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ダンジョンは、土から生える。  作者: 樹上ペンギン
6/15

5:ダンジョンは、名前が欲しい。

ちょっと短めの回です。

「名前って、何?」


 そのボクの問いに、目の前の精霊ーーシュートは、ビシリと音を立てて固まった。


「……そこからか」


 やがて、肩をがっくりと落としたのだった。


◇◇◇


「いいか、俺は風の精霊だ」

「うん」


 少したって、持ち直したシュートが説明をしてくれる。本当に面倒見が良い精霊だ。


「今この場で、風の精霊って言やあ俺しかいねえ。この場で『風の精霊さん』って呼びかけりゃ、俺しか反応しねえ」

「そうだね」

「だが、別のトコに行きゃ違う。風の精霊ってのは世界中にわんさかいる」

「ふむふむ」

「下手すりゃ、百人ぐらい風の精霊がいる中に俺が混じってる、なんてこともあるわけだ」

「うん」

「そんなときに、俺を呼び出すために『風の精霊さ~ん』なんて呼びかけて、まともに通じると思うか?」

「ううん」


 ボクは、体を横に振った。普通に考えれば、その場のすべての風の精霊が反応してしまうだろう。


「そこで、個々の名前ってのが必要になってくる。例えばさっき言った状況で、『シュート』だの『シュトゥルム』だのって呼びかけりゃどうなる?」

「……シュートが出てくる」

「そうだ。まあ、二、三人は名前が被ってるやつがいるかもしれねえが、そこは顔見りゃわかんだろ。だから名前ってのがあると便利だっつー話なんだが……」

「ボクには、無いね」


 だよなあ、といってシュートは顎をさすり始めた。


 んー、こういうときは、一つぐらいしか出来ることがないと思うんだけどなあ。


「ねえ、シュート」

「あん?」

「名前、つけてよ」

「……」


 すると、シュートは物凄くいやそうな顔を返してきた。


「な、なにさ」

「……いや、俺ってそういうセンスまったくねえんだよ」

「いいからいいから」

「……文句言うなよ」


◇◇◇


「ダンジョンだから、ダン」

「……安直すぎない?」

「じゃあ、ジョン」

「あんま変わんないよね」


「丸っこいから、タマ」

「うーん」

「……コロコロ転がるから、コロ」

「むー」


「黒っぽいから、クロ」

「もう一声」

「うっせえなあ!文句言うなよっつったろうが!」


 どうやら、シュートも我慢の限界がきたらしい。唐突に声を荒げて、地面に拳をたたきつけた。


 その衝撃で、ちょっとボクの体が飛び跳ねた。


「ごめんごめん、そう怒んないで。あと一回で良いから、何か考えて欲しいな」

「めんどくせえなあ……。じゃあ、オブシディアンっぽいから、シディで」

「オブシディアンって?」


 ボクからの質問に、今日一番のため息が炸裂した。相当イライラしてきたらしい。


「はあ……。黒曜石のことだよ」

「黒曜石って?」

「ああもう!要はお前さんみてえな黒くて透き通った石っころだよ!」

「なるほど」


 しかし、シディ……シディか。


「うん、気に入った。ボクは、今日からシディだ!」

「……そうかよ。そいつはおめでとさん」


 疲れ切った顔で返してくるシュート。


「よろしく、シュート」

「よろしくな、シディ」


 そういって、ボクは自分の体をシュートの拳に軽くぶつける。


 カキン、と軽やかな音が体中を満たすように鳴り響いた。

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