サブタイトルはない
これが、誰かの手に渡って、誰かによって読まれて、ついでに共感してもらえれば本望であるが、多くを一度に望むつもりはない。そして忠告しておくが、これに共感できるものは、生きることを許されない。我々は人類に対する悪の類であるから。だからこれは私と同類の人間を応援したり、希望を送るために残すのではない。人類の繁栄存続のため、我々は屍の礎として、他人の子孫の踏み台になるべきなのだ。
あらかじめ明言しておく。これは遺書である。ここまではっきり言ってしまうと情緒も何もないが、同類諸君には覚悟を求めたいのだ。犯罪は、法律に則り裁いてもらう事ができるが、我々はそれらに反していないので、公的に裁かれる事がない。故に私が裁く。これは裁きの鉄槌の取り扱い説明書である。私が死んでも、諸君が自力で自らを罰する事が出来るようにする為、これは存在している。法律が社会秩序を守る役目を負うなら、これはその役不足を完璧に近い状態で補完するわけだ。
第一章 自覚
私の死因は、自分の悪癖を自覚してしまった事ではないだろうか。その悪癖で色んな人々を不快にさせているかもしれないという意識はなかったわけではない。しかしそこまで重要視していなかった。なにせ、自分がされるとは思わない。そして自分がされると嫌という程、自分のしてきた事だという自覚を強いられる。怒り、悲しみ、呆れ。色々な感情に支配され、支配していたことを自覚し、自らを嫌悪し始めた。
大元の始まりは高校生の頃からだったかもしれない。当時私には彼氏がいた。高校一年生の晩秋辺りから付き合い始めて、結局二年半一緒にいた。彼は部活が同じで、陸上の短距離選手、私はマネージャーをしていた。正直全然話をしたことなかったし、後から聞くとフルネームすらまともに知られていなかった。私も一選手としてサポートしていただけだった。
ある日私が部活と全然関係ないところで足を捻挫してしまい、杖をつく生活が始まった。始めの頃はみんな心配してくれていたが、それらは段々と日常の一部として溶けて消えていった。しかし何故か彼だけは違ったが。毎日会うたびに、必ず
「おはよう、足は大丈夫?」
と言ってくれるのだ。習慣化してきたそれに、私は安心感を覚えて、次第に楽しみになってきた。そして彼に対する意識が変わってきた。朝練終わりに階段を上がってくる彼。友人と楽しく話しながら廊下を進む彼。それら諸々全てが、酷く愛おしく、そして側にいたいという欲求が芽生えてきた。私は元から惚れっぽいところがあったが、今回は何か特別なものを感じていたし、蓋を開けてみればそうだった。私が人類悪に堕ちてしまうきっかけになってしまったし、死因にもなってしまった。
それは完全に恋、もしくはそれに近い好意だった。はずだ。もう今からすれば私は本当に純粋な恋をしてきたのかまるでわからない。当時の私からすれば、少なくとも、それは紛れもない恋愛的感情だった。楽しいし苦しい、青春の一部だった。