罰ゲーム、スワンボート、ウイルス
「俺達、友達だろ?頼む慈悲をくれ……」
「フフフ、ハハハ、ハハハハハッ!貴様と僕の友情もこれまでよ!決別の刻だ……。死ねェーーー!!」
常ならば、それぞれスマートフォンをいじっていたり、オカルト研究という名のネット徘徊をしていたりで、あまり騒がしくないオカルト研究部の部室だが、今日は異様な熱気に包まれていた。
「既にドロー2が3巡している上からドロー4……!?合計24枚……!」
「正解は、22枚だよ、街風ちゃん。にしても多い!」
呆然と山札からカードを引く鳥海鷹次郎。それを脇に、これから始まる読み合いに緊張する立花孝弘と街風京子。
オカルト研究部にはカードゲームが多く置いてあり、今日はウノをしている。ゲームも終盤で、現在の手札は街風4枚、立花5枚、そして、鳥海25枚という状況だった。
「ククク、これで戦局は僕と街風の一騎討ちという訳だな。さっきのドロー4、色は赤で」
「こうなることは予想できていましたよ、リッカ……!」
盛り上がる立花と街風に水を差すように、バンと机を叩く音。
敗北は必至と思われた鳥海が、不敵な表情を浮かべていた。
「2人だけの世界を作ってるとこ悪いが、俺がどれだけの妨害系カードを引いたと思う?」
「何っ!?」
「私たちは先ほどのドロー連打でドロー系のカードが枯渇している……。これは失敗しましたかね……」
「いや、あれほどのカードを出したんだ。山札にどれほど残っている?ブラフだな」
顔をしかめる街風だが、鳥海の発言を疑う立花にハッとした顔をする。
しかし、鳥海の不敵な表情は崩れない。
「最下位には罰ゲームを設定しよう」
「「!?」」
驚愕する立花と街風。
「馬鹿な!この状況で最下位に罰ゲームを設定するだと!?」
「自殺行為ですよ!一体どこからそんな自信が……!?」
「ドロー4」
呟いた鳥海の口が新月のような弧を描いた。
「俺はドロー4を2枚持っている」
「確かに、場にはまだ1枚しか出ていませんでした……」
「……フン、どのみち持っている手札で戦うしか道はない。ほら、次は貴様の番だぞ」
ゲームの続行を促す立花の発言に街風は頷いた。
「そうですね、では赤の3」
「黄色の3」
「赤3」
「赤の6」
「……ドロー4」
苦し気な表情でドロー4を場に出す鳥海。
「あれだけ引いたのに赤がないのか貴様!?」
驚愕する立花に、反論する鳥海。
「これは妨害するためにあえて出したの!」
「おいたわしい……」
街風は鳥海の手札を想って泣いた。
「まあいい、ドロー4だ。悪いなラストは僕が持っていた」
「えっ、リッカ持ってたんですか?私もドロー4で。後ウノです」
2人の視線が鳥海に向かう。
鳥海はただ沈黙し、うつむいていた。下唇を噛んでいるのがわずかに見える。
「………………」
「12枚追加だな、ライアー」
嘘つき呼ばわりされて顔を上げる鳥海。
「なあ、俺達、友達だろ?」
「嘘つきにくれてやる慈悲はない」
無慈悲な立花の発言に泣き崩れる鳥海。
山札が足りないので捨て札をシャッフルし、追加した後にドロー。鳥海の手元にはTCGが始められそうなほどのカードが残った。
「あっ、指定の色は赤です」
「赤8。ウノ」
「やった!赤の1。上がりです」
順当に街風が上がる。
立花は鳥海の方をニヤニヤとしながら見やった。
「出せるカードを探すのが大変そうだな。どうだ、赤のカードは引けたか?」
「……パス」
「は?」
笑みが引いた立花。街風は顔を青ざめさせている。
「なんであんだけ引いたのにピンポイントで赤がないんだよ!アァアアアーーーッ!!」
「みーよー……」
「哀れすぎて辛いな。終わらせてやる。赤2、上がりだ」
立花も上がり、鳥海の敗北が決まった。
「……グスングスン、マジで辛い」
「ゲームも終わりましたし、罰ゲームどうしましょうか?」
「えぇええーー!この上さらに俺に苦行を課すの!?」
目が飛び出さんばかりに驚く鳥海。
「1位が決めるのでいいのではないか」
「スルーかよ!」
街風は鳥海を見て、それから一瞬だけ立花を見てから、罰ゲームの内容を話した。
「じゃあ、私が作ったオリジナルの心理テストに回答してもらいましょう」
「街風ちゃん、そんなことしてんの……」
「興味があれば、リッカもぜひ回答してください」
「僕もか?まあ、いいが」
回答者2人を前に心理テストを始める街風。
「では、ボートが浮かんでいて、そこにはあなたの知っている人が乗っています。誰がどういうシチュエーションで乗っているかを答えてください」
「えぇ~、とりあえず乗ってるのは月山かな」
「奇遇だな、僕も月山で考えていた」
同じ人物で考えていたことに驚く鳥海と立花。
「まあ、ここにいる人間の妄想を垂れ流すのって恥ずかしいしな」
「フン、貴様と一緒にするな。僕は目の前にいようが月山と答えていたぞ」
自信に満ちた立花に呆れた視線を向ける鳥海。
「お前、大物だな。で、シチュエーションだっけ?」
「はい、ボートがどこに浮かんでいるか、どんなボートか、どんな雰囲気か、何でもいいです」
「森だな。静かな森の中の清らかな泉。凪いだ水面の上のボートで月山が眠っている」
「詩的ですね」
「ボートと聞いて自然の中の光景が浮かんだ。僕の知り合いなら一番月山が雰囲気にそぐっている」
話が盛り上がっている立花と街風。
鳥海は割って入るように発言した。
「へぇー、俺は荒れ狂う海かな。嵐の中を必死の表情でスワンボートをこぐ月山」
「馬鹿ですね」
「立花のときと同じトーンなのに罵倒された!?いやでも、月山っていっつもほわーっとしてるから、必死の表情は絶対面白いじゃん!見たくない!?」
「その意見には賛同しかねるな」
「デリカシーという言葉を辞書で調べてください」
「フルボッコじゃん!」
さらなる罵倒が鳥海を襲う前に部室のドアが開く。鼻をおさえた月山薫が部室に入ってきた。
「くしゅ、くしゅ。花粉症かな~?」
「くしゃみが2回出た時は誰かに馬鹿にされているらしいですよ。ちょうどかおかおの話をみーよーがしてました」
「え~、あたしの噂してたの~?鳥海~」
ニヤニヤとする月山に対し、鳥海は弁解を試みる。
「俺だけじゃないし!立花もしてたよ!」
試みたのは被害範囲の拡大だった。
「そ~なの~?くしゅ、くしゅ、くしゅ」
くしゃみをする月山を見ながら、立花が呟く。
「質の悪いウイルスじゃないといいが。それにしても、くしゃみ3回はなんだったか、な?」
「何でしたかね?忘れちゃいました」
髪を触りながら街風京子はとぼけた。