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24.#肥沃なる精神的土壌(3)

「か……っけえ……」


 凛としたマリーの後ろ姿に、思わず唸り声が漏れる。

 三人の中で最も女の子らしく穏やかな彼女でさえ、この溢れる漢気。

 俺のパーティーはいったいどうなってんだ。


 周囲の観客も同じような感想を持ったらしく、


「なあ……あのマリーとかいう子、元ルビーのアメリアと同じパーティーなんだよな。すごくね?」

「ああ。たしか最近すごい功績を叩きだしてるパーティーだろ?」


 興奮の滲んだ声で囁き合っている。

 必然彼らの関心は、もうひとりのパーティーメンバーである受験者・エルヴィーラに向かったらしく、十分ほど後、彼女の試験の番になると、会場は目に見えて混みはじめた。


 試験を終えたアメリアとマリーも、なんとか人の波を縫って、俺と合流する。

 もはや昇級は確定したも同然で、ふたりの表情は晴れ晴れとしていた。


「お疲れ様。アメリアも、マリーも、すごかったな」

「ありがと。ま、あのくらいはね」

「ありがとうございます。……でもちょっと、目立ちすぎてしまったかもしれません」


 アメリアは最前列の席で堂々と足を組み、周囲の視線を集めていたが、マリーは恥ずかしくなってきたらしく、フードを深々とかぶりなおし、小さくなった。かわいい。


 ――ざわっ


 やがて、おなじみの白いローブをまとったエルヴィーラが、闘技場の中央に進み出ると、会場が一斉に沸き立つ。

 遠目からでも息を呑むレベルの、彼女の美しさのせいだろう。

 エルヴィーラは、フードを取り、その白皙の美貌を剥き出しにしていた。


 ハーフエルフは純エルフに比べて美貌も魔力も劣ると彼女は言っていたが、俺にはそうは思えない。

 現に、会場中の人間が、その流れるような金髪や、凛と前を見据える青い瞳に、ほうっと感嘆の溜息を漏らしている。


 が、次に彼女の対戦相手が舞台に上ったとき、周囲の気配は少々不穏なものに変わった。


「……最悪。ギードって、あのギードなのね」

「よくある名前だし、違えばいいなと思ってましたけど、……ギルドもひどい対戦表を組みますね」


 アメリアやマリーも、顔を顰めて呟く。

 どういうことかと尋ねてみて、ふたりから得られた情報に、俺は思わず眉を寄せた。


 ギード。

 真珠級の魔術師。


 だが、真珠級というのはあくまで名目上のことで、実際にはそれを二ランクも上回る、ルビー級くらいの実力の持ち主であるらしい。

 それでもなぜランクが低いかというと、それはひとえに、彼の素行が悪すぎるから。


 特に女癖がひどく、きれいどころの女冒険者を見るやちょっかいを掛けて、ときに暴力沙汰まで起こしているらしい。

 特に、魔術への自負心の反動から、ハーフエルフへの差別意識が強く、エルヴィーラのような存在を見つけては、執拗にいたぶってくるのだという。


 一見する限りでは、ギードはウッツと異なり、痩せぎすで小柄。

 あまり強そうな感じではない。

 けれど、陰険そうな目つきからわかるとおり、女相手だろうと魔術を容赦なく振るい、欲望のままに接してくるのだとか。


「なんでよりによって、そんなやつがエルヴィーラの対戦相手なんだよ」


 ウッツといい、ギードといい、冒険者にはろくな男がいないのか。

 俺が思わず吐き捨てると、アメリアは鼻を鳴らし、くいと親指で斜め後ろの席を指した。


 怪訝な思いで視線を向けると、ひそひそと囁きを交わす観客の姿が飛び込んでくる。

 彼ら――いかにも普通の青年たちだ――は、その瞳に興奮の色を浮かべていた。


「うは、ギード対ハーフエルフ美少女かあ。あいつのことだから、衆人環視で、あの子を裸に剥くくらいするんじゃねえか? 純エルフなら種族戦争が起きかねねえけど、ハーフエルフってのが絶妙だよな」

