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兄の客は他島の代理官だった。
良好な関係にある四島の若手同士で親睦会といったところ。それぞれウノー、ライカール、エレイゼの代理官だという。
ウノーはオルロフよりかなり暑い島で、代理官殿の肌・髪・瞳の色も濃い方だ。
そういえばウドムット人の容姿について触れていなかった気がする。一言で言えば日本人に近い。
肌は色白から褐色、髪は茶から黒、瞳も茶系から黒と日本人より幅はあるけれど、ブリーチやカラコンが普通に普及していた平成日本の記憶に比べると、むしろおとなしい。ピンクの髪とかが居ない。
魔法が無いことと相まってファンタジー感がまるで無い。
ライカールは逆に寒い島で、代理官殿も色白・茶髪・茶の瞳だ。
エレイゼはオルロフとイルルカの中間にある島で、かつて『肌色』と呼ばれていた肌の色をしている。顔は濃い目で、強いて言えば日本人とアラブ系のハーフみたいな感じ。
ちなみに兄嫁もエレイゼの出だったりする。
「さてと、今日は朝から楽しみにしていたのだ。ヴァレリー君ご自慢の料理が食べられるとのことで」
「ここ数日その話ばかりですしね」
「ああ、どんなものなのだろうね?」
そんなことを言い合う客の前に一皿目とフォークを並べていく。
「一皿目はこちら、モームとルクスカヤのマリネでございます」
「どれ……これは美味いな!」
「本当に。素晴らしい料理だ」
「ええ、ヴァレリーさんの言う通り芸術的ですらありますね」
賞賛の言葉に兄の様子をうかがうと、目を見開いてから軽くこちらを睨んで来た。味が変わっていることに気づいてのことだろう。
今日から焼いた牛骨が加わって、フォン・ド・ヴォー二歩手前くらいまではスープストックの旨味が向上しているし、あく抜きして細かく刻んだルッコラもどきを混ぜ込んであるから、風味もより良くなっているのだ。
一応新作では無いし、美味しくなっているのだから睨まないで欲しいものである。
「次はクラムチャウダーと呼んでいるスープでございます。こちらのスプーンをお使いください」
「スープに乳を入れるという発想は無かったな。だが実に味わい深い」
「ありがとうございます」
兄は目を閉じて「う〜ん」と唸っている。今度は昨日の今日で味が向上していることに、感心してくれたように見受けられた。
野菜を炒めるのに使う油を植物油から牛脂に代え、貝の煮汁を煮詰めてスープストックを足したから、より複雑な味に仕上がっている。
「白身魚のフライとハッシュドリフェーリでございます。ナイフで一口大に切り分けてお召し上がりください。味はついておりますが、こちらのソースもお試しください」
「このソース。これはいいね!」
褒められたソースは、スープストックを煮詰めて各種調味料で味を調えたものだけど、正直まだまだな出来。香辛料の種類が少な過ぎるし、何より甘味料が無いので辛味と酸味が勝ちすぎている。
「バクラの煮浸しでございます。油っこい料理の後のお口直しにちょうどよろしいかと」
「最初の料理もそうだったが、これはあえて冷ました料理なのだな?」
「左様でございます」
本当は『冷やした』まで行きたいんですけどね。
冷蔵庫なんて原理もよく知らないから、この世界で再現できるとは思えないけど。
「最後の皿はサイコロステーキでございます」
「これもソースが効いていて良い」
「食べなれたものだけに違いが引き立つというものだな」
現時点でベストに近いコースに満足してもらえたようだ。
ただ、帰す前に聞いておかなければならないことがある。
「どれも非常に美味だったよ」
「ありがとうございます。ところで皆様のご出身の島には、オルロフでは食べられていない食材などはございませんか?」
「ライカールは寒い土地でな、モームの育ちが悪い。代わりにウルクという家畜が飼われている。モームに比べて小さいので農作業では役に立たぬが、長い毛が糸の原料にもなる」
なるほど、羊みたいな位置付けの動物か。
「それから芋が安いぞ。麦もあまり育たぬので芋畑が多いのだ。同じ重さなら芋の方が安い」
「では、オルロフで麦を買いライカールで売り、ライカールで芋を買ってオルロフで売れば儲かりそうですね」
「芋などそうは売れないだろう」
「今より売れるようになると思います」
「君の料理でか? 期待するとしようか」
いえ、安い芋があるならデンプンを取り出したいんです。
「ウノーは果物が豊富ですね。オルロフでは果物と言えば秋の味覚ですけれど、ウノーには今の季節に取れる果物もあるのですよ」
「取り寄せることは出来ませんか?」
「我が家に届いているものがあります。今日のお礼に届けさせましょう」
南国のトロピカルフルーツですか。ありがたい。
「それと魚や貝は今日初めて食べたけれど、ウノーには海のものを食べる風習があるよ。リマールと言って……」
甲殻類! 市場で売ってなかったけれど、そんなところに居ましたか。
話によるとザリガニ=ロブスター系のようだけど、十分十分。
「エレイゼはオルロフに近いからね、特に変わったものは無いかな。むしろイルルカのあの季節構わずに卵を産む鳥」
「ああリケルケな」
「そうそれ。今日は卵料理が出てくると思っていたけど、無かったのが意外だったね」
なんじゃそりゃ?
「そうか、お前はまだイルルカに帰ったことがないんだったな」
そう。私はイルルカ籍だけれど、オルロフ産まれのオルロフ育ち。イルルカに行ったことがない。
兄によると、どうやらニワトリに近い位置づけの家禽が居るようだ。そいつは是非とも取り寄せねばなるまい。
「また近いうちに呼んでくれたまえ」
「私もお願いします」
料理が好評だったのも勿論ありがたいが、私としては更なる食材の情報が得られたのが一番大きな収穫だった。