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発端・ショッピングモール

 私の名前は後藤美幸(ごとうみゆき)という。一応高校生。

 

 一応って言うのは、普通の高校じゃなくて定時制高校に通ってるっていうのもあるけど、部活もしてないし恋愛もしてない、勉強もあんまりしてないっていう高校生らしいことを何もしてないから。

 

 定時制高校に入った理由は、単に貧乏だから。

 

 だから昼間アルバイトして、夕方から夜に学校に行くっていう生活をしてる。

 

 で、昨日のことなんだけど、喫茶店のバイトを辞めることになっちゃって、今求人雑誌で新しいバイト先を探してるとこ。

 

 ちなみに喫茶店のバイトを辞めたのは、私が何かやっちゃったとかそういうんじゃないの。

 

 私がバイトしてると毎回私にセクハラをしてくるお客さんがいて、何回店長が注意してもやめなかったの。それでその人は、とうとうお店に出入り禁止になった。

 

 そしたらその人お店の近くで張り込み初めて、私のストーカーになっちゃった。私そんなにかわいくないはずなんだけどね。男子に告白されたこととかないくらいには。

 

 で、その人と関わりたくなくて辞めることにした。警察に行ってみたりとかすればいいんだろうけど、お店に迷惑かけちゃうかもって思ったから行かなかった。

 

 そういうわけで、私は普通の定時制高校に通う女子高生なのだと理解してもらえたかな?

 

 あ、ちょうどよさそうなアルバイト発見。

 

 ”平日の午前から夕方4時まで””本格的に働くのは週2回から3回、相談によっては週1回でも可””時給2000円以上になる可能性あり”

 

 ほ~ん、いいじゃん。

 

 電話で面接予約して、履歴書いて、あ、面接は明日のお昼? おっけいおっけい。

 

 

 

 そういうわけで1日経って、私は面接にやってきていた。

 

 高校の近くの喫茶店で面接をするってことになったので、15分前にその喫茶店に来ていた。

 

 おしゃれなお店だね。

 

 「おや? もしかして後藤さん?」

 

 ん? 声をかけられたね。誰だろう? 白いスーツにオールバックの20歳くらいのお兄さんだね。

 

 「はい、私は後藤ですけど、あなたは?」

 

 「ああ、私は後藤美幸さんの面接を頼まれた、木下というものです」

 

 おお、面接官だったのね。何分前から待ってたんだろう? 早めに来てよかった。

 

 「一目見てわかりました。後藤さんなら合格でしょう」

 

 「え? さすがに早くないですか?」

 

 会って名前言っただけだよ。さすがにほかにも聞くべきことあるでしょ。

 

 「いえ、後藤さんほどうちの仕事に適した人はなかなかいません。さ、こちらに」

 

 木下さんは私をテーブル席に座らせると、さっそくと言わんばかりに話し始めた。

 

 「わが社の名前はヨウキ組と申します。もちろん建築会社でも暴力団とかでもないです」

 

 「はい」

 

 「わが社の理念は地域の復興と中小企業の発展です。そのためにいろいろやる会社だと思ってください」

 

 「はい」

 

 「で、後藤さんにはヒーローと戦う悪役になってほしいのです」

 

 「はい?」

 

 ヒーローって、あれでしょ? 5人組で災害時とか犯罪が起きたときとかに現れて解決してる人たちでしょ? この町だとウィスパーファイブっていうヒーローがいるはずだけど、私が戦う? バイトがしたいだけなんですけど?

 

 「後藤さんはとても素質があるのですよ、一般人の10倍くらいの素質です。素質がなければ面接で落としてましたし、並みの素質であれば普通の戦闘員になってもらおうと思っていたのですが」

 

 うわ、ズイッと乗り出してきた。目が怖いねこのひと。

 

 「それだけの素質があれば、アルバイトと言わず正規雇用したいと思います」

 

 「は、はぁ……」

 

 すると注文していないのにブラックコーヒーが運ばれてきた。

 

 「まぁいきなりこんな話をされてもこまるでしょう。コーヒーでも飲んで、落ち着きましょう」

 

 木下さんはそういいながら自分のコーヒーをすする。

 

 私も飲もう。

 

 ズズズズ……うん、苦くなくてコクがあるいいコーヒーだね。 

 

 「ところで後藤さん」

 

 「なんです?」

 

 っと、もうほぼ飲んじゃったね。最後まで飲んじゃおう。

 

 「そのコーヒーに薬を入れておきました」

 

 「……はい?」

 

 何? はぁ? 何してくれてんのこの人! というか薬入れたんならふつう黙ってるもんじゃないの?!