「やべ、俺までドキドキしてきたわ。今日の試験は『アタリ』だな」


 耳を疑う。

 彼らは、むしろ、美貌のハーフエルフが、げすな欲望に晒されて苦しめられる展開を期待しているのだ。

 そしてそれは、彼らだけでなく、この会場の男性陣全体に共通する気配だった。


「この昇格試験は、ギルドにとっては金儲けの場でもあるから。観客が喜ぶように、っていうギルド側の『サービス』よ。おかげさまで、大盛況」

「…………」


 言葉を失う。

 彼女たちと出会ったとき、アメリアが俺に対し、ああも当たりが強かったその理由が、改めてわかった気がした。


 女。獣人。ハーフエルフ。

 ――差別と、蔑み。


 彼女たちが闘ってきたもの。

 その理不尽さを突きつけられるのも、もう何度目のことだろう。


 周囲の観客から目を逸らし、ぎゅ、と拳を握る。


 同じ男として恥ずかしい。

 なんで彼女たちを取り巻く環境は、こうも醜いんだ。


 こてんぱんにしちゃえよ、と胸の内で願う。


 やっつけちゃえ、エルヴィーラ。

 あんなにひたむきで、魔術に対して真剣な君が、卑劣な男や理不尽な環境を跳ね飛ばせないはずがない。


 マリーは温泉に浸かったおかげで、みんなの能力が底上げされたと言っていた。

 現に、アメリアやマリーは、敵や課題をあっさりと一蹴してみせた。


 だから、大丈夫。

 きっとエルヴィーラも、一瞬でギードを倒しちゃうはずだ。


 しかし――。


「それではこれより、真珠級魔術師ギード並びに珊瑚級魔術師エルヴィーラの、ルビー級昇格を懸けた試合を開始する! 両者とも控えよ……開始!」


 トビアスが声を張り上げた次の瞬間から、俺は何度も悲鳴を飲み込む羽目になった。


「やれやれ、ハーフエルフの嬢ちゃんが、ルビーに挑もうだなんてさあ。分を弁えろってんだよ、なァ? ――輝ける大陸、レーヴラインの偉大なる名のもとに請う! 我が手よりいでよ、宙を舞う(ウィンド・)風の刃(ソード)!」


 ギードがにいっと笑い、両手を高らかに突き上げたのと同時に、ごうっという音を轟かせて、疾風が舞台上を駆け抜けていったのだ。

 風はかまいたちとなり、大量の破片と砂塵を舞い上がらせながら、石の床を割り砕いていく。

 その一部が、両手を突き出し詠唱していたエルヴィーラの、ローブの袖を断ち切った。


「――……っ!」


 びしゅっ、と、鋭い音が聞こえた気がした。


 布だけではない。

 風の刃は、エルヴィーラの腕をも傷つけたのだ。


 エルヴィーラは素早く自らの左腕を握り寄せ、身をよじる。

 おかげで、かまいたちとの正面衝突は避けられたものの、引き寄せた腕からは、ぽたぽたと鮮血がしたたり落ちていた。


「ちっ、なんて威力よ……!」

「やはり、ルビー以上の実力はあるということですね……。いくら名目上では格下相手だからといって、こんな対戦を組むなんて……!」


 アメリアたちも、息を詰め、眉を寄せて試験を見守っている。

 俺もまた、呼吸が浅くなるのを感じた。


 エルヴィーラの、血。

 なんだかんだで、パーティーの仲間が血を流すところを見るのは、初めてだ。


 エルヴィーラは、今までに見たことのないような険しい顔をしている。

 それだけ苦戦を強いられているということなのだろう。


 その後も、エルヴィーラが詠唱をしようとするたびに、ギードは豪快な魔術を展開してはそれを妨げる。

 都度、エルヴィーラは詠唱を中断させられ、防戦を余儀なくされていた。


「エルヴィーラ……どうして仕掛けないんだよ、前よりも強くなってるんだろ?」


 焦りをそのままにじませて呟くと、「できないんですよ」とマリーが答える。

 彼女もまた、ひどく強張った顔をしていた。


「たしかにエルヴィーラさんの魔力量は増しています。けれどそれは、魔術の展開スピードとは無関係なんです。せっかくの潤沢な魔力も、詠唱が完成する前に遮られてしまっては、展開できない……ギードのような、スピードで勝負するタイプの魔術師は、相性最悪なんですよ。彼も、それがわかっているからこそああやって、わざとエルヴィーラさんに途中まで詠唱させては、それを邪魔するタイミングで術を仕掛けているんでしょう」


 たしかにギードは、にやにやと嫌らしい笑みを浮かべて、あえてエルヴィーラに詠唱を始める猶予を与えては、それをかき消すように攻撃を加えている。

 かまいたちを仕掛けたり、大量の水で襲い掛かったり、火の輪で締めかかろうとしたりと、技の種類も多様だ。


 試験だから自分の技量を見せつけているという意味もあるのだろうが、……それよりも、猫がネズミをいたぶるような、残忍な遊びのような側面のほうが目立った。


「ほーら、どうした? 少しは反撃してくれないと、こちらも楽しめないじゃないか。ははっ、詠唱の苦手な混ざりものエルフに、そんなものを期待した俺のほうが愚かだったか」


 ギードは耳ざわりな声で嘲笑を放つと、今度はローブの胸元から植物の種のようなものを取り出し、ひょいと宙に投げた。


「そら、娼婦(ハーフエルフ)の役目は、俺たち男を楽しませることだろう? そろそろ本領を発揮してもらおうじゃないか。手伝ってやるよ――輝ける大陸、レーヴラインの偉大なる名のもとに請う! 頑強なる世界樹の種よ、殻を破りて我が意志に従う鞭となれ!」


 そうしてやつが呪文を叫ぶと、ぱきっと鋭い音が響き、


 ――ぎゅるるるるる!


