26.girl's talk
「それでは……」
簡素ながらしっかりとした宿屋の一室。
狭い部屋に三台並んだ寝台、その真ん中のひとつに靴を脱いで座り込み、三人は真剣な顔で片手を掲げた。
「祝、全員昇級! アーンド、重版出来!」
アメリアの華やいだ音頭に合わせて、誇らしげに手にした容器をぶつけ合う。
三人は、ここ最近ですっかりお決まりとなったポンシュポーションを愛用のマグに注ぎ、ぐいと一気に飲み干した。
「くーっ! 勝利の美酒、うまーい! 結果発表までの一週間、禁酒した甲斐があったわ!」
「無事の昇級、やりましたね! それと、エルヴィーラ、改めヴィーエル先生、重版おめでとうございまーす!」
「いやあの……先生という呼び名はちょっと……」
アメリアとマリーが陽気にはやし立てると、エルヴィーラはもごもごと呟きを返す。
それでも、わずかに朱に染まったとんがり耳は、ぴんと伸びており、まんざらでもない様子が伝わってきた。
寝台の上、ポンシュや菓子が山と用意された傍らには、それぞれの昇級を示す証書、そしてうず高く積まれた書物がある。
それは、エルヴィーラがわずか一日で書き上げ、かつ、たった一週間という短期間で、恐ろしい勢いで市場に流布しつつある小説であった。
「それにしても……『びーえる』ねえ……。まさかギードのやつが、こんな風においしく『料理』されちゃうなんて、思ってもみなかったわ」
「ですよねえ。エル……ヴィーエル先生の手にかかれば、あの高慢で卑怯者のギードが、強気で、かつちょっと抜けたところのある、魅力的な『受け』に見えてくる不思議……。びーえるの補正能力って、凄まじいですよね」
アメリアが小説を摘まみ上げてしみじみと言えば、マリーもまた神妙に頷き返す。
ふたりがこぞって「ヴィーエル先生の、魔力的文才……」と唸ると、エルヴィーラは真剣な表情でそれを否定した。
「なにを言う。私はターロの原案を、少々脚色して文章に起こしただけだ。キャラの造形や関係性、目まぐるしい展開や、……そもそも『びーえる』の概念自体、すべてターロの功績だぞ」
そう。エルヴィーラは、あの昇級試験の後、なにかに着火してしまったターロが促すままに、人生初の執筆作業に臨んだのである。
執筆とは言っても、構想はすべてターロによるもの。
そして、彼が「こういう風に書いてくれ」と言ってきたその内容というのが、ひどくぶっ飛んでいた。
なんと、ギードをモデルにした魔術師と、同じく男性の冒険者の色恋を描けというのである。
最初、もちろんエルヴィーラは驚いた。
というか、同性同士の恋愛模様を題材にするという意味がわからなかった。
が、ターロが「いいから! まずはもう、俺がこれから言うストーリーをそのまま文字に起こして!」と言うので、その勢いに圧されて書きはじめたのだったが、数分もしないうちに、彼女はびーえるの世界の持つ魔力の虜となった。
物語のおおよその展開はこうだ。
時は現代、舞台は冒険者ギルド。
エリート魔術師の家系に生まれた青年ギードは、親の命令に従い修行すべく、本来の能力と優れた容姿を隠してギルドに飛び込んでいく。しかしギルドは、俺様系剣士や腹黒系魔術師、双子の鑑定士や寡黙系召喚士の五人によって支配された、息苦しい組織だった。
ギードは「目立ってはいけない」と己を戒めつつも、持ち前の強気な性格からつい五人に反発し、目を付けられてしまう。
が、能力解放時には同等に戦えるギードの強さ、そしてまっすぐで物怖じしない性格に、五人は次第に心を奪われていく。
ギードもまた、ときにぶつかり合い、ともに戦いながらも、激しい恋情をぶつけてくる彼らに、惹かれてゆくのであった――。
「なんなのだろうな……本来『獲物』たりえない男が獲物になってしまう、ありえない設定ゆえの緊張感……同時に、ありえない世界ゆえの安心感……。びーえるとは実によくできたファンタジーなのだな」
