第二話「兄の消失と謎の声」
「お兄ちゃん! 明日は、休日だね」
「そうだな。どっか遊びに行くか?」
私の名前は、篠原さや。どこにでもいる中学一年生。大好きなお父さんとお母さん。そして、お兄ちゃんと一緒に毎日を過ごしている。
三人とも、私に優しくしてくれて、毎日が幸せで楽しい。
今日も、お兄ちゃんが通っている高校に迎えに行って、一緒に帰っている最中。
「そうだね! どこに行こうか?」
「そうだなぁ。……っと、すまん。ちょっとコンビニに寄っていいか?」
買い食いをするつもりかな? ううん、違う。
私は、なんとなく察した。
だから、笑顔でいいよと頷く。
「ちょっと待っててな」
「うん。品物を見て待ってるから」
コンビニに入るとお兄ちゃんは、すぐトイレへと向かっていく。やっぱりそうだった。さすが私! お兄ちゃんのことならなんでもわかっちゃう。
さて、お兄ちゃんが来るまで何か買おうかな?
でも、夕飯もあるしあんまり間食は控えたほうがいいよね。でもでも、お兄ちゃんはいっぱい食べるからちょっとは大丈夫かな?
「……」
遅いな、お兄ちゃん。トイレに入ったもう五分は経ったかな?
お腹が痛そうには見えなかったけど。
もうちょっと待ってみようかな。
だけど、それから更に五分待ったけどお兄ちゃんはトイレから出てくることはなかった。あまりにも遅いので、トイレのドアにノックをして呼びかけたけど、応答がない。
そこから更に五分。
さすがにおかしいと思った私は、電話をかける。
「……お兄ちゃん?」
おかしい。携帯の着信音が聞こえない。携帯を忘れたということはないはず。だって、家から出て行く時も学校から離れていく時も、携帯電話があることは確認していたから。
それに、もう出て行ったということはない。
お兄ちゃんが私を置いていくことなんてないんだから。鍵もかかっているし……。
結論から言って、お兄ちゃんは消えていた。
さすがにおかしいと思った私が、コンビニの店員さんに言って協力してもらった。何度もノックをして呼びかけて、反応がないのをもう一度確認して、無理やりドアを開けた。
すると、お兄ちゃんの姿どころか荷物の一つもなかった。
家にも帰っていない。友達の家にもいない。
どこにもいない。
警察に協力を要請して、私達も探し回った。だけど……全然手がかりの一つも見つからない。周りの人達は、神隠しにあったんじゃないか? と言う人達も多く居た。
じゃあ、お兄ちゃんは地球じゃないどこかに?
そんなはずがない。
お兄ちゃんは、どこにも消えたりしない。きっと、姿を見せれない事情があるんだ。そうに決まっている。絶対そうだ。
絶対絶対絶対……絶対そうに決まってる。
「お兄ちゃん。お兄ちゃん……お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん」
そろそろお兄ちゃんが姿を消して、半年が経とうとしていた。私は、お兄ちゃんとの思い出の品に囲まれながら、ぶつぶつ呟いている。
お兄ちゃんが帰ってくるように。
お兄ちゃんは、私が寂しがっているといつも来てくれる。だから、お兄ちゃん。早く帰ってきて。
「さ、さや……ううっ!」
後ろでは、お母さんが今の私の姿を見て、涙目になっている。大丈夫だよ、お母さん。私は、大丈夫。お兄ちゃんが帰ってくるまで、私は諦めないから。
いつものように、お兄ちゃんを求めて私は家から出て行く。
すると。
『―――大丈夫だよ』
「え?」
脳内に謎の声が響き渡った。周りには、誰もいない。
いったい誰の?
『君の兄は帰ってくる』
「ほ、本当!?」
『そのために、君は最高で最強の妹にならなくちゃならない』
「ど、どういうこと?」
幻聴じゃない。ううん、幻聴かもしれないけど。私は、謎の声の言葉を信じて聞いていた。
『兄が帰ってこないのは、君の妹力が足りないから。そんな妹力じゃ、彼に相応しい妹とは言えない』
「そ、そんな……」
お兄ちゃんが帰ってこないのは、私のせい? 私が、お兄ちゃんに相応しい妹じゃないから? そんなこと考えたこともなかった。
私の……私が全然妹らしくないから。
『兄に帰ってほしい?』
「も、もちろん! どうすればいいの!?」
『簡単だよ。妹力を集めて、高めればいい。そして、最高で最強の妹になればいいんだ』
「最高で最強の妹に……そうすれば、お兄ちゃんが」
『さあ。君と運命を共にする仲間達を集め、世界中から妹力を集めるんだ!』
お兄ちゃん。待ってて。私、お兄ちゃんに相応しい妹になってみせるから。
そうしたら……また、楽しい毎日を送れるよね?
だけど、どうやって妹力を? そもそも妹力って? この声も、いったい何の目的があって、私にこんなことを言っているのかわからないけど。
お兄ちゃんが、戻ってくる可能性があるんだっていうなら、私は!
次回も妹視点です。