表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンは、土から生える。  作者: 樹上ペンギン
1/15

プロローグ

 暗い、暗い土の中。『ソレ』がいつからあったのかは誰にもわからない。人の頭ほどの大きさで、透明感のある漆黒の珠。いつからそこに埋まっているのかは皆目見当がつかないがーー『ソレ』は確かにそこにあった。


 『ソレ』には、いつからか自我が芽生えていた。自我といっても、そうご大層なものではない。獣のたぐいなら平等に持ち合わせる、食欲というヤツである。


 しかし、『ソレ』には口はなかった。それどころか、一切のくぼみすらない。もしも周りの土を掘り起こして取り出してみたならば、きっちりと測りながら作ったような狂いのない球形と、つるりとした表面に、ある種の違和感を抱く者もいるだろう。


 では、どうやって『ソレ』は食欲を満たすのか。『ソレ』は、もぞもぞと地中深くに『根』を張り始めた。


 ーーふかく、ふかく、もっとふかく。そこにはきっと、あるハズだーー


 無論、食欲だけの『ソレ』に言葉を用いた思考はまだ起こり得ない。ただただ種としての本能のままに、地中深くへと掘り進む。


 静かに流れる地下水脈を抜け、堅く閉ざされた岩盤の層を掘り進み、自分の食事を探し続ける。


 そして、とうとうーー根の先に、お目当てのモノがふれた。


 『霊脈』とも呼ばれる、力の流れ。大地の奥深くを流れ、大地を潤す生命の根源。その巨大な流れに張られた根は、流れる力のほんの一部を吸って育ち始めた。


 どれだけ吸っても、吸いきることなど出来はしない。雄大な自然の恵みに、よもや感謝などはしないのであろうがーー『ソレ』は、使った力の余り(・・)を周囲の地面にしみこませ始める。大地を、己が身体の一部とするために。


 じわり、じわりと『ソレ』の身体は広がってゆきーーある日、地表に届いた。それ以上、自分をしみこませることができない場所を知った。


 空というモノを知り、風というモノを知り、陽の光を知り、雨というモノを知り、水が大地に染みゆくことを知り、大地に溢れる生命の息吹を知った。


 その日、世界を知った『ソレ』をーー人は、『ダンジョン』と呼ぶ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