「わかります。思い余った俺様剣士に襲われかけるあたりなんか、ギードが女性だったら自分を重ねてしまって、かなりの鬱展開だと思うんですが、男性だからなのか……こう、滾る、としか……」
エルヴィーラが首を振りながら漏らせば、マリーが真顔で頷く。
「おお、マリー。なんと深い理解だ。さてはおまえもハマってくれたか。この深く生温かく、一度足を踏み入れたら二度と戻れない、沼のような掛け算の世界に」
「はい。私は腹黒系魔術師カプ推奨ですね」
「……ねえ。私はあんたたちがなにげなく使ってる、『カプ』とか『掛け算』とかの言葉の浸透力が、心底恐ろしいわよ」
がっちりと握手を交わしたエルヴィーラとマリーの横で、アメリアは半眼気味である。
文字を読むのが遅い彼女は、気鋭の話題作「薔薇のギルド」をほとんど読みこめていないのだ。
が、それでも、胡坐をかいた上に乗せている書物の進みは、これまでになく速く、彼女もまたその物語のファンになるであろうことは、もはや時間の問題だった。
「なんていうか……魔力があるのよね、この本には」
ポンシュを舐めながら、ゆっくりとページをめくるアメリアの呟きは、実は物理的にも正しい。
言葉には力がこもる。
どれだけの感情が込められるかが、魔術の質を左右する。
物心ついてからずっと書物に触れて表現力を磨き、そして今、激しく心を震わす物語に出会ったエルヴィーラが「心を込めて」書き記した文章は、実際に魔力を帯びてしまっていたのである。
読んだ者を虜にする魔力の、最初の犠牲者になったのは、印刷所の夫人だった。
編集者も兼ねていた夫人は、「少数でいいので印刷させてくれ」と持ち込まれたエルヴィーラ作の原稿を拾い読みして、その新規性と胸躍る展開に愕然。この新しい物語を世に広めることこそ我が使命だとの天啓を得て、積極的に製本と拡散に乗り出した。
具体的には、自社だけでなくよその印刷所にまで声を掛け、かつてないスピードで大量の印刷を実現したのである。
もともとこの辺りの地域で印刷業が盛んだったこともあり、「薔薇のギルド」は発売直後から増刷に次ぐ増刷、重版に次ぐ重版を呼んだ。
流通が間に合わないところでは、書店を拠点として、日夜朗読会も開かれているという。
その結果、どんなことが起こったかと言えば――
「ふふ。それにしてもギードのやつ、今日もまたギルドまで『薔薇ギル』ファンに押しかけられて、げっそりしてたわね」
「それはまあ、一挙手一投足をニヨニヨ見られたら、たまったものじゃないですよね」
現実世界でもギードがすっかり「受けキャラ」として定着し、心を腐らせた女性陣にじっとりとした視線を向けられ、精神をすり減らしていた。
二次元と三次元を混同するほどにのめり込んだファンというのは、すさまじい。
ここ数日で爆発的に人数を増やしつづけているそれらのコアファンは、日夜ギードを観察しては、「ああっ、今、ギルドスタッフとの距離感がちょっと狭くなかった!?」「あらやだ、これでは剣士様によるお仕置きコースね」「誘い受けギードたん尊い」などと、カラドリオスをも凌駕する、たくましい妄想の翼を広げているのである。
エルヴィーラもかつて、心ない噂に扇動された男たちに嫌らしい視線を向けられ、苦痛を強いられたものだったが、ギードに湿った視線を向ける女性たちの規模、そして湿度たるや、それをはるかに上回る。
さらに最近では、熱心な男性読者からも、「おまえ……本当に、そっちの趣味があるのか?」などと言い寄られたりもしているようだ。
なんというか、その状況下でギードが吠えようが毒づこうが、「おやまあ」と哀れみ混じりの滑稽さしか覚えないのである。
