ぼた餅、フリー素材、パンダ耳
有職者になるまでは毎日続けようと思っています。
とりあえず投稿は19時です。
放課後の教室に3人の男女がたむろしている。
しかし、人数に対して教室が広い。化学実験室に9つある机の内、入り口に近い1つだけが埋まっていた。
県立巧子華高校オカルト研究部の部室は今日も閑散としていた。
「ねえ鳥海、お菓子食べた~い。買ってきて~」
手の中のスマートフォンから目を離し、声を上げたのはこの場で唯一の女子。ボブカットの月山薫が垂れ目を向け話しかけたのは、小ざっぱりとした、重ねて言うなら、身長も小ざっぱりとしている男子、鳥海鷹次郎だった。
「普通に嫌だよ。勝手に行って来いよ月山」
「え~、じゃあ立花買って来てよ~」
月山が次に目線を向けたのは、片目が隠れた背の高い男子。声をかけられた立花孝弘はニヤリと不敵に笑い返事をする。
「ふっ、報酬次第だな。……例えば、君の唇とかな」
「はいはい、行きたくないのは分かったよ~。帰りにコンビニ寄ってこ~」
「僕は本気なんだが……」
落胆する立花の声は月山には届かない。
「は~、ぼた餅食べたいな~」
「おばあちゃんかよ」
「え~、おばあちゃんってひど~い。立花どう思う~?」
頬を膨らませ、立花に同意を求める月山。
立花は毅然とした態度で答えた。
「言語道断、だな。女性には紳士的にあるべきだ」
しかし、その立花の返答を聞いた鳥海は眉根を寄せた。
「お前がこの間、街風ちゃんとコロッケパンをかけて熱いじゃんけん勝負をしてたの忘れてねぇからな」
「あれ面白かったよね~。勝ったときに雄たけび上げてて笑っちゃった」
「勝負には常に全力であるべきだからな!」
自慢気な立花の顔を見ていた鳥海だが、何かを思い出し、にやけながら言った。
「俺、あの劇的瞬間を動画に撮ってたんだよね」
「え~、見せて~!」
鳥海の発言に正反対の表情を見せる月山と立花。
好意的な反応の月山に対し、立花は信じられないとばかりの表情で絶句していた。
「僕はフリー素材じゃないぞ!肖像権の侵害だ!」
動画を見ようとする鳥海と月山を、止めようとする立花。部員数に対して無駄に広い教室を有効活用した追いかけっこが始まった。
「いいだろ、お前珍獣みたいなもんだし」
「いいわけあるか!」
「立花UMA説~?」
「ニューネッシー立花かよ」
「もっと他にあるだろう!?腐乱したクジラなんか嫌だぞ僕は!」
「そーだ、鳥海知ってた~?パンダとかゴリラって昔はUMAだったらしいね~」
「じゃあ、ゴリラ立花か?」
「いい加減にしろ!」
ガララッと音を立て勢いよくドアが開いた。部室に入ってきたのはポニーテールの少女、街風京子だった。
「みんな!これ、どう思いますか!」
より正確に描写するならポニーテールでパンダ耳の少女だった。
「可愛いが、なぜパンダ耳、街風ちゃん」
「そーいえば、最近動物動画見てたね~」
街風の登場に驚いている鳥海。
その背後に立花が忍び寄っていた。
「隙あり!」
「あ!返せよ!」
「動画削除!」
「行動が早い~」
鳥海のスマートフォンを巡って争っている3人の様子を見て困惑する街風。
「何がどうなってるんですか……?全然分からない……」
目的の動画を削除し、スマートフォンを返す立花。
「もうこいつは用済みだ。返してやろう」
「マジで消したのかよー、ありえねー」
「ぶ~ぶ~」
「ふん、なんとでも言え。負け犬の遠吠えにしか聞こえんわ!フハハハ!」
動画を消された抗議にブーイングをする鳥海と月山、高笑いをする立花。
「ぶーぶーは豚では……?ってそうじゃなくって本来の目的を果たします!」
「どしたの、街風ちゃん?」
「いきますっ……!ぱんぱんっ」
両手をグーにして、顔の横へ。前傾姿勢で上半身を反らし、片足を膝で折り上げるポーズを決める街風。
三者三様の驚きを示す街風以外の3人。
「何がどうなっているんだ……!?」
「全然分かんない~」
「分からんが、可愛いからよし、分からんが」
3人の反応を見て、ポーズはそのままに首をかしげる街風。
「何ってパンダのポーズですよ……?」
「「「は?」」」
確かにパンダは未知の生物であることを3人は実感した。