1:ダンジョンは土から出たい。
おそらく月一ぐらいでのペースの投稿になると思われます。モチベが高ければ突発的に上げるかもしれません。
おなかが減った。その感覚以外の何かを、初めて知った。自分が根を張った大地を覆う空気に触れたとき、体中の何かがざわざわとうごめくのを止められなくなった。
知りたい。知りたい。知りたい。
地面の中で潜むボクは、あっという間にそんな感情に支配されてしまう。
なんとなくそうしなければいけないと、何かにせき立てられるように上へ上へと自分を伸ばしてきたがーーどうしてなのかが、ようやくわかった気がする。
そうだ。
ボクは、世界を知りたい。
◇◇◇
世界を知るには、世界を感じられなくちゃいけない。ボクの上を走り回る奇妙なモノ達は、みんな何らかの方法で世界を認知しているようだった。
今ボクは、触れることでしか世界を認知できない。なにやら地表にでている部分は、一定の周期で温まったり冷えたりするようだ。時折温まり方がぬるくなったり、水の粒らしきモノが降ってきたりもする。水の粒のようなモノは、ボクを通り抜けて、ボクの中を横切る巨大な水の流れに合流していく。
空気が自分の表面を撫でていく感覚はなかなかに心地が良い。特に水の粒が降ったあとなど、いっそうひんやりとして爽快な気分になれる。
そして、今最もボクの興味を引いているモノは、ときどきボクの上を通り過ぎていく謎の物体である。四つほどの何かをせわしなくボクに押し当て、その反動で移動しているようだ。押し当てるモノは四つとは限らず、二つであったり六つであったり、数え切れないほど多かったりもする。
さらに興味深いことには、その動く物体達は一つ一つの大きさが随分と違うのだ。今のボクの地表部分に数え切れないほど敷き詰められそうなモノもあれば、たった一つでボクの表面をすっぽり覆ってしまうものさえある。ボクも地表に届いてから常に自分を大きく広げ続けているが、それでも届きそうにないのがときどきやってくる。
ときどき、ボクの上でじっとしていた小さいのが慌ただしく去っていくと、あまり時間をおかずに大きいのが同じ方向へいくことがある。どちらもなかなかのスピードで、それなりに広がったボクからはすぐに出て行ってしまうことが多かった。
最初から小さいのが猛スピードで抜けていって、そのあとを大きいのが追っていく、という途中の部分だけを知ることが特に多く、おそらく始まりという場面やおしまいという場面を感じることは余りなかった。
特におしまいの方は非常に珍しく、ボクは二回ほどしか感じ取っていない。大きい方が小さい方に追いつき、なんだかよくわからないけどボクに押し当ててくる。小さい方も初めは力いっぱい動こうとするけど、そのうちに動かなくなってしまったのだ。
そういう風に終わりを迎えるのか、と感動したことを覚えている。
そして、そのとき小さい方から出てきた水のような何かがボクにしみこむと、やたら空腹が満たされる思いになった。これも、ボクが動き回る何かに興味を引かれた一因である。
そいつらは、水の粒が降ったときにボクから出て行くことが多い。ボクの上には何もないところと何かがのっかっているところがあって、後者には水の粒が降っているときでも全然ボクに水が届かない。そういったところには水が降ってきてもそいつらはとどまっている。
むしろ、水が降り始めるとそこに向かっているときさえある。水が苦手なのだろうか?
知りたいことは、まだまだ尽きない。
◇◇◇
随分と時間が経った。……と、思う。時間の流れる感覚というヤツはよくわからない。
ある時、地面の特に重点的にボクを染み込ませた部分が動かせることに気づいた。この事実はボクにとってこれ以上なく喜ばしいものであった。
しばらく好き勝手にうにょうにょと蠢かしていたのだが、どうにも近くに動く奴らがいるとすぐ離れていってしまう。時折でかいのが飛びついてくる感触はあるが、どうにもボクが動く様子は人気が低いようである。
何とか直接見に行くことはできないのだろうか?その願いは、存外早く叶えられることになる。
ある時、暇つぶしに地面を動かしていたら、はずみで地中深くの『ボク』が動くのを感じた。
これだ!これを繰り返していけば、ボクは外に出られるハズだ。
そうと決まればあとは簡単。『根』が切れないように注意しながら、慎重に『ボク』を押し上げていく。時折硬い何かに体が当たっては避け、当たっては避けを繰り返し、だんだんとボクは地表へと近づいていった。