第八話「忍者との遭遇」
「行ってきまーす」
「遅くならないうちに帰ってくるのよー」
地球に帰還して一週間と数日。
いまだ、さやと四天王の動きはまったくない。なので、俺は情報収集をしつつ戦闘員達を倒している。さや達の秘密基地もどこにあるのかわからないし。
どうやら母さんの力を持っても、どこにあるのかがわからないらしい。女神の力でもってことは、さやは相当な力を持っているってことか?
まあ、俺と同じ父さんと母さんの子供だから、当たり前と言えば当たり前か。
「……」
視線を感じるな。
うまく気配を殺しているようだけど、やっぱり視線は無理みたいだな。正確な位置はまだわからないから、とりあえずこのまま気づいていないふりをして、移動するか。
「にゃあ」
「よう、野良。今日も元気そうだな」
ここ毎日、出かけると見かける野良猫に挨拶をして、その場から立ち去る。野良猫は、俺の言葉を理解しているのかしていないのか。
とりあえず、いつも通り欠伸をして太陽の暖かい日差しを浴びてその場に寝転ぶ。
「……」
まだだな。あっちも、中々こっちに位置を探らせてくれない。となると、相当なやり手。隠密に長けた人物ってことになるな。
……まるで、忍者だな。
(忍者か)
となると、こちらが気づいたと感じたら素早くどろんする可能性が高いな。相手に勘付かれず、尚且つ素早く相手を捕まえる必要がある。
もしかすると、さやの差し金かもしれないな。そう考えると、是が非でも捕まえて色々と聞きださないといけないな。この前のねむちゃんからは、ほとんど情報を聞き出せなかったからな。
それに、俺のことを観察しているってことは、そろそろ戦いが始まるって考えてもいいか。
(大体の位置はつかめた。後は)
相手を捕らえるだけ。さあ、ちょっと本気を出そうかな。じゃあまずは、公園のトイレにでも行くか。俺を観察している者を捕まえるため、俺は作戦を実行する。
まずは、一度姿を消す。
丁度いいところに、公園の公衆トイレを発見。そこに入り、とある行動をしてから再びトイレから出て行く。
「出てきたでござるか。どうやら変わった様子はないようでござるが……」
「ふーん、やっぱり忍者だったのか」
「なっ!? ど、どうして!?」
彼女が見ていたのは、俺がトイレで作った魔力による分身。寸分違わず作った分身なので、見破りに長けている達人でも、そうは見破れまい。
トイレで分身を作った俺は、気配を殺し把握していた彼女の場所へと瞬間移動したのだ。長距離は無理だが、こうした短距離の瞬間移動は可能なんだ。
「くっ!」
俺の分身のことを追及することなく、すぐに俺の前から姿を消す。やっぱり、煙玉を使うのか。だけど、君の気配はもう完全にとらえてる。
「ふう……まさか、気づかれたうえに回り込まれるとは」
「中々良い逃げっぷりだったぞ。やっぱり、忍者ってすごいんだな」
「ひゃっ!?」
おっと、可愛い悲鳴だ。人って本気で驚くと素が出てしまうんだなやっぱり。また背後に回りこまれたことで、バランスを崩した少女忍者。
俺は、それを支えるように腰に手を回す。
「大丈夫か?」
口元を隠すマスクに赤いマフラー。紺色のサイドポニーテールが良く似合う少女。
歳は、大体さやと同じぐらいだろうか? 胸が程よく大きく、支えている限り体重はかなり軽いだろう。忍具とか隠し持っているから、失礼かもしれないけど重いと思った。
「あ、あの」
「あっ、ごめんごめん」
いつまでも、腰に手を回したままじっと見詰めていた俺は彼女の声で離れる。彼女も、簡単には逃げれないと判断したのか、その場から動かなくなった。
「さて、君の名前とか正体とか聞いてもいいか?」
「……承知でござる。拙者は、風間桐火。おそらく、そなたが思っている通りの存在でござるよ」
「てことは、やっぱりさやの差し金か。まさかとは思うけど、四天王の一人だったりする?」
「そうでござる。拙者は、斥候としてそなたの観察をするように総統殿から命を受けた。……それにしても、拙者も隠密行動には自信があったのでござるが、兄者殿は思っていたよりも相当な達人でござるな」
今時ござるって。アニメや漫画の観過ぎじゃ……いや、でもただアニメや漫画を観て真似ているだけじゃ、あの身のこなしはないよな。
てことは、本当に忍者の家系で、ござるは共通した語尾? いやいや、忍者ってものは本来闇に溶け込み、裏家業を生業とするかっこいい存在。
それが、ござるという気の抜けた語尾をつけているなんて想像できない。
「まあ、色々と経験してきたからな。それよりも、君が動いているってことはもう俺との戦いは始まっているって考えていいのか?」
「ふむ。そう思ってくれても構わないのでござるが」
「まだ何かあるのか?」
「まだどういう勝負をするのか、総統殿は決めていないのでござるよ」
さやは、時々テンションのままに行動したり、決めたりすることがあるからなぁ。あの時も、テンション高めだったし、なんとなく予想していたけど、そうだったのか……。
「して」
「ん?」
「拙者のことをどうなさるつもりでござるか?」
「どうって?」
「拙者は斥候として、そなたを観察していた。だが、それも容易に気づかれこうして捕まってしまっている。いったいどんな屈辱的な仕打ちを!!」
し、仕打ちって。この子は何を言っているんだろうか。おや? なんだか若干頬が赤く、呼吸が乱れているような気がする。
まさか、そういう性癖なのか?
「ま、まあまあ。別に、そういうことはしないって。ただ、勝負は始まっているのかなって聞きたかっただけなんだ」
「そ、そうでござるか……」
なんで、残念そうなんだろう。やっぱり、そういう性癖の持ち主なんだなこの子。何もしないと言っているのに、なぜか落ち込んでいる忍者少女に俺は、どうしたらいいものかと頭を掻く。
「とりあえず、勝負内容が決まったら知らせてくれ」
「承知した。では、拙者はこれにて」
今度は、煙球ではなく瞬間移動をするかのようにその場から姿を消す。ただ、瞬間移動と言うよりもものすごく速い動きで立ち去ったのだ。
近場の屋根の上を見ると、桐火ちゃんが駆けている姿を目に入る。
「個性的な子だったな。残りの二人も、どんなキャラをしているのか。個人的には、気になるな」
四天王は、さっきの桐火ちゃんにねむちゃん。残りは二人。さやが集めた四人だ。色んな意味で一筋縄にはいかないだろうな。
さて、勝負内容が決まるまで、俺は俺でやらせてもらうか。
「モイー!!」
「おっと、さっそく現れたか」
今まさに、あの戦闘員が嫌がっている女性に襲いかかろうとしていた。俺は、太陽の日差しを体に浴び、紅蓮の炎を纏う。
そして、右腕で払い、赤き鎧を纏った戦士として地球に降臨。
「さや! お兄ちゃんは、いつでも待っているぞ!! とう!!」
白きマフラーをなびかせ、俺は戦闘員へ向けて跳んだ。
「モイ!?」
「どりゃああ!!」
「モイー!?」
真正面からの強烈な蹴りが、戦闘員の仮面を粉々に砕く。ただ、彼女達との純粋な戦いじゃないことだけを祈っているぞ。
さて、遅くなりましたが。そろそろ恋愛ものとして動き始める頃でございますです。