バイオディーゼル、頑張らない、百万馬力
「おい、いつまでここにいるつもりなんだよ」
「朝が来るまで」
暗い教室で1組の男女が会話をしていた。
最初に声をかけたのは鳥海鷹次郎。調査に出かけようと、震える月山薫を説得しているが、彼の足も震えており、本心では行きたくないことがうかがえる。
「朝まで待ったって、あの先生が出してくれる保証はないだろ」
「じゃあ、ずっとここにいる」
「無理だろ、腹減って死んじまうよ」
「光合成できるようになるもん」
恐怖のあまり、人間を越えようとする月山。口調も相まって尋常な様子ではない。
「もんって……。無理なものは無理だよ」
「じゃあ、光合成できる植物を取り込んで生活する」
「バイオディーゼルみたいだな」
「ちょっと違うと思う~」
自分で話していておかしくなったのか、少し顔に笑みが出てきた月山。
その顔を見て、鳥海も少しほっとした表情を見せる。
「頑張らないのも正解だよ。でも、月山はそれでいいの?」
「え?」
「いや、月山はさ、今怖いんだろ。だから、動きたくないって言ってる。その気持ちは俺も分かるんだ、俺も怖いし」
「じゃあ、ここにいようよ」
潤んだ瞳で月山が言う。
月山の顔を見て、少し困ったような表情になったが、鳥海は続けた。
「それじゃあさ、街風ちゃんと立花に悪いじゃん。俺達がここにいる間に調査を続けてくれてる2人にさ、胸張って会えないだろ?」
「!!」
月山の顔に驚きが広がる。
「俺はさ、こんな当たり前の言葉でしか月山を励ませないけど、それでもさ」
鳥海は恥ずかしそうに顔を逸らしているが、最後まで言い切った。
「一緒に行きたいから」
「うん……」
月山が返事をした瞬間、鳥海は月山の手をつかんで立ち上がらせた。
「うんって言ったな!よし、すぐ行こう!」
「え、えっ!」
「別に俺は一人でも行けたけど、月山のおかげで百万馬力だ。ありがとな」
「……うん。こっちこそありがと」
鳥海の顔は恥じらいで真っ赤に染まっていた。逸らしたきりの顔は月山の方向には向けていない。
そして、月山の顔も赤く染まっていた。恐怖とは別の感情で余裕がなさそうだった。
「百万馬力じゃなくて、百人力が正しいんじゃない~?」
「そうかなぁ?」
「そうだよ~」
くすくすと笑う月山。その表情に恐怖はもうなかった。
月山を先導するように歩く鳥海。その足はもう震えていなかった。