急降下、限りある、白黒
体育の授業は嫌いだ。
だからそれにつられる形で体育館も嫌いだと、益体もないことを考えながら体育館シューズをはいた。
「メモに体育館は電気をつけていいとあったぞ」
僕より早くシューズを履き終わった街風に声をかける。
「そうなんですか。なんででしょうね?」
街風は疑問が多い。
煩わしいこともあるが、ゴールデンウィークを共に乗り越えた仲間だ。親切な僕は街風に答える。
「メモの記載との齟齬があれば分かるようにだそうだ。確かに、懐中電灯で照らしただけでは、正確な位置どころか、ボールの種類すら分からなさそうだ」
「確かにそうですね。じゃあ付けます」
「頼む」
街風がスイッチを入れる。
「あれ?付きませんね」
「これまでつけたことはないのか?ここみたいな古い体育館に使われている水銀灯は明るくなるのに時間がかかるんだ」
「そうなんですね!覚えておきます」
たっぷり3分かけて水銀灯が点灯した。
「きゃーッ!!」
「ぐわーッ!!」
途端に体育館の中から聞こえる悲鳴。
このたおやかな声は月山!
「大丈夫か、月山!」
館内にハヤブサの急降下のごとく飛び込む僕。
「オオアァーッ!!」
目が焼ける!
今まで暗闇を歩いてきたので、急激な明暗の変化に目が耐えられない!
「大丈夫ですか!?」
どうやら街風は目を慣らしてから入ってきたらしい。やるな。
「僕は無事だ!それより月山を」
「アホ、俺らも、もう慣れたっての」
肩を叩かれた。
軽くではあるが、この僕の肩を気軽に叩きやがって許せん。
「心配してくれてありがとね~」
「君が無事ならいいんだ……」
月山が無事ならそれでいい。何だって許そう。
「2人とも早かったんですね。どこか回ってきたんですか?」
「音楽室だけ行ったよ。そこで月山がさぁ」
「ちょっと、鳥海~!」
ちょっと待て。
何で鳥海と仲良くなっているんだ。普段より距離が12cm近いし、声も半オクターブ高い。やはり鳥海は許されない。
「お前たち、時間には限りがあることを知らないのか?ボールを探せ」
「そうだよ鳥海~、立花を見習って探せ~」
「ちぇー、うまいことかわしたな月山―」
「私も探します!」
天井を見上げる。
水銀灯の明かりがまぶしいが、見えないことはない。
「あっ!ありました!」
「どこ、街風ちゃん!?」
「あ、あ~、あのボール~?」
どれどれ……。まったく、街風はちゃんとメモを読んでいたのか?
「おい、バスケットボールはアンケートにないぞ。それに位置もメモと違う。支柱に引っかかってるし、ただのボールだ、あれは」
「あ、すみません。そうですよね、不自然に天井に引っかかっているボールというのが七不思議なのに私は……」
「そんな落ち込むことないよ街風ちゃん!そっちの調査は知らないけど、音楽室のヴェートーヴェンは結局いたずらだったし、不自然に天井に張り付くボールなんてないさ」
「ね、ねえ。あれってバレーボール……?」
怯えた表情を見せる月山。
確かにあれならばメモの特徴とも一致する。流石だ、月山!
「そのように見えるな。さらに言えば、不自然に天井に張り付いている。どうやら正解のようだな」
「きゅう……」
「月山ー!!」
「かおかお!あれはきっといたずらですから!大丈夫ですよ!」
「いたずらか、どうか。調査が必要だな!」
足元にあったボールを蹴る。
狙い通り、天井のボールに命中。
落ちてこない。そして、揺れが不自然だ。まるでなにかで張り付けているかのようだ。
天井から何か落ちてくる。紙か?
「なんだこれ?……うげっ」
「どうしたんだ?」
「静音寺からのメモだ……」
そう言って鳥海は僕に落ちてきたメモを見せてきた。
「なに、『調査ごくろうさま。準備大変でした』?」
「は?準備って何ですか?」
「分からん、続きを読むぞ……。『ゴールデンウィークはあまりに酷すぎたので、先生も反省しています。今回の七不思議はすべて仕込みです。つまり、ドッキリのようなものだから安心して眠ってください』」
「やった~!」
「よかったですね、かおかお……!」
「『先生はみんなが出発した後すぐに帰っているので、みんなも早く帰るように』とのことだそうだ」
「俺らを置いて帰るのかよ……。まあいいか、帰ろう」
体育館から去る。
扉を閉めながら、気づいてしまった。
僕が蹴ったボールはいったい何のボールだっただろうか?
白黒の柄だったような……。
どうやら、穏やかな夜にはならないらしい。
ストックがなくなったので、リアルタイム更新になるかもです。
あと、正月は実家に帰るので、設備が貧弱になるため、更新が滞るかもです。