死なない魔法使い
光が射さない暗黒の大陸、通称暗黒大陸。その中心に聳え立つ、魔王城の中は差し込む淡い月光と魔法で作り出された火が光源となっていた。
ここは謁見の間。本来なら王が家臣達や、来客と会う際に用いられるのだが今は激しく争う音が響いていた。
10m程の大蛇が下半身の魔王は拳を振り下ろす。
「アイン!右だ!」
勇者アインは拳を避けた直後に聞こえるその言葉に、躊躇なく高く飛び、後方宙返りで着地する。目の前を魔王の尻尾が風切音を立てながら通過する。
「助かったクライス。はぁ!」
アインは戻っていく尻尾を切りつけ、そのまま連撃で上半身を切り上げる。
「ぐあぁぁぁぁぁ!」
魔王の咆哮が大気を震わす。戦士クライスはアインと共に魔王の攻撃を避けながら切りつける。
「くそっ!これだけ切りつけても、攻撃を避けている間に再生してしまう」
アインは自分たちが付けた傷が塞がっていくのを見ながら、力を高める。
「だが、それにも限界はあるはずだ」
クライスの言葉にアインは、そうだな、と頷き二人は魔王が吐く炎の息を左右に避ける。
二人はそのまま攻撃に転じるが、尻尾と拳が各々を襲い二人は吹き飛ばされる。
「ぐっ。リズにかけてもらった強化魔法越しでもこれだけの威力か。さすがは魔王」
アインがよろめきながら立ち上がると、尻尾の先にある口が呑み込もうと口を開けながら迫りくる。アインはそれを紙一重で避け、剣を振り下ろす。
「なっ!バカな、さっきよりも固く。くっ」
アインの一撃は鱗に傷を付ける事が出来ず、驚き止まるアインの前に大蛇が迫るが大蛇の瞳を見た瞬間から体が硬直する。
「アイン!」
とクライスはアインの横腹を蹴り飛ばし、大蛇の一撃を回避する。
「止まるなアイン!」
「悪い。あの蛇の目を見ると動きが・・・」
その時、二人の後ろから声が響く。
「アイン!クライス!その蛇の目は相手の動きを一瞬止める力があるわ!もっと全身に魔気を広げなさい!それと、これが最後の強化よ」
と魔法使いのリズは二人に身体強化の魔法を掛ける。二人の攻撃力と防御力、そして速度までもが一気に跳ね上がる。
「クライス。もう後はない!これで仕留めるぞ!」
「了解!」
と二人は体内に流れる気と魔力を融合させ、魔気と呼ばれる強化の一種を使い全身に広げる。これにより二人の能力値は上がり魔王に攻撃を加える。
魔王は両手に赤と青の球を作り、大蛇の口からは黄色い球が作られた。魔王はその三つを同時にアイン達に放ち、球は円を描き重なり一つの黒球となり二人に迫る。二人はそれを切りつけた数瞬後、黒球は四つに分かれ霧散した。
「うおぉぉぉ!」
大蛇に迫るクライスは首を切り落とす。
「ぐあぁぁぁぁ!」
魔王の咆哮が城内に響き渡る。
「天地剣!」
その隙にアインの剣が魔王の体を両断し、力なく二方向に倒れる魔王の体。
「やったか?」
息を切らせ、膝を付くアイン。だが目の前の魔王の体から、黒い靄の様なものが立ちあがる。
「二人とも、直ぐにそこから離れて!」
リズは二人にそう言い、枯渇しかけている二人に魔力を分け与える。二人はリズの指示に従い走り、距離を取る。
黒い靄は魔王の体を吸収し、やがて人型を形作る。その力は先ほどまでとは、桁違いのものだった。
「これが魔王の完全体・・・」
そう言うアインと無言で剣を構えるクライスの背中を冷たい汗が伝う。
「殺してやる・・・人間どもがぁ!!」
と魔王の体は消え、次の瞬間には光る槍が魔王を玉座に張り付けていた。
「ぐぁぁぁぁぁ!一体何が起こったのだ!おのれ、こんなもの。ぐっ。びくともせん。我は神をも屠る魔王だぞ!その我を・・・」
魔王は身を捻り、力を更に凝縮させるも槍はびくともしなかった。
「アイン。剣を」
リズはアインの元へと歩き、そう言い刀身を指でなぞる。仄かに光るそれはアイン達ですら測れない程の力を内包していた。
「これでアレに止めを」
「了解」
アインは玉座へと走る。
「なんだその力は・・・女!貴様は一体何者だっ!くっ、来るなー!」
魔王の言葉も虚しくアインの剣は魔王の首を刎ねたと同時に、消えゆく光る槍。そして、断末魔を上げ徐々に霧散していく魔王の体。
「何者って、私はただの美人な魔法使いよ」