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勇緑・二十日町立中学校

 俺の名前は志藤誠司(しどうせいじ)。二十日町のヒーローウィスパーファイブの一人だ。グリーンの中の人。

 

 ヒーロー活動してるときは、一人称を”(われ)”にしろって言われてる。キャラ付けらしい。しょうがないよな、レッドとブルーが”俺”だし、同じ一人称のやつが二人いる時点でややこしいからな。

 

 ちなみに俺は19歳の大学生だ。二十日町の工学系大学に通ってる。

 

 ところで、俺にはヒーロー活動に関してコンプレックスがあるんだ、聞いてくれ。

 

 ウィスパーファイブみたいなヒーローは、自分の中に眠っている特別な力に目覚めた奴が、町役場なんかに任命されてなるものなんだが、俺は違うんだ。

 

 例えばブルーは、瞬発力を大幅に上げる能力を持ってるし、イエローは重いものを軽々と扱える能力をもってる。ピンクは風を操る力がある。だが俺はなにも特別な力を持ってないんだ。ん? レッド? レッドは、俺たちの生命エネルギーを集めて”ウィスパー光線”っていうのを撃つ能力だよ。

 

 特別な力を持ってない俺がどうやってヒーロー活動してるのかって? 機械に頼ってるってのが答えだ。

 

 グリーンガンっていうショットガンみたいな武器を使えるんだが、それがないと俺は戦えない。俺以外のみんなも武器を持ってるけど、武器がなくても能力で戦える。

 

 俺だけなんだ、力に目覚めてないウィスパーファイブ。なんで俺がヒーローなんかやらされてるのかわからない。

 

 で、今はヴィランが出たって連絡があったから、現場に向かって走ってるところだ。他の4人はそれぞれ別の場所にいるみたいで、俺が一番現場に近いんだと。

 

 情報によると、そのヴィランは銀行で人質とって金要求してる奴らしい、能力は不明だが銃火器を持ってるからかなり危ないやつだそうだ。

 

 ブルーがいてくれると心強いんだがな……

 

 

 

 

 銀行の近くまで来た。路地裏で変身して突入といこうか。

 

 俺たちの左手首の腕時計は一見普通の腕時計だが、変身に必要なアイテムなんだ。

 

 デジタルでストップウォッチとかにもなるやつなんだが、時計モード、ストップウォッチモードと、変身モードがあって、変身モードにした状態で

 

 「コード20(トィエンティ)、グリーン」

 

 ってささやくと、スーツと武器をドローンが運んできてくれる装置だ。ちなみに2分以内に届くというかなりすごい代物だ。

 

 届いたスーツに着替えてグリーンガンをスーツに格納したら準備完了だ。他のウィスパーファイブのスーツもそうなんだが、結構でかい武器でもスーツに格納することができる。どうなってるのかは知らない。

 

 俺はさっそうと路地を飛び出して銀行に飛び込む。

 

 「ウィスパーグリーン参上! ヴィランは我が打ち倒す!」

 

 ”我”とか今時じゃないよなぁ。というかこのポーズダサくないか? 

 

 「ウィスパーグリーンだ! ヒーローが来てくれたぞ!」

 

 「ほかの4人もすぐに来るはずだ! 助かった!」

 

 銀行の職員の人たちが俺を見てはしゃぎだしたぞ。落ち着け、ちょっと落ち着いて考えてくれ。全身緑タイツの変な奴が現れただけだぞ? 敵は銃持ってるやべぇ奴だぞ? 全然助かってないだろ常識的に考えて。

 

 「おいヒーロー! 人質が見えねぇのかぁ?! こいつの頭に風穴開けられたくなきゃあそこでおとなしくしてろ!」

 

 うん? こいつ職員の受付のおねえさん抱えてるけど、銃なんかもってないぞ? あと、人質とられたからって棒立ちしてたらヒーローじゃないからな。

 

 「ヴィラン! その人を放すのだ! 我が来た以上逃げおおせることなど不可能だ!」

 

 このしゃべり方嫌だなぁ。絶対俺はヒーローに向いてないと思うんだよ。

 

 それにしても、ヴィランってなんで顔を隠そうとしないんだろうな? 変身系の力をもってるわけじゃないんだろ?

