第七話「秘密結社の会議」
『会議である!!』
『ねー、総統ちゃーん。いつも思ってるんだけど』
『なんだ?』
『別に、私達だけの顔合わせの時。この仮面被らなくてよくない?』
定時会議が始まったと同時に、四天王の一人が言う。
『ふむ。それもそうだな。いい意見だ、ファッションワン』
「それと。そのコードネームみたいなのも止めにしない? さやっち」
と、仮面を取って素顔を現すファッションワン改め絢里かなでちゃん。黄金に輝く長い髪の毛に、ちょこんっと可愛らしいポニーテールがある。
仮面を外すと、器用に指でくるくると回し出す。
彼女は、ファッション雑誌に載るほどの人気モデルであり、私とは同級生になる。モデルの仕事の合間に、こうして私に協力してくれているのだが、協力してくれる理由は、退屈せずに済みそうだからという理由だった。まあ、かなでちゃんらしいといえば、らしいんだけど。
「そうかな? かなでちゃんらしいと思うんだけど」
私も、仮面を外しいつも通りの自分でかなでちゃんに言う。
「ファッションってところはいいんだけどぉ。なんで、最後が数字なの?」
「おそらく、仲間に加わった順番じゃないっすかね?」
次に仮面を外したのは、炎のように赤いセミロングヘアーの少女。首にはゴーグルをぶら下げており、仮面を外してすぐ棒つき飴を舐め始める。
色的にぶどう味のようだ。
彼女の名は、茅波明ちゃん。私とかなでちゃんより一つ年下で、昔から特殊な力を持っており、それを周りに隠しながら生きていた。
親は、私と同じ感じで異世界から帰還して、一緒に召喚された幼馴染と結婚したみたい。
機械や魔法に関しては、かなり詳しくイモウトでは機材の修理や発明などを担当してもらっている。というよりも、本人の自由にさせているんだけどね。
「数字かー。じゃあ、あっきーは二番ってことになるの?」
「そうなるっすね。あたしのコードネームがメカニカルツーなんで。んで、今日もぐっすりなねむちゃんは、三番目だからスリーピングスリーっすね」
「すぴぃ……」
円形のテーブルの左端に、気持ち良さそうに眠っているねむちゃんを見て、私はくすっと笑う。彼女の眠っている姿を見るとちょっと癒されるんだよね。
ねむちゃんとは、天才少女が居るって聞いて会いに行った時もぐっすりと眠っていたっけ。元々は、ただの引き籠りだったんだけど。
「そして、最後に拙者が四番。シノビフォーということでござるな」
「そういうことになるね。お疲れ様、桐火ちゃん。どうだった?」
「ふむ。相も変わらず、拙者達をどう倒すかと戦略を練っていたでござる」
「マジっすか? この間、ミサイルも簡単に消し去って見せたのに、まだやる気なんすか……」
「そのやる気を、もうちょっと他の方向に向けてくれればいいんだけどねぇ」
「まったくでござるな」
最後に姿を現したマスクで口元を隠している紺色のサイドポニーのくノ一の子は、風間桐火ちゃん。あの有名な忍者集団の子孫というわけではない。
所謂忍者に憧れた親を持った子。
だけど、それは異世界に言ったことで夢が叶い、本物の忍者となった。その能力は子供である桐火ちゃんにも受け継がれており、彼女には主に偵察や監視などを任せている。
ちなみに、私と同い年だ。
「さて、これで全員集まったということで、まずはこれ!」
桐火ちゃんが椅子に着席したのを見て、私は大型のディスプレイにとある映像を映し出す。そこに映っているのは、赤き鎧を纏ったヒーロー。
白いマフラーをなびかせ、次々に戦闘員達を倒している。
「おお。これって、今話題の赤き戦士ってやつっすよね? いやー、かっこいいっすよね! この真っ赤なボディにマフラー! そして、戦闘員達を次々に倒していく戦闘力!!」
「明殿。この者は、拙者らの敵でござる。そんな憧れを抱くなど」
「そんなこと言って、桐火さんだって、かっこいいかっこいいって言ってたじゃないっすか」
「そ、そのようなことはない。拙者は、あくまでこの者動きが、素人ではないと」
「えー? そうだったっすか? ちなみに、証拠映像があるんですが。観るっすか?」