「昇級の証書を受け取りにギルドに行ったとき、ちょうど私もギードに会ってな……無事ルビーの称号を手にした私に、やれ女狐だなんだ罵っていたが、『おやおや、親愛なる「受け」殿がなにか言っているぞ』と私がペンとメモを握りかけたら、しゅんと大人しくなったぞ。……なんだか、ちょっとかわいかった」
そんな風に思える自分のことが、エルヴィーラには不思議だった。
だが同時に、それはとても、好ましいことのように思えた。
恨むという行為は、苦しい。
敵を憎むのも、自分の無力を嘆くのも、ひどく心を疲弊させることだ。
同じ目に遭わせ、復讐を果たすのもきっと正しいことなのだろうが、できるなら自分は、それとは異なる方法で、軽やかな心を保っていたかった。
相手の悪意を糧に、自分が幸せになること。
笑い、楽しむこと。
ターロのやり口は、意識してかどうかはわからないが、いつもそのことを自分に教えてくれる。
魔菌のときにも学んだはずのことを、エルヴィーラは今、もう一度示されたように感じていた。
「……私のこの手には、敵を退ける力があるのだな」
ふと己の右手を見下ろして、エルヴィーラはぽつんと呟く。
詠唱が苦手で、記述ばかりしていた自分。
ペンだこの出来た右手は、不甲斐なさの象徴のようなものだった。
だが、この手で、敵を追い詰めるほどの魔力を展開させることができるのだ。
そしてまた、心弾む物語を紡ぐことができる。
人の心に働きかけ、種族の差すら乗り越え、団結させ、動かすことができるのだ。
そう考えると、エルヴィーラは、この右手がひどく誇らしいもののように思えた。
「黄金の右手ってやつね」
傍らでアメリアもが機嫌よく告げるのに、エルヴィーラは照れたように笑う。
しかしちょっと考えて、彼女は「いや」と首を振った。
「いや、黄金の手というのは、ターロの手のことを言うのだろう」
「え? なんで?」
「ターロが紙を折って作ったカラドリオス。あれを、ふたりも見ただろう?」
エルヴィーラが問うと、ふたりは「ああ」と声を上げる。
ターロがあの場で折ってみせたカラドリオス。
紙を断ち切るでも組み合わせるでもなく象られた鳥は、一度見たら忘れられない鮮烈な印象を残したのである。
中でも、その制作過程を見ていたマリーは、感心しきりといった様子だった。
「ターロさん、すさまじい速さで折ってましたからね……。目は闘技場のほうを向いてましたから、ほとんどノールック、という感じでしたし。どうしてあんなことが可能なのか……」
「あの器用さにはほんと驚くわよね。再現したのを見せてもらったけど、なにがどうしてああなるのか、さっぱりわからなかったわ」
「私もできるなら真似たいと思って、折り方を教えてもらったが、四工程目あたりで脱落したものな……」
紙の角と角がずれないよう折り合わせるのも一苦労なのに、それを袋状に開いたり、ひっくり返したり、という時点で、三人が三人とも脱落していたのであった。
かろうじて、一番器用なマリーで「やっこ」が折れるようになったくらいか。
「しかも、ターロさん、こんなのニホン人なら誰でも折れるとか言うじゃないですか。どれだけ謙虚なのか……」
「いやいや、いっそ嫌味よね? 全国民が、カラドリオスを『定義』できる能力を持ち合わせた国なんて、あってたまるかってのよ」
「それともやはり、あまりに地震の多い国だから、全国民が癒しの鳥を召喚できるよう、手指を鍛えているというのだろうか……」
どうも彼女たちは、とかく日本人を戦闘民族にしたいようである。
しかも、とエルヴィーラは声を低めてふたりに告白する。
「ここだけの話だがな、今回伝授してもらった『薔薇ギル』の物語だが、あれはニホンではありふれた、つまり『てんぷれ』のひとつで、あの程度の物語なら掃いて捨てるほど転がっているらしいぞ」
「ええっ!? あんな斬新な、心ときめく物語がですか!?」