 

 「うるせぇ! 俺の邪魔すんじゃねぇ! ぶっ殺されてぇか緑野郎!」

 

 ヴィランが叫び散らしながら俺を指さしてるな。指じゃなくて銃口向けなきゃ威圧にならないだろ。

 

 しかし銃は持ってないように見える。でも銀行の壁や天井には弾痕がいくつも残ってるな。どういうことだ?

 

 「てめぇのやり方は知ってるぜぇ? 俺と同じで銃で戦うんだろ? それも散弾銃だ。人質構えてりゃてめぇは手も足もだせねぇ。そうだろ?」

 

 その通りだが、お前の銃はどこなんだよ。

 

 俺はヴィランに向かって一歩踏み出す。

 

 「人質など無意味だ。我らウィスパーファイブが人質を無事に取り返せなかったことなどない」

 

 「と、とまれぇ! こいつの頭に風穴があくぞ!」

 

 おおビビってるビビってる。

 

 「それは無理だ。もしその人が死んでしまえば、お前は人質を失うことになる。そうなったらもうおしまいだぞ」

 

 本当に厄介なヴィランは、人質を一度にたくさんとる。要求を通すために時間経過で一人ずつ殺すと宣言したり、要求一つと人質一人を交換したりするタイプだ。まぁその厄介なタイプのヴィランも、俺たち5人がそろいさえすれば、無事に人質解放して倒してきたんだけどな。

 

 こいつはほかの銀行員に金を用意させるために、一人しか人質をとらなかった。つまり、割とやりやすいタイプのヴィランということになる。

 

 「っち、喰らいやがれぇ!」

 

 発砲音がして、俺の左足に激痛が走った。

 

 「ぐぁあああああ」

 

 いってぇ! 何された?!

 

 ヴィランの人差し指から煙が出てるな。俺を指さしていた指から弾丸が飛び出してきやがったんだ! 

 

 だが残念だったな。ヒーロースーツは防弾だ。滅茶苦茶痛いがダメージは大したことない。しかしいてぇなくそったれ!

 

 「っはぁ?! おい緑野郎! 防弾かよそのスーツ!」

 

 ヴィランが逆ギレしてるな。キレたいのはこっちだっつうの。

 

 「無駄だ。我らにそんな小口径の銃など効かぬ」

 

 思いっきり”ぐぁあああああ”とか言っちゃったけど、かっこつけておくことにする。こう、キリッっと。

 

 「思いっきり悲鳴あげてたじゃねぇか!」

 

 「うるさい!」

 

 そこ突っ込んでくんな!

 

 「っへ、っへへへへへへへへ」

 

 どうしたヴィラン?! 気持ち悪い笑い方して、頭でも打ったか?

 

 「よぉくわかったよ。俺の力じゃお前は倒せねぇ。だからよ」

 

 「おい、よせ!」

 

 こいつ人質のこめかみに指先(銃口)つきつけやがった!

 

 「お前、今まで人質は全員無事に助けたんだって言ってたよな。じゃあこいつが助けられなかった最初の人質だぁ!」

 

 こいつやけになって人質を殺すつもりだ! やらせねぇぞ!

 

 グリーンガンはショットガンだが、ハンドガンタイプにもできる。威力が低いから滅多に使わないが、今がその滅多にない機会というわけだ。

 

 ピュン

 

 「うぐぁあああ」

 

 クイックドローでグリーンショットをヴィランの右手にぶち込んでやったぜ。正直不安だったけど、ちゃんと当たってくれてよかった。ヴィランのやつ無様に倒れこんでジタバタしてるな。

 

 「今のうちに逃げるといい。後のことは我に任せろ」 

 

 何もかも予定通りみたいな雰囲気で、人質にされてた銀行員のおねえさんに話しかける。あとちょっと狙いがずれてたら、このおねえさんにヘッドショットしてたことはおくびにも出してはいけない。

 

 「は、はいぃ。助けてくれてありがとうございます」

 

 お礼を言ってそのまま逃げていく銀行員のお姉さん。ちょっと好みのタイプだったなぁ。ヒーローとしてじゃなくてプライベートで出会いたかった。

 

