赤鬼
「ゆりね……?なんでここに…」
「………ヤマト これどうなってるのよ!」
「ぐはっ!」
その時リコが腹に体当たりを食らって吹っ飛んだ。小柄なリコの体はすごいスピードで飛ばされた。
「リコ!!ゆりね、話は後でする。今は下がっとけ!」
「あんなのと戦うの?無理よ!ヤマトは普通の人なのに!」
「それでも、俺はやるんだ」
心に火が灯ったみたいだった。
あの時ゆりねは俺が助けたはずだった。なのにどうしてここに居るのか、この世界に来るトリガーは死ではなかったとかいろんな思いで頭がぐちゃぐちゃだった。
でも、今はそれを考えてる時じゃない。
目の前の脅威を排除する!
「リコすまん遅れた!」
土の術式を展開、ダークフェンリルの足を固定しようとするが素早く避けられる。
「オラオラオラオラ!」
捕縛を諦め、手に土の術式を展開して地面を殴りつける。大量に飛び散った土や岩を大きな無属性の術式でまとめて飛ばす。
これも避けられる。
くそっこれじゃジリ貧だぞ!
と思っていると目の端にリコが飛んでくるのが見えた。
ダークフェンリルの注意はヤマトが引き付けている。今なら、リコならやってくれる!
ヤマトはさっき改造した
「ファイアアアアアアボォォォォル改!!」
を撃ち、ロックオンさせた。そして
「リコ!俺ごとうてええええええ!」
土の改造魔法でシェルターをつくる。もちろん遠くのゆりねにも。「わっ、なにこれ!」…なんか聞こえた。
外界から遮断され、音も聞こえない。
ドぉぉおおおンと音がしたのであわててシェルターを解除する。
「おい…なにやってんだよ」
尻尾がちぎられたダークフェンリルの爪の先、
先にはリコが胸を貫かれ、大量の血を流していた。
見ただけでわかった。もう、助からない。
「ぶっ殺す…」
ブチッ
なにかがブツンと切れた音がした。
右手首の刻印が赤黒い光を放つ。全身が焼けるように熱い。光り、鼓動する刻印は全身にマグマを送っているようだ。
でも、七日前のあの感覚とは違うと本能でわかった。
だが今はどうでもいい、目の前の敵さえ倒せれば、どんな外法の力だって使ってやる!
叫べ、罪深き憤怒の対象を…
「りこを殺したお前が許せない!」
普通はここで終わりなのだが、付け足す。
「そして結局何も出来ないまま見ているだけの俺が許せない!」
「来いよ、俺の憤怒を喰らいやがれ!」
ゆりねは遠くから見ていた。
ヤマトの髪は燃える炎のように逆立ち、赫く煌き、その形相はまるで鬼のようだった。周囲には炎が渦巻き、誰であっても周りに寄せつけない。
炎の衣を纏った魔人は敵を見据える。
許せない相手の前に立つ。
ダークフェンリルは爪に刺さっていたリコを地面に捨て、憤怒の化身と向き合う。
その行為がヤマトの力を増幅させることを知らずに。ダークフェンリルはヤマトを同格、もしくはそれ以上の敵であると認めた。
ダークフェンリルが闇を纏って突進する。
それをヤマトは正面から両手で受け止める。憤怒の炎は闇をも焼き、ダークフェンリルは自慢の毛皮と肌が焼かれる痛みに吠える。
ヤマトはそのまま燃え盛る脚で顎を下から蹴りあげる。そして何度も何度も何度も何度も何度もダークフェンリルの顔を執拗に蹴る。
反撃を許さず、一方的にフェンリルを追い詰める。
そして、大ぶりの拳がダークフェンリルの弱い腹を捉え、地面と水平に吹き飛ばす。
土煙で標的が見えないヤマトは怒りのエネルギーをさらに力に変換する。
土煙が晴れた時、ダークフェンリルは所々に紫色の結晶が生えており、闇の刃を2本浮かばせた、凶悪な姿へ変貌を遂げていた。
リコがいれば、結晶を見て、膨大な魔力をもつ魔獣が魔力を暴走させたのだと分かっただろう。
しかし、そんな些細なことは憤怒の化身には関係ない。相手が刃を出すなら、とでも言うようにヤマトが両手をひと振りすると、右手には紅く煌めく日本刀。左手には赤黒く肉食獣を思わせる大剣が現れる。
憤怒の化身と準伝説級の怪物は再びぶつかりあった。