「ああ。なんでもニホンでは、かなりの人数の子女が――下手をしたら、十歳になったかならぬかくらいの少女でもだぞ――、日夜その手の物語を紡ぎ出しては流布させているらしい。実際、ターロの姉君は齢十二で覚醒し、以降十年もの間、びーえるを究めんと物語を書き続けている貴婦人であるそうだ」
「なんて文芸に優れた……いえ、なんてすさまじい妄想力を持ち合わせた民族なのよ……!?」
世界用語にもなりつつあるBLの発祥地・日本。その文芸を生み出す精神的土壌は、広大かつ肥沃なのである。腐葉土であるだけに。
「――で、その妄想力豊かな戦闘民のターロは、どこに行ったわけ? このささやかな重版祝賀会の、陰の主役でしょうに」
と、ニホン人の底知れなさに慄ていたいたアメリアが周囲を見回す。
すると、エルヴィーラが「ああ」と肩をすくめてそれに答えた。
「なにやら、ギードを見て相好を崩す婦人方の姿に、姉君を思い出したらしいぞ。ひとりになりたいから、祝賀会は出席を見送らせてほしいと言っていた。ホームシックにかかったのかもしれん」
実際には、腐女子と化してしまったレーヴラインの女性陣に姉の姿を重ね、意趣返しのためとはいえ己が手を出してしまったものの闇の深さに、恐れ慄いていたのである。
が、そんなこととは知らぬ彼女たちは、「そう……」「……早く、ギルドの上役と話す機会を作ってあげなくてはいけませんね」などと頷き合った。
「上役といえば、アメリア。トビアスとはその後連絡が付きそうなのか?」
「それが、なんとも。無事サファイア級に昇格して、いつでも上層部と面会できる身分になったのに、肝心のトビアスのやつがいないのよ。なんでも大金が動きそうな案件を見つけたとかで、忙しく動き回ってるらしいわ」
エルヴィーラが問えば、アメリアは苦虫をかみつぶしたような顔で答える。
リーダーとして、ターロの帰還に渡りをつけてやりたいというのに、それが難航していて苛立っているのだろう。
「まあ、トビアスの本質は、冒険者ギルドのマスターというより、商人ギルドの親玉のようなものだからな。冒険者たちと親交を深めるよりも、金儲けの話を優先したいのだろう」
エルヴィーラが宥めるように嘯くと、静かにポンシュを味わっていたマリーがふと顔を上げた。
「……異様な功績を叩きだし、全員昇級まで果たしたパーティーを差し置いてまで、彼が気にするような案件って、なんでしょう。特に戦争があるわけでもない今日日、大金が動くようなこともそう無さそうなのに」
「さあ。あたしたちが気付かないような金の気配に気づくからこそ、あいつも敏腕って呼ばれてるんでしょ。それが、ギルマスとしての評価にふさわしいのかどうかは疑問だけど」
アメリアはざっくりと返したが、マリーは腑に落ちないような表情だ。
と、そこに、
「あ」
会話に耳を傾けながら、今度はファンレターを読み込んでいたエルヴィーラが――これもまたすごい量である――、小さな声を上げた。
「いかん。至満月の週五日とは、もしや今日ではないか?」
「そうだけど。どうかした?」
「ついでに、もう夕五つの鐘は鳴ってしまったよな?」
「そうね、さっき鳴ったのが五つだったと思うけど。どうしたのよ」
アメリアが重ねて問うと、エルヴィーラは困ったように眉を寄せた。
「いや……この手紙、どうやら二日ほど前に来て埋もれてしまっていたようなのだが、差出人がな、私にどうしても会いたいから、これこれこの日に宿まで伺いたい、とある。その指定された日付というのが、今日の夕五つなんだ」
「なにそれ」
聞き返したアメリアの瞳にも、驚きと困惑が混ざっていた。
「あんたの熱狂的なファンってこと? そりゃあすごいことだけど……でもちょっと怖いわね」
「差出人は女性の方ですか?」
マリーの声にも、警戒の色のほうが強くにじむ。