 

 「安心してください。睡眠薬でも下剤でもないですよ。変な薬なことは否定しませんが」

 

 「ちょ、あの、何の薬をいれたんですか!」

 

 思わず大きな声を出しちゃった。いやいや私悪くないよねこれ。

 

 「覚醒薬です」

 

 麻薬じゃねぇか!

 

 「麻薬じゃねぇか!」

 

 「いえいえ覚せい剤ではなく覚醒薬です。薬ですよ」

 

 「何が違うんですか! もう全部飲んじゃったじゃないですか!」

 

 「飲んだ人の中に眠る特別な力を目覚めさせる薬です。きっとお仕事のお役に立つと思いますよ」 

 

 「辞退したいんですけど!」

 

 「無理です」

 

 木下のやつにっこり笑って断ってきたよ。どうしよう……

 

 

 

 というのが3日前の出来事。

 

 今私は初仕事をするために、ヨウキ組が借りているマンションの一室に来ていた。今日から仕事の時はここを私が使っていいらしい。

 

 それから木下が飲ませた薬で私の体は目覚めたらしい。その、特別な力とやらに。

 

 そう、私はこの細腕で軽トラックを軽々と持ち上げるほどの膂力を手に入れていた。

 

 「何が特別な力なの? 筋肉の力じゃん!」

 

 筋肉なんてないやわやわな腕のままでこの腕力が特別なのは解るよ? でもそれって見た目を度外視したらムキムキマッチョな人と何が違うのって話にならない?

 

 「で、この服はなに?」

 

 「それはわが社で用意した後藤さんのバトルスーツです」

 

 木下は私の目の前に何か黒いものを持ってきた。服らしい。

 

 「服ではなくバトルスーツです」

 

 「うるさい、別に名前なんてどうでもいいじゃん」

 

 「そういいつつも着てくださるんですね。後藤さんはお優しい」

 

 私は木下を無視してそのバトルスーツとやらを広げてみる。

 

 ノースリーブの黒いミニワンピース、ミニパンツに長い靴下とヒール、長手袋、全部黒い。しかも明らかに必要ない部分に黒いベルトが巻き付いてる。お腹とか鎖骨のあたりとか二の腕とか太ももとか。

 

 「趣味悪くない? 私こんなの着たくないよ」

 

 「髪型はサイドテールにしましょう。あ、覚醒薬の効果の一つに、髪の色を変えられるようになるのもありますよ。黒い服に合わせて紫にしましょう」

 

 話を聞かない木下。どうしようやりたくない着たくない。

 

 「大丈夫です。初仕事をこなせば、この仕事の楽しさが解ると思います。とにかく一度やってみましょうよ。あ、試着室は右手にありますよ」

 

 着ること前提で話進めないでもらいたいね。着るけど……

 

 「覗かないでよ?」

 

 「はい、わかっていますよ」

 

 ほんとかな~?

 

 試着してみたらなんか恥ずかしかった。上半身の体のラインが結構出る。こんな格好で町中にでるとか羞恥プレイにしか思えないんですけど。

 

 「あ、髪の色を変えたいと念じれば変わりますよ。紫にしましょう」

 

 木下の言葉に従うのは癪だし、ちょっと変えて青紫にしてみよう。

 

 うん、アニメキャラのコスプレにしか見えない。

 

 とりあえず出よう。給料をもらうために。

 

 「よくお似合いですよ後藤さん! あ、今後藤さんのヴィランネーム思いつきました。マッシブレディとかどうです?」

 

 「いかつい女って意味じゃない? さすがに名乗りたくないよそれ」

 

 まぁいいか、仕事中の私が後藤美幸だとバレるわけにいかないし、別に後藤美幸がマッシブとかそういうわけじゃないからね。

 

 「まぁまぁ、そろそろ初仕事の説明をしますね」

 

 「やることは解ってるよ。ハツカ堂ショッピングモールで騒ぎを起こして、ヒーローが来たら戦って、頃合いを見て逃げる。でしょ?」

 

 「はい、そうです。で、一般人に怪我をさせない、殺さない。建物を壊すときは安全確認ができてから。ヒーローに負けてもいいけど捕まったらだめです。それから可能なら建物内のガラスや備品などを壊してください」 

 

 「はいはい解りました。あ、楽しくなかったらやめるからねこの仕事」

 