 「お、おれの手がぁ」

 

 痛いだろうなぁ。グリーンショットは骨折とか指の欠損とかはしないけど、滅茶苦茶痛いからな。ざまぁみろ。

 

 「おとなしく敗北を認めろ。もうお前はおしまいだ」

 

 「畜生、ちくしょぉ」

 

 うわぁすごい怨嗟だ。こんなもん向けられたくないし背負いたくない。やっぱ俺ヒーロー向いてないわ。

 

 

 

 

 無事にヴィランを遅れてやってきた警察に引き渡して、俺の仕事は終わりだった。

 

 こっちに向かって来てたほかの4人にも連絡入れたし、この一件は片付いたといえるな。

 

 もう昼過ぎか、昼ごはんどうしようかな。近くに飯屋ねぇかな……

 

 ……最悪だ。最も悪いと書いて最悪。腕時計が震えだした。

 

 この腕時計の震えは、ヴィランが出たことを知らせるものなんだ。一日に2件もあるとか、まじ最悪だ。まだ昼めし食ってないのに。

 

 腕時計の変身モードの画面で、ヴィランのでた場所とかの情報を見る。 

 

 ヴィラン発生、二十日町立中学校、マッシブレディ、目的不明

 

 「マッシブレディだと?!」

 

 思わず声に出してしまった。いやそのくらいやばいんだって! マッシブレディは今まで出会った中で最強クラスのヴィランだからな。

 

 俺は二十日町立中学校に向かって走る。俺の母校だし恩師もいる。マッシブレディから守らねばならない! ヒーロー向いてないとか言ってる場合じゃねぇ!

 

 

 


 

 こんにちは、後藤美幸(ごとうみゆき)です。

 

 今日もお仕事をすることになったんだけど、正直すごくやりたくない仕事なんだ。

 

 二十日町立中学校にある古い体育館を破壊しろっていう仕事なんだけど、わけわかんなくない? 

 

 いや一応理由は教えてもらったんだけどね。一応。

 

 古い体育館を抱える中学校は、改築したいけどお金がかかるからなかなかできない。特に壊す方にお金がかかるらしい。で、私が襲撃してちょっと壊せば改築のきっかけになる、ついでにヨウキ組傘下の建築会社が体育館を新築してあげようということらしい。

 

 まぁ体育の授業中とかに老朽が原因で体育館が壊れたら危ないのは解るんだよ。

 

 だったら普通にお金出してあげればいい。と思うじゃん? 私も思ったし木下に言ってやったよ。そしたら……

 

 「ヴィランによる物的被害は、国から援助金が出るのです。ヨウキ組は営利団体ですから、ただお金を出して地域活性を促すのではなく、国からの援助金という形で収入を得ることも目的なのです。国から出る援助金は、復興に携わる企業も受け取ることができますからね」

 

 とかほざきだした。面接のときに”わが社の理念は地域の復興と中小企業の発展です”とか言ってた意味がようやく分かったよ。ヴィラン役に破壊活動させて、ヨウキ組傘下のいろんな企業に復興活動させて儲けてるんだね。なるほどよくできてる。

 

 いやそれマッチポンプじゃん……

 

 いやもうモチベーション下がりまくりだよ。しかも二十日町立中学校は私の母校でもあるし、襲いたくない。

 

 でもごめんよ。私の収入のために襲うよ。けが人は絶対出さないから、許して。

 

 そういうわけでやってきました我が母校。10人の戦闘員の人たちに校門と体育館の出口を抑えてもらって、私は体育館に向かってるところ。

 

 ちょっと懐かしいね。まだ卒業してからあんまり時間たってないけど、壁のない渡り廊下のおっぴろげ感とか校庭の砂の匂いとか、もうなんか懐かしさしか感じないよ。

 

 中学の頃は楽しかった……わけではないかな。割と退屈だった。でも今思うとそれが良かったのかもね。

 

 さて、体育館にやってきたわけだけど、どうしよっかな。壊せって言われてもどうしろというのか。

 

 「ウィスパーグリーン参上! マッシブレディ、我が相手だ」

 

 早いよ! まだ学校着いたばっかりだよ! なんでこんなに早くヒーロー来ちゃうの!

