疑惑
「君…ヤマト、いや、お前には不審なところが多すぎる」
「お前には言っていなかったけど、ここはアヴァロニアの中でも国から指定された超のつく危険区域だ。」
騙したみたいで気分が悪いね、とリコは付け足した。
「危険な理由はさっきみたいな魔獣がウロウロしてるから。まぁさっきの灰狼とブラッドウルフはそのなかでも下級な方なんだが」
そこから先は言わなくてもわかる
ヤマトはついさっき箱入り息子だという嘘をついた。その自称箱入り息子とやらがが見たことも無い魔法で魔獣を殲滅?
誰がそんなかとを信じるのか。見たところ、リコは戦い慣れている雰囲気がある。かなり強いのだろう、危険区域にいる訳だし。
十分怪しいのによく話を聞いていてくれたものだ。
そして、疑惑を決定打にしたらしい右手首の紋章、本当にこれには心当たりがない。
ヤマトはリコの目を真っ直ぐに見て問いかけた。
「この模様のことを教えてくれ」
一瞬だけ、リコは戸惑いの色を見せた。
だが。
「自分の立場がわかってないようだね」
リコが冷徹な目で告げた。
怪しいことをしたらヤマトは一瞬で亡きものになるだろう。
出自のことを問われたら日本での事を答えるしかない。まともに相手にされないだろうし、そのまま切り捨てられるかもしれない。ここで変な意地を張っても死ぬだけだ。
それに、これ以上嘘をつくことをヤマトの良心が咎めた。
「わかった。話すから、信用を得られたら教えてくれ。」
「まずはな…」
洗いざらい話した。
話してしまった。
ヤマトが懸念していたのは異世界の存在が実在することを国に知られ、飼い殺しさせられるか、解剖される可能性だ。
かなり勇気のいる決断だった。
リコが国の関係者かもしれないからだ。
もう後戻りは出来ない。
話を聞いたリコは
「それが本当かはわからない、でもボクはヤマトの真っ直ぐな眼を信じるよ」
だそうだ。
よかった。
「じゃあ、その紋章について教えよう。」
今もヤマトの右手首で主張を続ける黒い紋章。リコの態度を豹変させたこれになんの意味があるのか。
生唾をゴクリと飲み込む。
リコが桃色の唇を動かす。
「これはね」
「大罪の紋章だ。」
「君には現在、七つの大罪のうちのどれかの力が宿っている。確実にね。」