探偵オレール・アダンの場合Ⅰその2
短いです。正直前回と一緒に入れるべきでした。
「とはいってもな……」
俺は岡田健一が起業した会社の本社を遠くから見張っていた。帝国内でさまざまな事業を営んでいるだけあって、金があるのか本社ビルはティニッジで最高峰の高さを誇るビルだ。ティニッジにも高層ビルが建ち始めているといえ、やはりこのビルクラスは一つしかない。
そして、天を穿つほどの高さであるにもかかわらず、入居しているのは全て岡田の関連会社だ。思った通り、ティニッジの経済は岡田が握っていると言っても過言ではない。
俺は本社ビルとすぐ近くにあったカフェのデッキ席に座ると、軽くコーヒー一つを注文し穴の空いた新聞紙を眺める。もちろん、それはフェイクで実際には本社ビルの様子を眺めているのだ。
本社ビルにはさまざまな企業が入所している。即ち、人の往来など当然のように多いわけで、カフェで一人コーヒーを啜っていようとも誰も気にしないだろう。
それにしても、気になるのは岡田健一の正体だ。何かをやってはいるのだろうが、テレビで見てもネットで見ても天才経営者としての顔しか見つからない。
天才経営者だけあって、頭は回る。そうなると犯罪のもみ消しなども容易いのだろうか?
そして、時間は立ち昼頃になる。
簡単なランチを注文し頬張っている間、俺は持ってきたPCを使いいろいろと岡田のことについて調べてみた。
岡田は朝早くから夜遅くまでずっと働き詰めらしい。われわれ帝国人からすれば到底考えられないのだが、ニホン人というのは皆そうなのだろうか?
他にも探っている間に、時刻はどんどん過ぎていき夕暮れ時になる。そのころになると本社ビルからは帰宅するであろう社員がぞろぞろと出てきた。
それにしても、ニホンと接触するまでは日が暮れてもまだ家に帰らないとは恐れ入ったな……。
ニホンと接触する前は、明かりなんて限られていたため日の出とともに起き、夕暮れと共に寝るのが一般的であった。光魔法などが使えるものもいたが、やはり数は限られていたため実際に体験したことがある人などほんの一握りだった。
懐かしさを感じながら本社の様子を窺っていると、一人の異邦人が黒スーツを着た大勢の側近を連れて本社を出たのが見えた。ネットで調べた岡田の写真と照合するが、間違いなく本人であった。
よし、行くか。
俺は急いで会計を済ませ、そのまま岡田の後を追う。
だが、岡田は本社に隣接している駐車場まで行くとそのまま自動車に乗り込んだ。
自動車なんて高級なものに乗っているあたり、富豪であるという認識を改めてさせられた。なにせ、自動車は帝国ではあまり普及していないからだ。一部の金持ちの特権であり、しがない探偵を営んでいる俺は買えるはずもない。
「ま、いいか……」
俺の口からはそんな言葉が漏れた。
そもそも、岡田が出勤している間に何らかの行動をとれるとは到底思っていない。やるとしたら、非番の日か夜だろう。
俺はその日に備えて、事務所へと戻った。
2021/6/6 改訂