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逆転

私は何が起きたのかよくわからなかった。ただ全身を痺れるような痛みが駆け巡っている。全身の細胞から脳に送られる危険信号は、脳の中で飛び回り、嵐を作り出し、混線している。

「本当はあの金髪のおっさんを殺すためにとっておきたかったんだけどな。ここまで追い込まれるとは思っていなかった」


直剣が私のはらわたを舐める。体につき通された長い剣は、私の中のいくつかの臓器を容赦なく傷つけながら体の前面から外に飛び出た。

私は震える体を必死で動かし、後ろを振り返る。

「裏切ったの?」

私の声は、小さくてか細くて、消え入りそうなほど弱々しかった。

「そうだ」

目の前の人物は冷静に言葉の刃を振り下ろす。


「どうして? ジャック!」

私は最後に訳を訪ねるフリをした。戸惑いを顔に貼り付けてみた。

「お前らと一緒にいても勝つ算段はない。俺は強い方につく」

「今までの私たちの全ては嘘だったの? 何もかもまやかしだったの?」

私は精一杯苦しいフリをした。

「そうだ」

そういうと、ジャックは勢いよく剣を引き抜いた。

「驚いたな。お前本当に人間か?」

黒髪の少年がジャックに言った。

「これくらいのことを平気でやってのけないと今の時代は生きていけないんだよ」

ジャックの声が響く。そして、私の視界は真っ暗になった。


[黒髪の少年視点]

「首尾よくいったな」

俺はジャックに声をかけた。

「ああ。作戦通りだ」

「この女は作戦を漏らした人間がいることに気づいていたようだが、それがおジャックだとは気づかなかったみたいだな」

「愛、オレが裏切り者だ。悪く思わないでくれ」

ジャックは女の死体の側に行って、話しかける。

「オレがお前を殺した。裏切り者であるオレの攻撃によってお前は死んだんだ。お前の負けだ」


ジャックはこちらに向き直り、

「だけどどうしてあのタイミングだった? 先生はどうやって殺す?」

「言っただろ。俺はこの女(愛)を見くびっていた。あそこでお前の助けを借りなければこちらに勝ち目はなかった。こちらの戦力もカツカツなんだ。金髪のおっさんはなんとかする」

「そうか」

「お前、最初の爆発はおっさんの電撃で防いだんだろ? あれはどうやって防ぐつもりだったんだ?」

「内緒だ」

「ふん。まあいい。まだ体力は残っているか?」

「ああ。なんでだ?」

「今から俺の部下に加勢して金髪のおっさんを殺す。お前も加勢してくれ」

「ああ。これで王国軍の勝ちは確定だな。王様にオレの功績をちゃんと伝えてくれよな」

「もちろんだ。今日この日を持ってレジスタンスは壊滅する。それによりこの国は現国王の完全な支配下に陥る。もう抵抗するものなどいない。新たな歴史の始まりだ!」


そして、ジャックは俺の方を指差した。

「オレの負けで、お前の勝ちだ!」

その瞬間、辺りの空気が色を変えた。ジャックの放った意味不明な一言が砂漠の中に反響している。そして、突如現れた不気味な気配がこちらに向かってきた。


「なんだ? 何かがいる!」


思い込みでも、幻覚でもなんでもない。絶対に何かが俺に向かって近づいてくる。


「なんだこの気配は? 誰かいるのかっ?」


俺は俺とジャック以外は誰もいない静かな砂漠に声を放つ。俺の声は虚しく砂漠の空に沈んでいった。俺の顔の横を一筋の汗が滑る。


なんだ? 何が起きている? それにジャックの言葉には先ほどから違和感を感じている。

「ジャック! 答えろっ! 俺に何をしたっ!」

次の瞬間、俺は背後から見えないモンスターに攻撃された。


[愛視点]

私は、黒髪の少年の胸から剣を勢いよく引き抜いた。彼の濁った血液が地べたに垂れる。

彼はゆっくりとこちらを振り返る。震える瞳で私の方を見る。まだ私の体は彼の瞳には写っていないはずだ。

「もうそろそろ見えた?」

私は彼に声をかけると、彼は悔しそうな顔を浮かべた。

「なんで生きているっ?」

彼は怪我したところを抑えながらこちらを睨む。

「ジャックは二重スパイよ。ジャックがあなたに作戦を漏らしたのはわざと」


黒髪の少年は素早くジャックの方を見る。

「おい! お前、さっきから不自然にオレという一人称をやけに強調して喋っていたな。きっとそれが装備した何かを発動するための条件に違いない。お前の装備しているのはなんだ?」

「俺が装備しているのは、“オレオレ詐欺”だ」

「ジャックの能力は“オレ”という一人称を強調して喋った後の一文を詐欺、つまり嘘に塗り替える能力よ。この力があったからレジスタンスの隊長になることができたのよ」

「オレオレ詐欺だと? そんな意味不明なもんどうやって装備したんだっ?」

「この世界では、抽象的なものや現象などを装備することが極めて難しい。だが、装備したいものに強いコンプレックスやトラウマがあると装備できることがある。俺の両親はオレオレ詐欺で騙されて死んだ。そして、俺はホームレスになった。レジスタンスのメンバーは全員が元ホームレスなんだよ」


「くそっ!」

「“オレオレ詐欺”は無敵の能力じゃない。誰かが死んだことや、大きな自然現象などは嘘にしにくいんだ。だからここぞというときしか使えない。おい、黒髪! 言わせてもらうぜ!」


ジャックが黒髪の少年の方を力強い眼差しで見る。

「能力を使うまでもない、直接真実を言ってやる! 俺たちの勝ちだ!」

彼の勝利宣言は砂漠の中を透き通る。風の流れの中に紛れた声は、心地よい音色だった。


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