 そう、楽しくなかったらやめていいと昨日言質をとっておいた。今日が最初で最後の仕事になる。というかする。

 

 「はい、絶対楽しいと思いますよ」

 

 いい笑顔ですね木下さん。むかつきます。

 

 「戦闘員は何人連れていきますか? 40人までなら何人でもいいですよ」

 

 黒子みたいな恰好したアルバイトの人たちのことだね。

 

 「じゃあ10人くらいでいいかな。私の頼みを聞いてくれるんでしょ?」

 

 「はい、大丈夫ですよ。それじゃあハツカ堂まで送りますね」

 

 

 

 はい、今ハツカ堂です。

 

 今はあの恥ずかしいコスチュームの上からトレンチコートを着て、眼鏡をかけてる。髪も黒に戻しておいた。

 

 にぎやかなハツカ堂ショッピングモールのど真ん中でこんな格好……帰ったら木下をぶんなぐってやる。今の私の全力右ストレートで、月の裏側までぶっ飛ばしてやるんだから。

 

 ちなみに10人の戦闘員は私の周りの一般人にさりげなく混じってる。もちろん一般人の恰好でね。

 

 はぁ、やりますか……ちょうどよく子供連れの3人が近くにいるしね。

 

 私はバサッとコートを脱いで眼鏡をはずし、髪を青紫に変える。

 

 「今からここは私たちのモノだよ! お買い物中の皆様! 死にたくなかったら逃げまどってね!」

 

 私は思いっきり大声で叫びながら、子供連れの家族のお父さんを捕まえて人質にする。

 

 「あ、あなた!」

 

 「お父さん?!」

 

 家族がびっくりしてる。普通子供を人質にするんだろうけど、かわいそうだから大人の男の人にした。

 

 同時に一般人に紛れてた10人が変装を解いて黒子みたいな恰好になる。

 

 「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!」

 

 「うぎょぎょぎょぎょ!」

 

 改造されたって設定の戦闘員は、奇声を上げながら私の周りに集まって来る。

 

 バイトの人たちも大変だなぁ……

 

 「きゃあああああ」

 

 「ヴィランだ! みんな逃げろおおおぉ!」

 

 おお、さっきまで普通にしてた人たちが悲鳴を上げてるね。みんな一目散に私から逃げようとして、狭い出口で押し合いへし合いしてる。

 

 あれ? なんだろうこの気持ち。いろんな人たちが私のせいでパニックになってるって思うと、なんか……

 

 「楽しい……」

 

 あ、いけないいけない。楽しんじゃったら明日以降もこんなことさせられる。

 

 「ごごごごごごごぉ!」

 

 戦闘員の一人が入口の方で固まってる人たちを脅かし始めたね。

 

 「きゃああああああ」

 

 「近寄らないで! こっちこないでぇ!」

 

 「お、おれの彼女にふれんじゃねぇええ!」

 

 めっちゃ反応するじゃん。超楽しそう!

 

 あ、人質にしたお父さんの家族があわあわしてる。声かけちゃおっと。

 

 「ねぇ? 逃げないと殺されちゃうよ?」

 

 「お、お父さんを離せ!」

 

 「待ちなさいリョウタ!」

 

 あ、子供がお父さんを助けにきちゃった。どうしよう面白い。

 

 私の腰くらいの身長しかない少年が、必死な顔して私のお腹をポコポコ叩いてくる。

 

 「そんなんじゃ私はやられないよ?」

 

 ああ、泣きそうな顔になっちゃった。ポコポコしてくる子かわいいね。捕まえちゃお。

 

 「は、はなしてぇ!」

 

 「息子を離せ! 人質は俺一人で十分だろ!」

 

 お父さんまで私に担がれたまま暴れだしちゃった。う~んと……

 

 「ねぇ僕? 放してほしい?」

 

 小脇に抱えられた少年は、暴れるばかりで答えてくれない。

 

 ちょっと悪役プレイをしておこうかな。決して面白いからじゃないよ。

 

 「君が人質になるなら、お父さんを開放してあげるよ?」

 

 少年は暴れるのをやめて、私の顔を見る。

 

 「おいやめろ! 人質は俺だ! 息子を離せぇ!」

 

 「お父さん? 私の機嫌をそこねたら、どっちも助からないよ? わかったら静かにしてて?」

 

 お父さんの顔を見て私は脅す。顔がにやけまくってて怖くないかもしれない。

 

 「わかった。僕が人質になるから、お父さんを開放して……?」

 

 うわぁ健気! かわいい! 楽しい! 顔のにやけがとまらないよ!