 

 あと、そのポーズは一人でやるとダサいよ。5人そろってやったらそうでもないけど、一人の時はやらないほうがいいよ。

 

 「お早い到着だね! でも一人で来ちゃってよかったの? 一人相手でも私は手加減しないよ」

 

 私は不敵な笑みを浮かべて……浮かべてられてる? 普通に微笑んでない? 

 

 というか体育館の中にいられると壊せないよ。天井がつぶれでもしたら死人出ちゃうよ。

 

 「余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といった感じだな。だが、お前の望みは我が打ち砕く」

 

 前も思ってたけど声低いよねグリーン。あと堅苦しい。

 

 グリーンガンとかいうショットガン出してきたね。それどこに持ってたの?

 

 あ、グリーンガン撃たせまくれば体育館壊れるんじゃない? 弾痕だらけになったら、改築のきっかけとしては十分でしょ。

 

 「私の望みなんて知らないでしょ? まぁかかっておいでよ」

 

 挑発しながら近づいてみる。

 

 「喰らえ! グリーンショットォ!」

 

 撃ってきた撃ってきた。思いっきり横に跳んで回避する。

 

 「我の弾丸より早いだと?! いや、撃つ直前から避け始めていたな」

 

 うんうんそういうことにしとこう。撃ってから避けたけど、黙っとこう。

 

 「ん? 前よりそれの威力上がってない?」

 

 振り返ってみると、床や壁にたくさん小さなクレーターが出来てる。絶対当たったら痛いじゃすまないよあれ。

 

 「……いや、上がってないぞ」

 

 「え?」

 

 「いや、だから上がってない」

 

 えっちょっとまって、ショッピングモールの時に撃たれたけど、私あんなやばい物受けてたの?!

 

 「そんなの人に向けて撃っちゃダメでしょ!」

 

 「ヴィランが何まともなこと言ってんだ!」 

 

 あ、声が高くなってる。やっぱり低い声を務めて出してたのかな。

 

 そういえばバトルスーツのない太ももに当たった奴は結構いたかったっけ? いや痛いで済むってどれだけ私頑丈なの? ありえないって壁にクレーターできる威力だよ?

 

 「くそ、やりづれぇな」

 

 お~いグリーンさ~ん? 

 

 「ちょっとキャラがぶれてきてない? 大丈夫?」

 

 「誰のせいだよ! ……はっ」

 

 いや”はっ”じゃなくてさ……もうなんか私もやりづらいよ。グダグダだよ。

 

 「喰らえグリーンショットォ!」

 

 やけくそ気味に撃たないでよ。避けれるけど。

 

 「当たらないよ~ん」

 

 おちょくりながら避けてみる。とにかくいっぱい撃たせて、壁とか床をクレーターだらけにしてもらおう。

 

 「グリーンショットォ! グリーンショットォ! グリーンショットォ!」

 

 技名言わないと攻撃しちゃいけない決まりでもあるの? 声枯れそう。

 

 一発ごとにたくさんの緑色の光弾がばらまかれる。それを見て横に跳んだり、弾が当たらないようにしゃがんだり跳んだりポーズをとったりして避け続ける。

 

 「グリーンジョッゴォァッハ」

 

 むせちゃった。あんなに何回も技名叫ぶから……

 

 「だ、大丈夫? 技名叫ばずに撃った方がいいんじゃない?」

 

 「う、うるざ、ゴホッゴホ」

 

 え、ほんとに大丈夫? 気管支炎とかになってない?

 

 「技名を叫ばないといけない決まりなんでしょ? 私以外誰もいないし告げ口とかしないからさ、今日はもう叫ばずに撃と? 喉痛めちゃうよ?」

 

 「ちっげぇよ気ぃ使うなぁ!」

 

 ありゃりゃ、完全にキャラ崩壊してる。面白いね! グリーン一人でも十分楽しいね!

