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 圧倒されてばかりの変人との邂逅を終えて、冷静になって考えてみた。

 今のところ私がやっているのは料理だけだけれど、平成日本の知識とダ・ヴィンチ級の天才、かつダリ級の変人との組み合わせ。ヤバい方向の想像しかできない。

 でも、あの好奇心を抑えきれる自信はない。

 とりあえず、兵器開発につながりそうな話題は絶対に避けよう、とだけ心に誓った。




 そうこうしている間にも事態は進行していく。イルルカ島主の意向もあって、季節が完全に秋になる前には店がほぼ完成した。

 私とキールの家族、新たに雇ったキールの助手になる若い料理人3名が引っ越しをしているのと同時期に、クライネフの店から水飴が発売された。

 蜂蜜のおよそ5分の1という価格設定で、爆発的に売れ出したようだ。ちょっと原価計算してみたが、それでもかなりの利益を確保している。

 特許などという考え方はこの国にはないので、いずれ製法が漏れることを考えると、今のうちに利益を取るのは正しい。

 それは良いのだけれども、水飴の発売後またしても例の変人が来襲した。


「この水飴シロップというものも、レナートくんが考えたものだそうだね。やはり君のことを詳しく知る必要があるようだ。忙しいところをすまないが、話をする時間を取れないものかね」


 人の往来する店前で、しかも引っ越しの最中だから荷運びの人足が出入りしているところで、いきなりベラベラ話しかけられても困る。しょうがないから私の事務所兼部屋へと招き入れた。


「あの、僕は料理研究家ですから、料理に関するものを考えているだけです」

「なんと、自覚していないのか。君が生み出したものの数々は、私ですら創り出せないものだというのに」


 そこで、ふと思い出した。「料理は芸術にも学問にもなり得る」とは、自分で言ったことだ。それは兄夫婦を説得するためにひねり出した、半ば方便だったけれど、本気でそういう視点で考えて、そのことを物凄く評価してくれているのではないか、と。

 目から鱗が落ちまくりで、ちょっと感動していたら、天才変人さんが机の上の書類を手に取った。「むむっ」っと唸ってしばし黙り込む。


 って、ナイフとフォークの納品書じゃん。アラビア数字式に数字が表記してある。


「なるほどな。これはとても美しい数の表し方だ。文字数も少なくて済むし、桁が揃うことで計算が楽になるだろう。素晴らしい、実に素晴らしい」


 オッサン天才過ぎるだろ! まさか書類一枚で、数秒でそこまでたどり着くとは。ていうか、計算の楽さは実感してたけど、文字数は指摘されて気づいたわ。

 これはもう誤魔化してもしょうがないんじゃなかろうか?

 下手に誤魔化して、突っ込まれた時の方が困る気がする。


「あの……」

「私が知りたいのは、君が私を超える者なのか否かなのだ。賢人などと呼ばれているが、私自身は生涯学徒に過ぎないと思っている。私にない発想の持ち主である君に師事したいと考えているのだがね?」


 いやいやいや、ちょっと文明の進んだ世界の記憶があるだけで、自分で発想した訳ではないですから。

 あなたがマジでダ・ヴィンチ級の天才なら、実績見たらマジでそうなんだけど、私なんぞはアイデア出しには協力できるけど、それ以上ではないですって。


「あのですね、唐突なんですが、人は死んだ後どうなると思いますか? 肉体ではなくて、心というか魂というか……」


 輪廻転生の概念の説明から、平成の世の概要説明までで夜中までかかった。

 この天才さんに協力するのはいいんだけれど、いやもうそうするしか無いんだけれど、何がどうなって行くんだか、まったく予想がつかなくなったのだけは確かだ。

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