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タビーの星、句読点、官公庁

「タビーの星って知っているか?」


オカルト研究部に割り振られた無駄に広い化学実験室に入るなり、立花(たちばな)孝弘(たかひろ)はそう言った。


「ダイソン球~?」

「その説は否定されたみたいですよ。今は何らかの塵が影響しているという説が有力らしいです」


 間延びした声で月山(つきやま)(かおる)が反応した。それに対し、街風(つむじ)京子(きょうこ)が訂正を入れる。


「なんだそれ?どっかの銘菓としか思えない名前だな」


 鳥海(とりみ)鷹次郎(ようじろう)は知らなかった。

 目をぱちくりとさせ、何を言っているのか全く分からないというアピールをする。


「オカ研の恥だな。おい部長、こいつを今すぐやめさせろ」

「どんなにやめて欲しくても、今の人数が部活動と認められる最低限の人数なので無理ですよ」

「街風ちゃんも俺にやめて欲しいように聞こえるんですけど!?」


 鳥海としては立花にどう思われていても問題はないが、街風に嫌われているのは大問題だ。


「そんなことはないですよ。みーよーもオカ研の仲間です」

「よかった……」


 ホッとするのもつかの間、鳥海の視界にニヤニヤと意地の悪い笑みをしている月山が映る。からかってくるときの姉と同じ笑みに嫌な予感がする。


「鳥海はこの間官公庁に勤めたいとか言ってたから、情報収集がお役所仕事なんだよ~」

「え、みーよーが官公庁志望なんですか?……あ、すみません。まだ、1年生ですし、これから頑張れば大丈夫ですよね」

「あんまりうまいこと言えてねーからな月山!あと、街風ちゃん、その反応が一番傷つくよ……」


 顔で笑って心で泣くのがピエロなら、顔で泣いて心で泣く俺は何なのだろうか、と鳥海は思った。

 聞いている話では鳥海の成績は街風よりは確実に上なので、そちらにも反論したかったが、それこそ泥沼になるのでやめた。街風に嫌われたくもない。


「で、結局タビーの星ってなんなんだよ?」

「僕が答えてやろう」


 していないのに眼鏡を上げる動作を見せた立花にため息をついてから先を顎で促す。


「タビーの星というのは、簡単に説明すると不規則に減光する恒星だ。ちなみに白鳥座の方向に存在する」

「惑星が横切ってるとかじゃないのか?」

「違う。惑星が横切る場合は1%くらいの減光率らしいのだが、タビーの星の減光率は最大で22%にもなったらしい。他の星ではこんな現象は見られていないので、色々と言いたい放題に説がある」


 分かっているかという顔で鳥海を見る立花。分かっているぞという顔を返す。


「はぁ、ともかく、この様々な説の中に、大量の彗星の塵で隠れているとか、ダイソン球で覆われているとかがあったわけだ」

「まず、ダイソン球ってなんだよ?」


 分からないので質問をすると、立花はため息をついた。


「ダイソン球と言うのは恒星のエネルギーを100%利用するために恒星の周囲を覆うように作られる構造物だ。もっとも、その存在はまだ見つかっておらず理論上のものだな。そのダイソン球で覆われているという説は最近の観測で否定されている。減光量が波長によって異なっていることからわかるそうだ」

「なあ、理解できたか月山。俺は全く分からない」

「あたしも~。句読点が足りない~」

「私はある程度調べていたので分かります!」


 ドヤ顔の街風ちゃん可愛いという心情を思わず言いそうになった。少し頬を紅潮させ、興奮した様子の街風に興奮しそうになる。


「というか~なんでタビーの星の話をしたの~?」

「それは……、異星人関連のオカルト情報を収集していて、お前たちにも共有してやろうと」


 ちょっと焦った様子の立花。知識自慢をしたかったが、街風と月山が知っていて恥ずかしかったのか。


「情報の共有は歓迎です。みーよーもかおかおも、お願いしますね」

「分かったよ」

「は~い」

「ところで」


 街風の話題転換はいつも急だ。


「宇宙人がいるならどんな姿なんでしょうかね?」

「僕は思念体説を推すな。地球まで何光年離れていても、実体がないなら何の問題もなさそうだし」

「俺はタコみたいなやつかなー。やっぱロマンがあるじゃん?」

「あたしはグレイ型かな~。でも、出会ったときに虫とくしゃみに気を付けないといけないね~」

「なぜなんだ?」

「アブダクションされちゃうから~」


 ドヤ顔で語る月山。何を言っているか完全に理解した様子の立花の顔は人体改造の苦痛に耐える被験者のようだった。


「あ!そういうことなんですね。虻だ、クションということでアブダクションですか?勉強になります」

「街風ちゃん、やめるんだ!」

「なんで~!即興で作ったにしてはうまくな~い?」


 感性が理解できない他人を宇宙人と呼ぶのであれば、宇宙人は身近にいるのかもしれない。

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