 

 もうちょっとおちょくりたいから、歩いて近寄ってみる。

 

 「ぐ、グリーンショット」

 

 撃つ直前に懐に潜り込んで回避して、グリーンガンを左手で上に向ける。

 

 「我に触るな!」

 

 触るなとか言ってもがいてるけど、私に単純な力で勝てるわけない。天井にグリーンショットを撃ち込んで暴れ始める。

 

 冷静な感じのキャラだったのに、もう見る影もないね。

 

 「ねぇ、もう堅苦しいキャラ演じるのやめた方がいいんじゃない?」

 

 「お前に俺の何が解るってんだ!」

 

 おおう、めっちゃキレてる。

 

 「”我”とかいってるより今の方がいいよ。低い声もかっこいいけど、作り物って感じするし」

 

 「黙れ! 金目当ての社会不適合者が何言ってやがる!」

 

 素が出てきたけど言葉遣い荒いよ。堅苦しいグリーンしか知らない子供が聞いたら泣き出しそう。

 

 ガゴン

 

 ん? 上でなんかおとしなかった?

 

 うわ、天井の鉄板が剥がれ落ちそうになってるじゃん。老朽が進んでるところにグリーンショットが当たったせいかな。

 

 「ちょっとこっち来て、危ないから」

 

 「うるせぇ放しやがれ! 至近距離でグリーンショットぶち込んでやる!」

 

 ちょ、ほんとに危ないんだって。気づいて! 鉄板一枚とは言えあの高さから降ってきたら死にかねないって! グリーンが! 私はたぶん大丈夫だけど。

 

 あ、落ちてきた。ええいしょうがない。

 

 「うわ」

 

 グリーンに飛びついて押し倒す。直後にさっきまで私たちがいた場所に鉄板がぶっ刺さる。

 

 うわぁ角のとがったところがぐっさり床に刺さっちゃってるよ。あれはグリーンの手足ぐらいなら叩き切ってもおかしくないね。

 

 「お、おい。どけよ……」

 

 ん?

 

 後ろを振り返るのをやめて、押し倒したグリーンを見る。

 

 大の字に横になったグリーンの上に私が四つん這いで被さってるね。……これはおちょくれそう!

 

 「ん~? どうしたのグリーン」

 

 「いいからどけよ」

 

 「私が助けなかったら、グリーン大変なことになってたかもしれないね? なにか言うことあるんじゃないの?」

 

 ニヤニヤが止まらないね! グリーンの顔は見えないけどきっとすごい顔になってるね! 

 

 「ヴィランに何を言えというのだ」

 

 あ、堅苦しいグリーンになってる。

 

 「急に元のキャラに戻ってどうしたの? というか、お礼ぐらい言えるでしょ? ヒーローは子供たちの手本になるべきなんじゃない?」

 

 子供の手本。ヴィランを倒す正義の味方。そういうしがらみがヒーローの弱点なんだよね。

 

 「……うるせぇ! 俺はヒーローなんかやりたくねぇんだよ! 誰も見てねぇのに手本になんかなるか! どけ!」

 

 「おわぁ」

 

 思いっきり突き飛ばされた。ひどいなぁ。

 

 「ウィスパーブルー参上! マッシブレディ! 俺がお前を打ち倒す!」

 

 あ、ブルー来た。

 

 「ブルー! やはりブルーが一番早く来てくれたか」

 

 「何言ってんだ? 一番早く来たのはグリーンだろ?」

 

 「一番近くにいたからな。我のを除けば一番だ」

 

 なにやら親しげだね。仲いいのかな。

 

 「ここからは2対1だ。マッシブレディ、卑怯とは言うまいな」

 

 グリーンがすごく生き生きしてる。というか元の堅苦しいキャラを貫き始めた。

 

 「卑怯だよ。私は一人なのに」


 「戦闘員はどうした? 10人ばかり連れてきてんだろ?」

 

 ブルー、君いいとこに気が付いたね。

 

 「みんな校舎を抑えに行ってるよ。校門にもいたはずだけど、合わなかった?」

 

 「「馬鹿正直に校門から入るかよ」」

 

 そこ、ハモるところ?

 

 「お、おいグリーン 落ち着け、今はウィスパーグリーンなんだぞ」

 

 おっと? ブルーはグリーンがキャラ付けされてるの知ってるのか。

 

 「おっと、我としたことが」

 

 白々しい!

