remember
クマサイズの巨大狼を先頭に狼たちはヤマトを喰らおうと追いかけてくる。
(嘘だろ!?せいぜい狼が何匹かいるくらいだと思ってたのにあきらかにデカいのがいるじゃねぇか!?)
ヤマトは走った。
そりゃもう全力で。今までこんなに全力で走ったことはなかった。
しかし、そんなヤマトに慈悲を与える神はいない。
すぐに追いつかれて押し倒される。
濃密な血の匂いと、爪で押さえつけられたところが切れて、出血している様子が目に入り、ヤマトの恐怖を掻き立てる。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
頭の中が真っ白でなにも考えられない。
ここで、こんな所で死んでしまうのだろうか
ぱっとそんなことが頭をよぎる
そんなの
いやに決まってる
死にたくない。
こんな所で死んでやるものか
喰われてなるものか。
俺は○○○と海に行く約束を…
「っ!!」
思い出した。
やっと。
こんな所で目覚める前のことを
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西暦2074年、1月。
最近では珍しく雪の降り積もった朝。
都内に住んでいた俺は徹夜明けでぼーっとしていた。
高校に行かなければ行けないので小型化されたリニアモーターに乗るためにターミナルに向かっていた。
近くの公園に人を待たせていた。同じ高校に通っている重山ゆりねだ。
彼女は勉強がよくでき、全国模試では毎回トップ5に入っているらしい。
だがそれは、ゆりねの容姿を装飾するアクセサリーのようなものでしか無い。
平均的な身長に出るところは出て、くびれる所はくびれる抜群のプロポーション。黒く美しい髪。顔は綺麗系と可愛い系の中間点くらいで大きくてクリクリした目。
かなり、いや、めちゃめちゃ可愛い。
ヤマトはゆりねよりもかわいい女の子を見たことがなかった。。
そして、そんな彼女は自分の幼馴染らしい。
「ヤマトおっそい!なにしてたのよ。」
「第一声はそれでいいのか?」
「何をわけのわからないこと言ってるのよ、まぁいつものことだから無視するわね」
「つれないヤツめ、ここはなんていうかこう、例えば」
「いいから行きましょ、遅刻しちゃう」
その通りなので黙ってついて行く。
老若男女、全ての人がゆりねを見る。
男性は俺の顔を見ると道路に唾を吐いた。
女性はゆりねの美貌に嫉妬している。
いつもの事だ。もう慣れた。
後ろから刺されそうなものだが、何故か刺されたことは無かった。もちろんその方がいいが。
「ねぇ、戦艦大和くん」
「はい、なんでしょうか」
戦艦大和は俺のあだ名だ。普通に呼ぶより長ったらしいのに、先生までそれでよんでくる。
「夏、海なんてどうかしら。私の知り合いとね。」
なにを言い出すのだこいつは
「断る。夏はエアコンの聞いた家でゲームをするに限」
パァン
頬を叩かれた。
ゆりねを見ると目のところに涙が溜まっていた。とても怒っているようだ。
「海に」
「?」
「また海に行こうなんて言ったのはヤマトじゃない!!」
どなられた
怒られる原因が分からなかった。さそってくれたのに断ってしまったからだろうか。単に、断り方の問題だろうか。
ゆりねはヤマトを睨みつけていたが、ハッとした様子で
「ッ!!ごめん、なさい。忘れて」
と言った。
ヤマトはこレは聞くべきじゃないと思い、ただ、
「わかった。」
と返した
きっと、確実に、原因は俺の記憶喪失だ。
俺の記憶は中3の冬、受験間際で1度切られている。
そして、次に気が付いたら高校3年生の8月になっていた。
高校は志望校にしていた高校だった。
空白の2年半のあいだ、自分が何をしていたのか、全くわからない。多分、その時に俺は海に行く約束をしたんだろう。
友達の名前も忘れて、一人になっていたところを、空白の2年半で交流を深めたらしいゆりねが助けてくれた。
今では人間関係に問題はなく、その点では、学校生活を楽しんでいた。
(俺はゆりねに返しきれないほどの恩がある。それを返したい。)
思い出していたらターミナル前の交差点についていた。
青になった信号をわたる。
「なぁ、ゆりね」
少し前を歩いていたゆりねに声をかけた。
「なぁに?」
「海、行くよ。」
ゆりねは途端に嬉しそうな顔をした。
俺はそんなゆりねに向かって走り出して、
そのまま反対車線に突き飛ばした。
なんでって?話してるうちに赤信号になって、トラックが侵入していたからだ。
普通は止まってくれるだろう、でもそのトラックは止まらなかった。
俺はそのまま侵入してきた車線に取り残されて…
驚いた顔のゆりねがこちらを見ていた、
ゆりねは一瞬だけ、悔しそうな顔をした。
ヤマトは肉塊になって短い生涯を終えた。
ということで、死ぬまでのお話でした。