エルヴィーラは封筒をひっくり返し、名を検めた。
「珊瑚級魔術師コルネリア。女性だし……同業者のようだ」
「……それ――」
マリーがなにかを言いかけるよりも早く、エルヴィーラは「すまんが」と寝台からひらりと足を下ろした。
「相手を待たせてしまっているなら失礼だ。ちょっと宿の受付まで行ってくる。ふたりはこのまま飲んでいてくれ」
「――待ってください!」
そのまま部屋を出ていきかけたエルヴィーラを、マリーが呼び止めた。
振り返ると、彼女は獣耳をぴんと立て、両手を胸の前で握り合わせていた。
どうやら、少し緊張しているようだ。
「昼はギードも大人しく見えたとはいえ、これが罠だったらどうするんですか? いきなり呼び立てる相手に会いに行く義理なんてないです。やめましょうよ」
仲間思いで慎重な彼女らしい。
しかし、エルヴィーラは軽く笑って肩をすくめた。
「本当に宿に来ているか、確かめるだけだ。手紙にはご丁寧に、嫌ならその旨を宿に託けてくれとまで書いてある。にもかかわらず、返答もせずに相手を待ちぼうけさせてしまったら、さすがに心苦しいだろう?」
そう言って、今度こそ扉の向こうへと去っていってしまう。
エルヴィーラにはエルヴィーラなりに、今の自分であれば、仮にこの呼び出しが罠であったとしてもくぐり抜けられるという、静かな確信があったのである。
(それにしても、呼び出しとは。……本当にファンだったら、どうしよう)
廊下を進みながら、頭の片隅ではそんなことを考えたりもする。
我ながら浮かれているとは思うが、作品の感想を直接聞ける機会に恵まれたかもしれないことが、嬉しくてならなかったのである。
が。
「――ああ。ようやく来てくださったのね。わたくしは珊瑚級魔術師、コルネリア。待ちくたびれていてよ」
宿の受付の前で、腕組みをしながら待っていた人物を認めて、エルヴィーラは軽く目を瞬かせた。
魔術師らしく、フードを目深にかぶったローブ姿。
それは特に不思議ではなかったのだが――こちらに気付いてフードを外したその顔には、ずいぶんと居丈高な雰囲気が滲みだしていたからである。
若く、良家のお嬢様のようなきれいな肌をしているが、目つきはややきつく、化粧も派手で攻撃的な様子である。
こちらの遅刻に苛立っているのかもしれないが、それを差し引いても、威圧的というか、元から人に命令しなれたタイプの人間のようだった。
まあ、魔術師というのは、選民意識の強いエルフか、エリート教育を施された人間がなることが多いため、そのような性格の者が多い傾向にはあるのだが。
「お待たせしてしまったようで。私が、『薔薇のギルド』作者の――」
どうも「憧れの作家先生に会いに来たファン」というのとは違うようだ、と内心で首を傾げながら、エルヴィーラは切り出したが、相手はそれを遮って言い放った。
「挨拶は結構よ。連絡を取りやすいと思ったから『ヴィーエル先生』に手紙は宛てたけれど、わたくしは『ルビー級魔術師・エルヴィーラ』に会いに来たのだから」
「私の名を……?」
「ええ、もちろん知っているわ。わたくしは、先の昇級試験であなたたちのことを知ったのですもの」
受験者か観客のひとりとして、あの闘技場にいたということだろうか。
魔術師――つまりギルド登録者である以上、同じくギルド登録者の昇級試験を観戦するというのは、なんら不思議ではない話だが、それでもこうして呼び出された理由がわからず、エルヴィーラは眉を寄せた。
「……魔術師としての私に用があるということか?」
「ええ。同じ魔術師のよしみで、忠告に来たのよ」
忠告とは、穏やかでない。
夕暮れのギルド。
どこか不穏な色をした夕陽を背負い、ローブをまとったコルネリアは、紅を引いた唇で低く告げた。
「あなたのパーティーについて、大切な話があるわ」