 

 「とにかく卑怯だよ! 私一人に二人がかりで襲うなんてひどい! 私負けちゃうじゃん!」

 

 「「どの口が言ってやがる!」」

 

 またハモってる。絶対仲いいでしょこの二人。

 

 「ぐ、グリーン?」

 

 「すまない。あまりにもアレなことを言われたものだから」

 

 アレって何? 

 

 「そうだ! 1対1を2回やろうよ。そしたら卑怯じゃないよ?」

 

 「「誰がやるか!」」

  

 狙ってハモってるでしょ。絶対そうだよ。

 

 「ウィスパーレッド参上! マッシブレディ! 今日こそお前を捕まえてやる!」

 

 あ、レッド来た。

 

 「ウィスパーピンク参上! 私があなたを更生してあげます!」

 

 ピンクは参上したときのセリフのパターン増やそうよ。

 

 「ウィスパーイエロー参上! 僕らが相手だ! マッシブレディ!」

 

 あ~あ5人そろっちゃったよ。キレイに整列しちゃってまぁ……おちょくりたくなるね。

 

 私は腰を引いて両肩を抱き、きゃぴきゃぴ声で言い放つ。

 

 「私一人を五人で襲うつもりなの? この変態! 集団レ〇プ魔!」

 

 「ヴィランが何言ってんだ!」

 

 「誰が変態だ!」

 

 「ふざけんなこのキチ〇イ女!」

 

 「僕らは正義の味方だぞ!」

 

 「私そんな趣味ありません!」

 

 一斉に私を非難した後、4人がグリーンを”え?”って感じで見た。そうだよね、ヒーローが”キチ〇イ”と言っちゃいけないよね。あと誰がキチ〇イだ! 

 

 「グ、グリーン、どうした? 何かあったのなら相談にのるぞ?」

 

 「グリーン……」

 

 「僕グリーンがそんなに怒るところ初めて見た」

 

 「グリーンさん、ヒーローがそんなこと言っちゃダメですよ」

 

 いいぞ……もっといがみ合え……

 

 「……ぇ」

 

 ん? なに?

 

 「うるっせぇなぁ! キャラだのヒーローだの俺に押し付けんな! ガラじゃねんだよ! 今時”我”とか誰が使うんだよバァーカ!」

 

 グリーンが本格的にキレてらっしゃる。ちょっとおちょくりすぎたかな。


 「「「「……」」」」

 

 4人が言葉を失ってる。そりゃびっくりするよね。

 

 「すまんグリーン、俺は、気づいていたのに」

 

 お、ブルーがグリーンに歩み寄ってる。友情を感じるね!

 

 「何が”気づいていた”だ。結局何にもかわらねぇだろぉが!」

 

 そして怒鳴るグリーン。きっと鬱憤がたまってたんだなぁ……あ、私のせい? 

 

 「そうだ。だから、すまない」

 

 ブルーがグリーンを抱きしめて謝る。腐女子大歓喜な絵面だね! 私は違うよ?

 

 「……怒鳴ってごめん。ブルーには愚痴を言ったり相談したり、いろいろ助けてもらってたのに」

 

 「いいんだ。なにも変えられなかったのは本当のことだ」

 

 グリーンもブルーを抱きしめて、お互いを許しあってる。きっと二人はヒーロー活動以外でもいい友達なんだね。

 

 

 

 

 ところで、目の前に(ヴィラン)がいるんだけど、いつまで抱き合ってるの?

 

 「その、グリーン? 俺もお前の悩みに気づかなかった。すまん、リーダー失格だな」

 

 レッド? ウィスパーレッドさん? ここにヴィランいるよ? ほっといていいの? 

 

 「僕も気づかなかったよ。仲間として恥ずかしい」

 

 イエローも私のこと無視するの? 無視はいじめなんだよ? 見て見ぬふりもいじめって先生に言われたでしょ?

