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 次の日は朝から驚かされた。

 運ばれて来た無発酵パンとスープとモーム乳の軽い朝食を自室でとったのだけれど、そのスープがミネストローネだったのだ。

 ちゃんと出汁が取ってあるのはもちろんのこと、粗みじんに刻まれた野菜がたっぷりと入ったそれは、トマトが無いだけに一味足りない感はあるものの、十分以上に美味に仕上がっていた。

 昨日調理中の雑談で、もしかしたらミネストローネのような料理の話をしたかもしれないけれど、実物を見たことも食べたこともないキールが、一晩でいきなり応用してくるとは予想外というよりも想像すらしていなかった。超優秀な助手を手に入れたのかもしれない。

 キールと話てみようと自室をでると、ちょうど出立するところの兄と出くわした。


「詳しいことは帰ってからだが、悪いようにはせん。それより今日も美味い夕食を用意しておけよ」


 いい笑顔でそれだけ言うと、返事をする間も無く兄は出掛けて行った。

 ちょっと順調過ぎやしないか?

 上手く行き過ぎなことが信じられなくて、頬をつねってみるなどというマンガ的な行為を自分がする、なんてことも想像していなかった。


「朝食のスープ、美味しかったよキール」

「ありがとうございます坊っちゃん。いやね、ウチの娘が昨日の芋のやつ、なんでしたっけ、アレがいたく気に入りましてね。そんで他の野菜も同じぐらいに刻んでスープに入れてみたんスよ」

「娘さんは喜んでくれたかい?」

「そりゃもう。野菜嫌いだった娘が全部食べてくれましたから!」


 父娘ともども喜んでいるようでなによりだけど、そんなキッカケでミネストローネにたどり着くって、いや、意外と料理の歴史ってそんなもんなのかも。

 キールと話し込んでいるところへ、義姉が声をかけてきた。


「あらレナート、こちらでしたの」

「おはようございます。義姉上」

「昨日のことだけれど、私から話すまでもなくヴァレリーは反省していたようですわ」

「そうだったんですか?」

「ええ、最初から貴方の話を聞くつもりだったようです。それが、あまりに料理が美味し過ぎて、ついつい飲み過ぎてしまったと、朝食の席で申しておりました」


 それで出がけのあの言葉か。

 どうやら私の思うところもそれとなく伝えてくれたようで、説明が省けそうだ。

 その後ほかの使用人たちからも声をかけられたが、昨夜の夕食、それに朝食の方も大好評だったようだ。手ごたえは十分すぎるほどだった。


 兄の言いつけも有ることだし、昼からは早々にキールと夕食を仕込んだ。種類の少ない食材でメニューをひねり出すのが一番大変だったが。

 今日のメニューは、モームのしゃぶしゃぶサラダ、リフェーリのポタージュスープ、合挽き肉とルクスカヤのラビオリ、塩揉みしたバクラとピナート、鳥肉のソテーというラインナップ。

 ハッキリ言って今の食材だけでは、レパートリーの限界が見えている。なんとかしないと、同じようなものの繰り返しになってしまう。

 今日は給仕は使用人に任せて、兄夫婦と同じ食卓を囲った。


「それで、料理の研究をしたいと言うのだな?」

「はい。昨晩、義姉上にも申し上げましたが、料理は芸術にも学問にもなり得ると僕は考えます」

「確かにな。この出来なら芸術的というのもわかる。その上、外交にも役立つという訳か」

「ご許可頂けますか?」

「無論だ。ただし、客に出す前に我々夫婦に食べさせるのが条件だがな」

「まぁヴァレリーったら」


 当面の食費を倍まで認めてもらい、食べ付けない食材を使うかもしれないことにも理解を得られた。かもしれないんじゃなくて、私の中では決定事項なのだけど。

 用件が片付くとすぐ、安心して兄は酔っ払いモードに入った。

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