異邦人の嫁取り
お題:何かの幻想 必須要素:幼女
此処は大陸辺境にあるドワーフの里。
古くから存在していたが、争いを嫌う故に徐々に辺境に追いやられていった少数種族であるドワーフの最後の故郷とでもいえる場所だ。
ほとんどのドワーフはこの里で生まれ育ち、子を産み、そして死んでいく。
稀に里を出るものは若く無鉄砲で世の厳しさを知らぬ男どもばかりであり、歳を取って相応の落ち着きを覚えると大抵世の喧騒を倦んでこの里へと戻ってくる。
そんな閉鎖的ではあるが、平穏な里に一人の闖入者がやってきた。
この大陸のどこかにあるというドワーフの里を探して旅をしてきたという若い人間。
里を出て行った男のドワーフを伴ってきているということは少なくともドワーフの加工技術に目を付けて武具の類を作らせたいという商人や権力者の手先ではあるまい。
話を聞くと、この人間はドワーフの女を娶りたいと起っての願いで頼んできたので、嫁の世話をしてやるべく里へ帰ってきたらしい。
人間の男がドワーフを嫁に取りたい?
未だかつてなかった出来事に、事態を見守っていた里の長老衆は騒然とした。
改めてやってきた男の姿をよく見てみる。
背は低く元々旅慣れているからか最低限の筋肉はついているが、長旅をしてきたせいか少々腹回りの肉が落ちているのが実に惜しい。
旅の中で髭を剃ることがなかったからか髭は十分に蓄えられていて、もう少し筋肉と腹の肉を付ければ振り向く女衆も多いだろう。
しかし、ドワーフと人間で子供ができたという話は聞いたこともない。
子を産むのは女の幸せだ、自らの子を抱くことができないことを受け入れれらる女がドワーフのみならず他の種族でもいるだろうか。
難色を見せる長老衆に人間の男は涙ながらに訴えかけた。
「私は遠い遠い、もう二度と帰ることのできぬ国からこの大陸にやってきました! 耐えがたきを耐え、忍び難きを忍び、その最中で知ったドワーフの女性と結婚することを唯一の希望として今日まで生きてきました。里の外から来た人間に娘をやるという親が少ないのは重々承知の上、ですが私はこの里に骨を埋める覚悟。この里のドワーフと結婚することをご承知いただけないなら、どうかこの場でこの命、さっぱりと絶ってくださいませ!」
これには長老衆も思わず唸る。
いくら閉鎖的な里とはいえ、こんな辺境までの長い旅に加え命すらなげうつ覚悟を示す相手に門前払いを喰らわせられるほど非人情ではない。
皆が皆、どうしたものかと悩んでいたその矢先、里の奥から澄み渡った大音声が響き渡った。
「よく言った!!」
巌のように鍛えられた腕の筋肉を惜しげもなく露わにし、恰幅のいい腹を揺らして現れた一人のドワーフ。
長い髭は三つ編みにし、色のついた帯紐でひとまとめにされて歩くたびに揺らされている。
「ひ弱な人間のくせにこの里まで嫁を探しに来るとはいい根性だ! 里の外の人間? 上等だ! それくらい気概のあるやつの方が幸せになれるってもんさね!」
自分の主張を肯定してくれるドワーフが現れたことに喜色を浮かべた男は、やってきたドワーフの手を固く握り、長い長い握手を交わした。
「ありがとうございます、その言葉で報われた思いがします。 ……あの、む、娘さんなど居たらご紹介願えますか?」
瞳の縁の雫を拭いながら願い出る男に、ドワーフは自信たっぷりに答えた。
「娘はいない! でも安心しな、アタシが嫁になってやるよ!」
「……へ?」
その発言に周りの群衆が色めき立つ。
彼女は髭も、筋肉も、体の肉付きも、すべてがそろった里一番の高嶺の花だ。
その本人が、ぽっと出の人間にかっ攫われるなど、驚天動地の出来事だった。
「……もしかして女性であられる?」
「当たり前だろ、男が髭を三つ編みにしてリボンで結ぶはずないだろう?」
そんなやり取りをすると、男は崩れ落ちて大声で泣き始めた。
さもありなん、これほどの美女の女ドワーフを引き当てたのだ。
その幸運とこれまでの苦労が報われたことに男泣きもむべなるかな、と長老衆は彼の涙を温かく見守った。
「どぼぢてろりじゃないのぉぉぉぉぉぉ!!」
「ん? 私はロリだよ? アロリョーティス、ロリィって呼んでくれよ、旦那様!」
今日この日、里にとって記念すべき、人間とドワーフの夫婦が生まれた。
彼らの子供は生まれることはなかったが、夫は斬新な発想で様々な生活を豊かにする物品のアイディアを考案し里の文明化を進め、妻はその腕で夫のアイディアを実現し続けた。
後の世まで夫の生まれた国については伝わっていないが、とても文明的で便利な国であったと、しかし間違っていた情報に踊らされることもあったとしみじみと語っていた話が残っている。
成長してもロリな女ドワーフなんて幻想だったんだよ!
申し訳程度の異世界転移要素。