 

 「ごめんなさいグリーン。私もグリーンの悩みをわかってあげられませんでした」

 

 ピンクまで……

 

 「いや、俺が黙ってたんだ。ブルーにだけ相談して、ほかにはだれにも言わなかったんだ。みんなは悪くないよ」

 

 もういいよ。私は私の仕事するよ。

 

 「それじゃ改めて……ウィスパーファイブさんじょ」

 

 えい

 

 ドゴオオン

 

 思いっきり足踏みしてやった。私の右足を中心に、体育館の床にひび割れが走っていく。これでもう改築するしかないでしょう。

 

 「いつまで私のことほっとくの? 無視は良くないよ。それはいじめなんだよ?」

 

 「……改めて、ウィスパーファイブ参上!」

 

 この上さらに無視?! 

 

 「「「「「はあああああああああああああ」」」」」

 

 いきなりウィスパー光線?! ちょ、ちょっとまって!

 

 「「「「「ウィスパー光線」」」」」

 

 「ちょっと待ってよおおおおおおおおおお」

 

 いたいいたいいたい! ダメージはほぼないけど痛いんだってそれ!

 

 はい、これを食らうのは2回目ですね。ぶっとい虹色の光線が飛んできて、私を包み込むんです。

 

 光線が収まったあと、プスプスと体から煙を出しながらうつ伏せに倒れこむ私がいるのです。

 

 「よし! さっさと捕縛して、グリーンの今後について相談するぞ!」

 

 「「「了解」」」

 

 「みんな……ありがとう」

 

 ええ……私そんな扱い……? もうなんか”ついでに捕まえますか”見たいな感じじゃん……

 

 もういい、私帰る。ウィスパー光線でだいぶ体育館壊れたし、仕事は終わりでいいはず。

 

 「ふん! 相談は勝手にすればいいけど、私はもう帰るからね!」

 

 立ち上がってそう宣言して、ダッシュで体育館から脱出する。

 

 うしろから”待て!”とか聞こえてきたけど、知らないし待たない。

 

 私は戦闘員の人に声をかけ、全力でプリアスに乗り込んで帰るのだった。

 

 

 

 

 体育館から町役場のヒーロー科の事務所に戻った俺は、4人の仲間にコンプレックスを打ち明けた。自分がヒーローに向いてないこと、特殊な力なんて持っていないこと、ヒーローを辞めたいと思ったことがあることも打ち明けた。

 

 そしたら、ブルーの中の人の木山栄二(きやまえいじ)が俺にあることを気づかせてくれたんだ。

 

 「誠司、お前はウィスパーファイブに必要なんだ。お前がいないと困るんだ」

 

 「そりゃ新しいグリーンを探すのは大変だろうけどよ。俺じゃなくてもいいだろ? スーツとグリーンガンがあれば、ウィスパーグリーンは誰でもなれるんだ」

 

 「お前がいないと、人質を取られた時に困るんだ。人質をとられたとき、誠司が一番活躍してるって気づいてるか?」

 

 「俺が?」


 「ああ、人質救出っていう一番難しい役を、ウィスパーグリーンは毎回完璧にこなしてる。だからウィスパーファイブはやっていけてるんだ。だから、グリーンは誠司じゃないとダメなんだ」

 

 そう言われて、俺は気づいたんだ。

 

 ヒーローは力に目覚めた人がやるんじゃなくて、ヴィランから人を助けられる人がやるんだって。

 

 俺は口が悪いし、性格もヒーロー向きじゃないかもしれないけど、ヴィランが取った人質を解放することができる……俺一人の力じゃないけど、この4人の仲間と一緒ならできる。だからヒーローやってるんだ。

 

 「俺、ウィスパーグリーン続けるよ。役に立てるって言ってくれるなら」

 

 あと、口には出さないけどマッシブレディに俺のグリーンショットを至近距離でぶち込んでやりたいからってのもある。

 

 マッシブレディはよくわからないヴィランだ。金が目的のはずなのに、奪い取ろうとしたことがない。中学校に現れた理由もよくわからん。金目当てなら銀行を襲えばいい、今朝の奴みたいに。

 

 つまるところ、金目的じゃなくて、俺たち5人の総合戦力より強いかもしれない、ヴィラン。それがマッシブレディ。

 

 きっと本当の狙いを突き止めて、捕まえてやる。そう決めたんだ。

 

 俺一人じゃ無理かもしれないけど、ウィスパーファイブならきっとできる。5人そろってウィスパーファイブだからな!

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