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第三話「兄の帰還と興奮」

「総統に敬礼!!」

《総統様!! おはようございます! 本日も、お日柄もよく!!》

『うむ。皆も、元気そうだな』


 私の名前は、篠原さや。半年前までは普通の女子中学生だったけど、今では己の内に眠る力が目覚め、行方不明になったお兄ちゃんが帰ってくるように、妹力を高めるべくとある組織を結成した。

 

『今日も、秘密結社イモウトの世界妹計画は順調である!! それもこれも、私に協力してくれる皆の衆のおかげだ!!』

《総統様ー!!》

《どこまでもついていきますー!!》


 高台から見渡すことなく、皆と同じ視線で私は大勢の声を聞く。そう、私が結成した組織は秘密結社イモウトという。

 世界中の女性を、全て妹として、妹力を集める。

 その妹力を使い、私は……!


『さて、本日の朝の挨拶も終わりだ。各々、いつも通りの行動をするがよい!! 私は、お前達の活躍に期待しているぞ!!』

《おおお!!! 全ては総統様のためにー!!》


 いつもの朝の挨拶を終えた私は、次なる挨拶をするためとある部屋へと向かっていく。お兄ちゃんの写真が並ぶ廊下を進み、到着したのは数々の映像機材が並ぶ部屋。

 映像機材の前には、広々とした机と黒い椅子が。

 そして、鼻ちょうちんを出して気持ち良さそうにこっくりこっくりと座ったまま眠っている少女。私は、小さく笑い鼻ちょうちんを突く。

 ぱちん! と鼻ちょうちんは割れ、少女は起きた。


「ねむちゃん。時間だよ」


 仮面を外し、私は笑いかける。


「ふわっ? あ、はい。じゃあ、定期宣言始めますか? 総統様」

「うん。いつも通りお願いね、ねむちゃん」

「ふわぁい」


 未だに眠そうな顔で、映像機材の準備に取り掛かる少女。

 床屋ねむ。

 私と共にイモウトを設立してくれた四天王の一人。主に、撮影、動画編集などを担当しており。いつも眠そうにしている子だ。

 歳は、私よりも二つ年下で十二歳。でも、私よりも頭がいいんだよね。所謂天才ってことかな。


「いいよー」


 映像機材の準備ができたらしく、ねむちゃんが合図を送る。私は、わかったと頷き椅子に腰掛け、再び変声期つきの仮面を被る。


『諸君! 元気にしているかな? 私だ!!』


 今やっているのは、世界へ向けての定期的な宣言。

 こうすることで、、世界に私の凄さを教えている。いまや、私達秘密組織イモウトの活動もあって、世界中の女性は、順調に妹と化している。

 妹と化した女性は、若がえ可愛らしく、それでいて兄と仲良し! 


『世界中のお兄ちゃん達よ! 妹に優しくしているかな? 愛しているかな?』


 時には、喧嘩もするだろう。でも、それでもいいんだ。それでまた兄妹の絆が深まれば……ただ、喧嘩をしない本当に仲のいい兄妹も居る。

 私とお兄ちゃんみたいに。

 仲の良さは、人それぞれだ。兄妹の数だけ、絆があり、愛がある。


『世界中の妹達よ! 今は、幸せか? 兄と仲良くしているか? いまや、世界中で兄と妹の関係は、ラブラブなものとなっているはずだ! 兄妹は仲良く! 兄は、存分に妹を可愛がれ! 妹は、存分に兄に甘えていいのだ!! 兄妹の絆は美しい……。何歳になろうと、大人になろうと関係ない。どんなに変わろうと、兄妹の絆は消えやしない!! さあ、私はまだまだ世界に轟かせてやろう!! 兄の優しさを!! 妹の可愛さを!! あ、そうそう。明日は、大事な会議があるのでブログの更新はできません。はい、定時宣告おわりーっと』


 これで、定期宣言は終わった。私は、ねむちゃんに飴玉を渡す。


『一時間後に会議があるので、遅れないようにな?』

「はい。わかりま……くう」


 まったく、ねむちゃんはいつも眠そうにして。それでも、我が組織には必要な人材だからな。彼女の代わりになる人材はいないだろう。

 廊下を歩いていると、多くの部下達とすれ違う。その度に、一人一人に挨拶を交わし、自室へと辿り着いた。


 朝の仕事を終えた私は、椅子に腰掛け、仮面を外し、冷蔵庫からパックの牛乳を取り出す。ストローを刺し、まったりとする。


(組織を設立して、半年。妹力は十分に集まってきたけど。まだ足りないのかな? そもそも、妹力を集めたとしても、肝心のお兄ちゃんがいないんじゃ、本当に最高で最強の妹になれたかなんて……ううん! だめ! 弱気になっちゃ! こんなことじゃ、お兄ちゃんは帰ってこない!! 私は、何のために)