 

 「素直ないい子だねお父さん? じゃあ開放するから、奥さんと一緒に避難でもなんでもしてね。私の邪魔したらこの子殺しちゃうかも」

 

 「わかった。言うとおりにする。だから息子の命だけは……」

 

 「それはあなたたち夫婦で決めてね」

 

 それだけ言ってお父さんを下ろす。お母さんすごい泣いちゃってるね。申し訳ないと思うけど、楽しさが上回って笑ってしまう。

 

 お父さんは奥さんと一緒に非常口に向かう。

 

 「きっとウィスパーファイブが助けてくれる……」

 

 そう聞こえた。やっぱりヒーローが来るんだね。

 

 「大丈夫? 寂しくない?」

 

 「大丈夫だもん! きっとウィスパーレッドが助けてくれるもん! お前なんかやっつけてくれるもん!」

 

 へぇ~、ウィスパーファイブって私が知らないだけで親しまれているんだね。

 

 っと、そろそろお客さんたちの避難が進んできたね。

 

 「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」

 

 「いぎぎぎぎぎぎ」

 

 まだやってたのか、もうほとんどショッピングモールの中の人は逃げてて、戦闘員たちは逃げ遅れた人を追いかけまわして遊んでる。楽しそう。

 

 「ウィスパーファイブが来るまで暇だね。僕、名前はなんていうの?」

 

 「リョ、リョウタ」

 

 ああ、そういえばお母さんが名前呼んでたような……?

 

 「じゃあリョウタ君だね。私はごt、マッシブレディっていうの」

 

 危なく本名名乗るところだった。危ない危ない。

 

 「ヴィランはみんな変な名前してる」

 

 おお、リョウタ君から話しかけてきた。

 

 「そうだね。私もそう思う」

 

 リョウタ君は私が顔を見ると、そっぽを向いてしまう。なんでだろうかわいいとしか思わない。

 

 ふと周りを見ると、戦闘員10人が私の近くに戻ってきてた。

 

 「全員避難した?」

 

 私の問いに全員がこっくりと頷いた。シンクロって、見た目が不気味な人がやるとちょっと怖いね。

 

 「それじゃヒーローが来るまで待機だね」

 

 私がそういうと、全員が休めの姿勢になった。すごい練度の高いバイトさんだね。ほんとに改造されてたりして。

 

 「それじゃリョウタ君、お父さんとお母さんに会いたい?」

 

 「え? あ、会いたい」

 

 会いたいそうなので、会わせてあげよう。リョウタ君を小脇に抱えたまま、ご両親が出て行った非常口に向かう。

 

 しばらく進むと、ハツカ堂ショッピングモールのすぐ外にいるご両親が見えた。

 

 一旦外から見えないところに戻る。

 

 「いいリョウタ君、次にヴィランが現れたら、急いで逃げるんだよ? お父さんやお母さんが人質になっても、君は助けに来ちゃいけないの。ご両親はヒーローが助けるから、君も避難するんだよ?」

 

 リョウタ君を下ろして、視線を合わせて言い聞かせる。怖い思いをさせたので、そのお詫びもかねての注意をする。

 

 「さ、ここから出ればご両親に会えるからね」

 

 そう言ってリョウタ君を行かせて、私はショッピングモールの中に戻る。

 

 

 

 

 戻ってきたら、戦闘員の人が話しかけてきた。

 

 「マッシブレディさん、人質を逃がしてよかったのですか?」

 

 おお、渋い声だね。男の人かな?

 

 「いいのいいの、ヒーローが到着したときに人質がいたら、卑怯とか卑劣とか言われるでしょ? そんなこと言われるの嫌だし」

 

 あとリョウタ君がかわいそうだし。

 

 「それより、ヒーローが来るまで暇だから何かして暇つぶしでも」

 

 するとモールの2回からかっこいい声が聞こえてきた。

 

 「暇つぶしはしなくていいぜ! ヒーローならここにいるからな!」

 

 全身色タイツに白い仮面、かっこいい装飾をちりばめた人が出てきた。

 

 「ウィスパーレッド参上! ヴィラン! お前らの好きにはさせないぜ!」

 

 「ウィスパーブルー参上! この町の平和は俺たちが守る!」

 

 「ウィスパーグリーン参上! ヴィラン出るところに我らあり!」

 

 「ウィスパーイエロー参上! 僕たちがいる限り誰も傷つけさせないよ!」

 

 「ウィスパーピンク参上! 私があなたを更生してあげます!」

 

 おおう、5人そろってポーズ決めてるよ。町や市ごとにいるだけあって、ポーズがご当地風というか、ほかと被らないようにしてるせいでかっこよくない。特にレッドがかっこ悪い!

