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魔王と勇者は女神に挑むそうです  作者: みゅーたん
第一章 新世界で得たもの
3/16

八つ当たりの炎

「………ッ!!」


思い出した。

違う、思い出してしまった。


ヤマトは死んだ。

車に轢かれて潰された感じが、今でも思い出せる。


そして、どういう訳か生き返った。

服は轢かれた時のままだが血まみれで、よく見たらボロボロだった。これも暗闇で見えなかったらしい。

体は一応そのままらしいし、死んだ瞬間に再生してここに運ばれた、なんて言うのはいくらなんでもないだろう。

かといってそのままなら肉塊のままとっくのとうに死んでいる。

そして目の前の赤い大狼。噛みそうなのでゲームによくあるのにのっとってレッドウルフと呼ぼう。こんなやつが地球にいるとも思えない。


そう、つまり



「異世界転生……?いや、転移か?」





非常事態の回らない頭でようやく理解が追いついたのだった。


--------------------------------



そんなことを理解した所で状況は変わらない、むしろ悪化している。


新たに数匹の狼が現れたからだ。


たかだかヤマト一人を喰らうためにこれほどの数はいらない。

その目的は



獲物の心を折り、無駄な抵抗をさせないこと。




「へへっ」

だがヤマトは笑う


「俺の反骨心(社会への)はこんなことじゃぁ折れないぜ」


不機嫌そうにレッドウルフ(仮)が鼻を鳴らす。

その赤い双眸に見つめられ、ヤマトは無意識に唾を呑み込んだ。

敵は十数匹の狼と、どでかいレッドウルフ(仮)。武器になるものはなく、自分がココから逃げられる身体能力を持っているわけでもない。



「詰んだか。」


諦めの感情がヤマトを揺さぶる。


自分は1度確かに死んだのだ。


もういいじゃないか


1回も2回も同じだろう?


もうすべて諦めてらくになりたい。タダの貧弱な人間がこんな化物に叶うわけがない。無理だ。無茶だ。どうして俺がこんな目に遭わなくちゃいけない。死にたくなんてなかった。どうして生き返った。諦めたっていいじゃないか、俺はまだ15歳なんだ。子供なんだよ。どうして俺に優しくする。どうして、どうして。ゆりねはどうして俺を助けてくれる?諦めるなといつかのゆりねは俺に言った。でも1回死んだからリセットだろ。


だからゆりねの事はいいから早く楽になりたい。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ふざけるな

ふざけるなふざけるな

俺は何を言っている、ゆりねの事がどうでもいいだと!?ふざけるな。

俺はまだ、ゆりねになにもしてやれていない。

この世界から地球には帰れないかもしれない。


「それでも!!」


それでも、意地でももう一度ゆりねに会って、借りを返したいから。

ありがとう、ときちんとゆりねに使えたい。

強くゆりねを想っている、でもそれは恋ではない。


恩人に、恩を返さないでそのままなんて、そんなのは男じゃない。

こんなところで、こんな奴に殺されたら俺は俺を許せない。


「だから、邪魔するんじゃねえよ」


青筋を立て、赤い輝きを瞳に宿したヤマトがレッドウルフ(仮)を睨めつける。狼達がじりりと後ずさった。


赫怒が身を焦がす。

頭に血が登る。

しかし、それ以上に、頭に血が登っているはずなのに、胸が熱い。

ヤマトは自分の体に起こっている異変に気づいた。


「これ、はなん、だ?」


熱い熱い熱い熱い身体が熱い熱い胸が、熱い


全身の血が、心臓にあつまったみたいだった。血が沸騰するような錯覚を覚え、思わず血塗れのシャツを着たの胸を右手で掴む。

「~~~~!!」

声にならない叫びがでる。そしてもう一度睨んだ時に怯えた様子の狼達が目に入り、頭が冷える。

怒ってるのは自分自身であって、狼達ではない事に今更気付いた。

だから今からやるのは八つ当たりだ。

狼達には悪いが。

なんとなくどうしたらいいのかはわかった。ただそれをさらけ出す!


「でりゃぁぁぁぁァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!」


ヤマトは右手を胸から勢いよく振って、自分の心をさらけ出すかのように、この熱い衝動を解放する



瞬間、

ヤマトの周囲の大気が爆ぜ、灼熱の熱波が生まれる。

ごうごうと産声をあげる破壊の波はすべてを燃やし尽くす。

狼達は毛皮、肉、そして骨まで。

周囲の樹木は1本残らず灰になった。

ヤマトの周囲はヤマトを中心に半径1mほどを残して一面が抉れた地面だけになった。



「は、はは」

乾いた笑いが生まれた。

魔法というやつだろうか、自分でもここまでとは思わなかった。


「なんだよ、俺、結構やれんじゃねぇ、か……」


と、ヤマトは地面に座り込んで呟く。

なんだかとても身体がだるい。

危険は去った。こんどこそ大丈夫だ。

ヤマトは身体の力を抜き、疲れからくる眠気に身をゆだねた。



















それを

穢れなき白の記録者は、

じっと見ていた。




見ていた。


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