 よし、こんな時は、お兄ちゃんとの思い出の品で。

 いつも弱気になった時、そしてお兄ちゃん力がなくなった時は、お兄ちゃんとの思い出の品でパワーを充填することにしていた。

 コンソールにパスワードを入力すると、ただの壁だったところが開き、お兄ちゃんとの思い出の品々が詰まった倉庫が現れる。


「どれにしようかなぁ。やっぱり、お兄ちゃんと海に行った時の映像かな? それとも一年区切りで記録されているアルバムかな?」


 たくさんある思い出の品から、私は悩みに悩んだ結果。


「よし! アルバムを牛乳を飲みながらじっくりと!」


 会議までは、まだ五十分近くあるし。うん、十分充填できる。アルバムを持って、倉庫を閉める。さっそく椅子に座って、充填しようと思った刹那。

 

『総統様ー。映像電話ですー』


 突然の映像電話が繋がる。


「ん? おい。今は忙しいから……え?」


 アルバムを見るのに、夢中になるところだったので、後にしてほしいと思ったのだが。私は、映像に映る人物を見て、アルバムを落としそうになるが、すぐキャッチ。

 お父さん、お母さん。ここまではいつも通りだ。

 いつも私を心配して、私が渡した特別な通信機で定期的に様子を見に来る。だけど、今日は違う。だって、二人の間に居る人は……。


(お兄ちゃん……お兄ちゃん! お兄ちゃんだぁ!!)

 

 一年も、一年もどこに行っていたの? 本当に、本当に探した。学校を休んでまで探した。新幹線に乗って遠出までして、山にも登って、海の中も、洞窟にだって行ったけな。

 嬉しい。嬉しい過ぎて、爆発しちゃいそう。

 だけど……ここは。


『さや。一年ぶりだな。ごめんな、突然いなくなって。それにしても、びっくりしたぞ。お前がこんなことをしているなんて』

『……こほん。ふん。なんだ、我がお兄ちゃんではないか。そうだな、一年ぶり。久しいものだ』


 あー! お兄ちゃん! かっこいい! なんだか、一年前よりもたくましく、凛々しくなってる! でも、私の名前を呼ぶその声は、変わらない。

 落ち着く。とても落ち着く声だ。

 ギリギリのところで、総統としての冷静さを保ち、私は四天王を呼び出し、お兄ちゃんにこんな挑戦を突きつけた。


『私達と戦って、勝利して見せよ!! さすれば、世界中の人々を妹から解放してやろう!! さあ、かかってくるがいいお兄ちゃん!!』


 すると、お兄ちゃんは絶対勝って見せるという意思を見せつけ、勝負を承諾してくれた。さすがは、お兄ちゃんだよ。

 その一歩も引かない真っ直ぐな瞳。私、高揚してきちゃった……!

 お兄ちゃんとの通信が終わり、静寂に包まれる中、私は。


「はあ……! はあ……!」

「総統様! 大丈夫でござるか!?」


 突然息苦しそうにしていると、四天王一人が私に駆け寄る。


『だ、大丈夫だ』

「まあうん。いつもの発作っすね。でも、今日のはいつもよりも激しいようっすね」

「あれが、総統ちゃんのお兄かー。うん! いつも観る映像よりちょっとかっこよかったねぇ」

「あの兄上様なら、私が眠っていてもそっとしてくれそうですぅ……ねむぅ……」


 なんとか、発作が収まり、私は四天王に叫ぶ。


『四天王よ! いつも以上に大忙しになるぞ!! なにせ、私のお兄ちゃんが相手なのだからな!! っと、言うわけで、私は少しお兄ちゃん力を充填する。あっ、そうだ。さっきの映像、ちゃんと録画してあるな?』

「はい。すぐ総統様のパソコンにお送りします」


 それを聞いた私は、四天王を解散させ、アルバムを抱きしめ、ベッドに寝転んだ。お兄ちゃんが帰ってきた嬉しさを噛み締めながら。

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