 

 おっと、見てないで何か言わないと。

 

 「やっと現れたねウィスパーファイブ! 私はマッシブレディ! このショッピングモールはいただくよ!」

 

 「ショッピングモールを奪ってどうするつもりだ!」

 

 え? 

 

 「え?」

 

 「「「「「え?」」」」」

 

 しまった考えてなかった。えっとぉ……

 

 「金目の物をいただくのよ! 現金もいただくし!」

 

 「がめついぞ!」

 

 「がめついな」

 

 「がめつい」

 

 「がめついね」

 

 「がめついわ」

 

 「うるさあああい!」

 

 5人そろって同じこと言わないでもらえるかな! イラっと来るし何回も言われると”がめつい”ってなんだっけ? ってなるじゃん!

 

 「さっさとかかってきなさいよ! どうせ5人がかりじゃないと怖くて戦えないんでしょう?」

 

 「なんだと?! お前ら! いくぞ!」

 

 「「「「了解」」」」

 

 ちょっと煽ったらめっちゃ勢いよくかかってきた! 煽り耐性0なの?

 

 「はあああっ」

 

 レッドが持ってる赤い剣で正面から切りかかって来る。なんだかすごく遅く感じるね。

 

 刃が触れる前に指でつまむと、ピタリと剣が止まった。私の握力がすごいのかレッドの剣が遅いのか……

 

 「なっ! 俺の攻撃がこんな」

 

 レッドが何か言ってるけど、どうしよう? ヒーローに大けがさせちゃダメだし、隙だらけの顔やお腹を攻撃するとたぶん大変なことになるね。

 

 う~ん、剣をとりあえず奪ってみようかな。

 

 「それ」

 

 「うわああああ」

 

 あ、剣を強く握りすぎてたのかな。奪おうとしたらレッド本体も付いてきて、遠心力でそのまま飛んで行っちゃった。

 

 「よくもレッドをおおお」

 

 ブルーが両手に持った短剣で切りかかって来る。でもおっそいね。余裕で躱せる。

 

 「あ、あたらない、だと……っ」

 

 「いやだって攻撃が遅いもん」

 

 言い訳しながら突き出してきた手をつかんで、そのまま後ろにポイする。

 

 「うわああああ」

 

 レッドと同じように壁に激突して、ウググってうなってるね。

 

 「素早さに自信があるようだが、これはどうかな?」

 

 グリーンが緑色のでっかい銃、ショットガン? みたいなのを構えてる。

 

 「試してみれば?」

 

 「そうする」

 

 バァンって音と一緒に、銃口から緑色の光の玉がいっぱい飛んでくる。

 

 私に当たりそうな光弾もたくさんあるけど、とりあえず腕で顔をかばって受ける。

 

 体に小さな何かがたくさん当たる感触があるけど、全然痛くない。

 

 あ、でも素肌が露出してる太ももに当たった奴はちょっと痛かった。ピリピリする。

 

 「なっ、グリーンショットが効かないだと?!」

 

 「名前もうちょっと何か考えよ?」

 

 グリーンに一気に近づいて緑色のでっかい銃を蹴飛ばす。

 

 「そこまでだ! ヴィラン!」

 

 イエローが叫ぶのでそっちを見ると、どこから取り出したのか、私よりおっきな黄いろいハンマーを振りかぶって突っ込んでくる。

 

 「それどこに持ってたの?」

 

 振り下ろされるハンマーのふちをつかんで、ハンマーごとイエローを後ろにポイする。

 

 「ふぎゃ」

 

 「げふ」

 

 後ろにいたグリーンにイエローが降ってきて、こちらもウググってうなりながらぐったりしてるね。

 

 「私一人でも! できることがあるはずです!」

 

 ピンクが持っているのはステッキかな? アニメの魔法少女が持っているようなかわいいやつ。さすがに高校生にもなるとおもちゃ売り場で見かけても買えないね。ほしくもないけど。

 

 「何をするの?」

 

 「ウィンドショットォ!」

 

 ピンクが叫ぶと、ステッキからちっちゃい竜巻がたくさん飛んでくる。

 

 どう見てもグリーンのグリーンショットより弱そうだから、ノーガードで受けてみようかな。

 