と、にやついた表情でデータスティックをちらつかせる明ちゃん。それを見て桐火ちゃんは、動揺をしているが、冷静さを保っているように腕組みをする。
「そ、そのようなもので、拙者が動揺するとでも?」
「じゃあ、これを今から」
「待たれよ!」
明ちゃんが、自分で持ってきた自前のパソコンにデータスティックを差そうとした刹那。桐火ちゃんが、それを大声で制す。
「明殿。この後、おいしいスイーツでも共にせぬか?」
「……いいすっよ。じゃあ、桐火さんのおごりってことでいいっすか?」
「う、うむ」
「あざーっす!!」
別に、隠そうとしなくていいのに。桐火ちゃんだって、まだ十代。子供のようにはしゃいでいたっておかしくはない。桐火ちゃんはかっこいい忍者になると言っていたから、子供のようにはしゃいでいた姿は見られたくないんだろうな。
でも、桐火ちゃんの性癖だと実は明ちゃんの行動は……いや、とりあえず話を戻そう。
「突然、現れて、私達の邪魔をしてくるこの赤い戦士だけど。どう思う?」
「あたしは、さっき言った通りっすね。かっこいいって思うっす。素直に」
「私も、かっこいいとは思うけど。イモウトとしては、邪魔な存在って感じかなー」
「拙者としては、一戦交えてみたい。この者からは、ただならぬ強さを感じる」
ねむちゃん以外の意見を聞いた私は、垂れ流しにしてる映像を観て、顎に手を当てる。そして、こんな結論を彼女達に発言した。
「この赤い戦士なんだけど。もしかしたら、お兄ちゃんかもしれない」
「お兄ちゃんって、さやっちの?」
「うん。だって、今までこんな戦士現れなかった。だけど、お兄ちゃんが帰ってきてから突然現れた。これは偶然? ううん、違う。確実に、この赤い戦士はお兄ちゃんだよ! 私の妹としての直感が、そう言ってる!!」
自分の確信した意見を、テーブルを叩き大声で叫ぶ。
「おお! さや殿のアンテナが激しく動いているでござる!!」
「さやっちが言うなら、そうなんだろうねぇ。でも、本名を名乗っていないってことは、秘密にしているってことなのかな?」
「そうだと思うっすよ。やっぱり、正義の味方は正体を隠してこそっすからね!」
それにしても、お兄ちゃん。ここまでの強さだったなんて。これじゃ、戦闘員とその指揮官クラスじゃ相手にならないね。
とはいえ、いくらお兄ちゃんが強くても体は一つ。世界中の戦闘員達を一人で倒すのは至難の業。お父さんとお母さんは、どうやら見守っているだけみたいだから今は心配いらないだろうけど……。
「どうするの? さやっち。正体を明かしちゃう?」
「それはだめ! お兄ちゃんは、必死に素性を隠して、私達と戦ってるの! それを無下にできない!! むしろ応援しちゃう!!」
「応援してどうするのよー、さやっちー。あたし達、敵同士だよー? まあ、仕方ないって言えば仕方ないけど」
私の迷い無き言葉に、かなでちゃんはくすっと小さく笑う。だって、お兄ちゃんはやっとこっちに戻ってきたんだし。
皆のために、やっていることだから。それに、悪の組織と正義の味方の戦いって、らしいし!
「そういえば、さやさんのお兄さんと戦うってことだったっすけど。どう戦うんすか?」
「まだ決めてない!」
「清々しい答えっすねー」
だって、あの時はお兄ちゃんと再会できたことにテンションが上がり過ぎて、勢い任せだったっていうか。いつかは決めなくちゃならないとは思ってるけど……どうしようかな。
「まあその辺りは、追々ってことで! 次に」
それから今後の活動などに会議を進め、終わりの時間がやってきた。私は、ディスプレイの映像を消して皆を見渡す。
「今回の会議はこれで終わりだね。何かある?」
「特に無いよ」
「あたしもっす」
「私もぉ」
「拙者も」
「じゃあ、桐火ちゃん。斥候頼んだよ。お兄ちゃんは、只者じゃないからね。気をつけて」
「心得た」
会議が終わり、お兄ちゃんの様子を見てきてもらおうと桐火ちゃんを斥候として向かわせた。桐火ちゃんも忍者としてかなりの隠密に長けているけど……お兄ちゃん、気づくだろうなぁ。