜は凱旋パーティーが国中で開かれた。
三人は王の計らいで疲れを癒せるように城に泊まり、まだ余韻の残る数日後。三人はアインの部屋に集まりこれからどうするかを話す。
勇者であるアインは王女と結婚し、王族の仲間入りを果たし次期王に。クライスは冒険者ギルド長になり、後進を育てる道へと進む事が決まっていた。
「リズは何をするんだ?口止めされたから言わなかったけれども、実質魔王を倒したのはリズだろ?その実力と膨大な知識があれば何にでもなれるんじゃないか?」
「パーティーを組む時に初めに言った通り、私は気ままにのんびり過ごしたいの。だから目立つ事はしたくない。あなた達と組んだのは、鬱陶しい魔王を退治する人材だったからってだけよ。まぁ、当分はこの町で顔と名前を変えて、冒険者家業を一から始めるわ」
アインの問いにリズはそう答える。が、二人はその答えに声を上げて笑う。
「お前は本当に読めないな、リズ。一から始めても面白くない依頼ばかりだぞ?」
「問題ないわ。何度もしているから。それに、私からすれば魔王との戦いも面白くなかったわ。もうちょっと歯ごたえがあると思ったのに・・・」
クライスの言葉にそう返すが、その言葉にアインとクライスの顔は引き攣る。
「あれだけの強さで面白くないとか、もうこの世にお前を楽しませる相手はいないんじゃないか?」
「戦闘としてはそうかもね。でも、あなた達への特訓は楽しかったわよ」
アインの言葉にそう笑いながら返すリズ。だが、二人の脳裏には特訓で毎日ボロボロにされて、嗜虐的に笑うリズの顔が思い出され二人は引き攣った笑いを浮かべる。
数日後。城から出たリズは魔法で姿を変えリースと名乗り宿を取り、冒険者登録のためにギルドに来ていた。リズは登録時に行われる魔力測定の水晶に手を翳し、力を抑え平均より少し高いぐらいに調整し登録をした。
「はい。登録が完了しましたので、こちらがリースさんのランクを示すプレートになります。ランクが上がれば報酬の高いクエストを受ける事も出来るようになりますし、頑張ってくださいね」
と受付嬢から表にアイアン、裏に名と登録日が刻まれた銀のプレートを受け取り、首から下げる。初登録のリースのランクは最低ランクのGだった。
受付嬢はクエスト終了後にプレートを持ってくると実績として記録され、報酬を貰える事とランクはS~Gまであり、下からアイアン・リード・ブロンズ・シルバー・ゴールド・ダイヤモンド・プラチナだと教えてくれた。
説明を受けたリースは、壁に貼っている依頼掲示板から初心者にとっての定番である薬草採集の依頼を受ける事にした。
(あぁ、気楽な依頼って良いわね)
と、近くの森で薬草採集をしているリースは近くで荒ぶる獣の咆哮を聞き、手を止め探知魔法を使う。
(何かに追われている?冒険者かしら?)
胸騒ぎがしたリースは、声の主の元へと急ぐ。
(あれはイビルベア?どうしてこんな所にBランク相当の魔物が?)
通常、魔物のランクが上がるにつれ人里からは離れた場所に生息するため、薬草採集をする程の近場には高くてもEランク相当の魔物ぐらいしかいなく、そんな魔物でも初心者が遭えば運が悪かったと言われるほどに滅多に遭遇しなかった。
そしてBランク相当の魔物はBランクパーティーで何とか討伐出来る程と言われ、そんな魔物が近場に現れるのはあり得ない事だった。
(まずいわね。あのパーティーは大体Dランクぐらいかしら?その上負傷者もいるし、ここまで逃げられたのはイビルベアが遊んでいたからね。それももう終わりみたいだし、助けないと夢見が悪そうね)
リースは隠蔽の魔法で姿を消し、襲い掛かろうとするイビルベアに落雷を落し、絶命させ驚き立ち止まる冒険者達の傷を範囲魔法で癒し、無事を確認した後薬草採集へと戻る。
一時間後、依頼達成の報告にギルドに戻ってきたリースはギルド内が騒がしい事に気付く。受付嬢に聞くとDランクパーティーがBランクの魔物の死体を持って来た事で、周りの冒険者達に質問攻めをされているとのことだ。
(まぁ、そりゃそうよね。あんな所にBランクの魔物がいるなんて、私ですら驚いたのだから)
リースは我関せずと達成報酬を受け取り、宿へと戻る。
その日の夜。リースは夕食を食べながら、イビルベアがあの場所にいた原因を明日調べようと決めワインを飲む。
(それにしても、私の事じろじろと見すぎじゃないかしら?)
と目の前のテーブルに積まれた皿に目を移す。
(あぁ。長い間お店で食べてなかったから忘れていたわ。数人前程度で注目されるのだったわね。そう言えば、初めてアイン達とお店で食事したときは私を見て呆然としていたわね。ちゃんと抑えて食べているのに。まぁ、数日もすれば慣れるでしょ)
リースは、会計を済ませ立ち上がる。店員には体調を心配されたが、美味しかったからまた来ると伝え店を出る。