 「お? おわぁあ?」

 

 「やった! 効きました!」

 

 竜巻はバラバラに飛んでくるように見せかけて、全部一緒に私に当たってきた。そして私の体が思いっきり上の方に飛ばされてしまう。

 

 黒いミニパンツが丸見えになってない? いや下着じゃないから恥ずかしくはないけどさ。

 

 3階建てのモールの吹き抜けを上り切り、天井に当たる直前で止まって落ち始める。そして着地点が……

 

 「え? うわっちょっとこっち来ないでくださいぃ」

 

 「いや飛ばしたのはアンタでしょ」

 

 ちょうどピンクのいるところだった。ピンクは自分のところに落ちてくるとは思ってなかったみたいで、よけられずに私の下敷きになった。

 

 「う、うぐぐ」

 

 口で言うのか……

 

 「っく、強い……」

 

 「俺たちは負けられないのに……」

 

 口々に悔しそうなセリフを言い出した。というか弱くない? 特にピンクとか。

 

 「あきらめるな! 俺たちがあきらめたら、誰がこの町をヴィランから救うんだ!」

 

 おお、レッドがかっこいいこと言ってる。いいぞ、私も逃げるタイミングを逃していたところなんだよね。

 

 レッド以外の4人が、コクリとうなずく。

 

 すると全員が一か所に集まって、右手を重ねてこちらに向けてきた。

 

 「ん? なに? 右手で何ができるっていうの?」

 

 私の問いかけを無視して、全員が何か集中し始めた。

 

 「「「「「はあああああああああああああ」」」」」

 

 うるさいうるさい、5人全員でそれやらないでもらえるかな。

 

 「「「「「ウィスパー光線」」」」」

 

 ウィスパーファイブ全員がそう叫ぶと、5人の手から出たそれぞれ色の違う光が一か所に集まって、カラフルな太い光線になって私のほうに放たれた。

 

 それにしても、名前もうちょっとなんとかならないかな? せめて光線をレーザーとかビームとかにしようよ。

 

 「う、うわあああああああ」

 

 油断してたけどこれ普通に痛い! なんかピリピリするかな? とか思ってたけど全身が痛い!

 

 「いったあああああああい!」

 

 シュンッて感じに光線が収まると、そこには全身からプツプツと煙を放つ私がうつ伏せに倒れています。

 

 すごく痛かった。けど、なんかそんなにダメージがない……? ただ痛いだけ? 

 

 まぁいっか、逃げるならこのタイミングでしょ!

 

 「ぐっ、油断した……今回はこれで引くことにするよ」

 

 「待て! マッシブレディ! おとなしく捕まれ!」

 

 「お断りだよ」

 

 「ぐぎぎぎぎぎ!」

 

 「うぎょぎょぎょぎょ!」

 

 柱や手すりの影に隠れていた戦闘員が、私を回収して走って逃げていく。

 

 もちろんウィスパーファイブも追いかけてくるけど、私が痛めつけたからか、大技を放ったからかすぐ息切れしてるね。

 

 モールの裏口に留めてあるワゴンに乗り込んで、ヨウキ組の人の運転で木下と話したマンションの一室に帰ってきた。

 

 「はぁ、疲れた」

 

 やっぱりこの恰好は恥ずかしいし、最初は人がいっぱいいて緊張するし、なによりウィスパー光線が痛かった。

 

 「お疲れ様です後藤さん! いやぁ完璧でしたよ! 最高です!」

 

 最悪だよ。疲れてるときに一番合いたくない人だよ。

 

 「木下さん。お世話になりました。本日をもってお仕事を辞めさせていただきます」

 

 まぁでも今日限りでお別れだし、いちいち突っかかるのも面倒だね。

 

 「え? 楽しかったでしょう? 次の仕事は来週にしましょう! あんまり何度も騒ぎを起こすのもなんですからね」

 

 「え? いやいや楽しくなんて」

 

 「戦闘員が言っていましたよ? 楽しいってつぶやいたそうじゃないですか!」

 

 聞 か れ て た

 

 「いや、その違うんです」

 

 「しかしバイトの皆さん大興奮してましたよ? 全員の攻撃を真正面から打ち破る姿はかっこよかったって言ってまして、ぜひ来週もご一緒したいと」

 

 「いやだああああああああああああああ」

 

 こうして、私はヒーローを呼び出しては適当に遊んで給料をもらう仕事に就いた。 数日前までただの女子高生だったのに、私はこれからどうなるんだろう……?

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