角取り、陸上、忍者
「みんな、お疲れ様です。パンダって実はメェ~って鳴くらしいですね……」
街風京子はオカルト研究部の無駄に広い部室に入るなり、ため息交じりにそう言った。
「お疲れ~、確かにぱんぱんは安直だったね~」
「王手角取り……!どうだ……!」
広い部室にも関わらず今日も来ているのは2人。そのうちの女子の方、月山薫が返事をした。残る1人、鳥海鷹次郎は手元のスマートフォンに難しい顔を向けていた。
「慙愧の念に堪えません……」
「ざんき……?って、街風ちゃんいつの間に来たの?お疲れー」
「から揚げによく似たやつ~?」
「それはザンギです。慙愧の念に堪えないというのは恥ずかしい的な意味です」
「へー、そうなんだ!街風ちゃんは博識だね!」
「あまり褒めないでください、みーよー。今日遅れたのは物理の補習があったからです」
賛辞を贈ったときに浮かべた笑顔がこわばる鳥海。
「京子は理系苦手だもんね~」
「中間やばかったのか、頑張って。……というか、出会って1ヵ月以上たつけど、未だにみーよーが俺のことだって一瞬分かんねぇわ」
鳥海の何気ない一言。
それを聞いた月山は、あちゃ~とため息をこぼした。
「もしかして嫌だったんですか!?最近の小学校ではあだ名が禁止されているらしいですし、私また間違えた……!?」
「いやいやいや!!嫌なわけじゃないから!えーと、そう!俺のあだ名が1番いい!あまりに良すぎて俺のことじゃないと思っちゃうんだよ!そうなんだよ!」
鳥海の必死の弁解に疑いのまなざしを向ける街風。
半信半疑の表情で返事をする。
「そうなんですか?とりあえずあだ名をつけて仲良く!という感じだったので、そんなにいいものができたとは思えていなかったんですが。でも、そんなに気に入ってくれたのなら嬉しいです」
「鳥海必死すぎ~。イヤ~ってニンジャみたい~」
ネットミームを持ち出す月山に対し、ぽかんとした表情を浮かべる鳥海。
「忍者?なんで?」
「100点の回答を素で出せるんですね……」
驚愕する街風。
「ていうか、将棋放置していいの~?待ち時間とか大丈夫~?」
「そうだった!まあ、ほぼ俺の勝ちだし、すぐ終わるから2人で話してて」
「は~い」
再びスマートフォンと格闘しだす鳥海。
それを見やりながら街風は月山に話しかけた。
「そういえばリッカはどうしたんですか?」
「立花?なんか体育の先生に捕まってたけど知らな~い」
「何なんでしょうね?2組の体育の先生って陸上部の顧問でしたっけ?」
疑問の表情を浮かべる街風。
「確かそう~、外見てみる?グラウンドで立花走ってるかもよ~」
「まさか……」
とは言いつつ、窓際に向かう街風と月山。
窓の外を覗く。
忍者走りの立花孝弘が陸上部の先頭を走っていた。
「嘘でしょ……!」
「まじ~?」
「ぐわーっ!」
驚愕する女子を尻目に叫び声をあげる鳥海。
「ジツ?」
「ジツを受けてるね~」
鳥海の悲鳴に納得する女子勢。
「この僕のカソク・ジツについてこれるか……!」
グラウンドから聞こえる戯言。
「なんであそこから俺が詰まされるんだよ!スキルって何!将棋じゃねぇの!?」
教室に響く悲鳴。
オカ研は今日もオカルト研究をしていなかった。