 種から飛び出た緑色の蔦が、素早くうねるような音を立てて、一気に三階の観客席にも届くほどの高さまで伸び上がった。


「な……んだよ、あれ……っ」


 世界樹、などと言っていたから、おそらくはそういう魔力が籠った感じの植物なんだろうけど、見た目が随分とえげつない。

 蔦は、ときどき茶色っぽい瘤のように膨らみ、ぐにゃぐにゃと収縮を繰り返しながらエルヴィーラに襲い掛かった。


「大いなる揺籃、汲めども尽きせぬ海に包まれた大陸レーヴライン、の……――っ!」


 またも詠唱を途切れさせられた彼女は、ぎっと眉間にしわを寄せながら蔦の攻撃を躱そうとする。

 しかし蔦は四方八方からエルヴィーラに絡みつき、ぐいとその身体を持ち上げた。


「――……っ!」


 白い喉から、声にならない悲鳴が漏れる。

 次の瞬間には、エルヴィーラは蔦にがんじがらめにされ、コロシアムの上空で宙づりになっていた。


 わあっ、と、周囲の観客がどよめく。

 ギードはまるでそれに応えるように片手を上げて、それからついと人差し指を折り曲げた。


 すると、エルヴィーラに巻き付いていた蔓の一本が動き、なぜか彼女の口を塞ぐ。


「――……、ぅっ!」

「あいつ……!」

「なんてこと!」


 苦しそうに身をよじった仲間の姿を見て、アメリアとマリーが一斉に席を立ち上がった。

 その剣幕に思わず顔を上げる。アメリアは、歯ぎしりの隙間から押し出したような声で言った。


「あいつ、エルに棄権させないで、いたぶりぬくつもりだわ……!」


 魔術師にとって、詠唱を紡ぐ唇は命そのものだ。

 だがそれ以前に受験者としても、口は重要な意味を持っている。

 なぜなら、勝敗で決着しないこの「試験」は、どちらかが受験放棄を宣言するか、審判が終了を告げるまで続くのだから。


 そして、ハーフエルフが追い詰められる展開を好むギルドの人間が、エルヴィーラの尊厳が守られる時点で試験を終了してくれる可能性は、限りなく低かった。

 つまり――エルヴィーラが「試験を放棄する」と告げられない限り、ギードは堂々と、試験の名目で彼女をいたぶることができるのだ。


 これまでの、詠唱を途中で封じるやり方とは、明らかに違う。

 エルヴィーラに悲鳴すら上げさせずにことを進めようとするギードは、いよいよ残忍な本性を全開にしようとしていた。


「はっ。詠唱ができないってのは、哀れなもんだなあ。ちょっとエルフに似ているからと、粋がって魔術なんぞに手を出すからこうなるのさ。俺のように真に魔術を究める者からすれば、中途半端で出来の悪い模造品の存在こそ、最も苛立たしい。おまえはしょせん、人間より少しばかりきれいなだけの娼婦――そのことを、よくよく理解することだな」


 上空に吊るし上げたエルヴィーラを、ギードはにんまりと笑みを浮かべて見上げる。

 彼はちょっと考えるように顎に指をあてると、それからぱっと両手を広げた。


「そうだ。まずは、嫌らしいハーフエルフにふさわしい姿にしてやらねば」


 同時に、しゅる、と蔦が蠢きだす。

 拘束された腕をじたばたとさせるエルヴィーラを嘲笑うように、蔦はローブの袖に強く絡みつき――それを引きちぎった!


「――…………っ!」


 ――ざわっ

 エルヴィーラの目が見開かれ、観客がどよめく。


 大きくちぎられた布地は肩口のあたりまで裂け、真っ白な鎖骨や、その下に続く肌の一部を露わにしていた。


「あいつ……!」

「ひどい……!」


 アメリアやマリーが、観客席の手すりを握りしめた拳に力を籠める。いや、アメリアはほとんど、手すりを乗り越え、舞台上へと殴り込みを掛けそうなほどだった。


 ギードの狙いは明らかだ。

 あいつは……エルヴィーラを裸に剥くつもりなんだ……!


 その卑劣な行いに――そして、周囲が興奮で(・・・)色めき立っている事実に、目の前が赤くなるほどの怒りを覚える。

 気が付けば俺も、関節が白く浮き出るくらいに手すりを握りしめていた。


「ヒューヒュー! いいぞお、ギードぉー!」

「もっと高く上げて、よく見せてくれよー!」


 客席からは、そんな心無い歓声までもが飛び出す。

 それを聞いて、思わず俺は、震えながら俯いた。


 情けない。信じられない。厭わしい。

 同じ男として、今声を上げたやつをひとりひとり、殴ってやりたかった。


 いや、……違う。

 ――本当は、恥ずかしいんだ。


 だって俺も、エルヴィーラと知り合う前だったなら、もしかしたら「そちら側」にいたかもしれないから。

「金髪の美少女ハーフエルフが」、「蔓に絡み取られて裸に剥かれる」というその図式を、喜んでいたかもしれないから。

 単にそれらを、興奮する記号としか思っていなかったかもしれないから。


 俺は、唇が切れそうなほどに、口を引き結んだ。


 でも違う。

 違うんだ。


 エルヴィーラは、欲望を注ぎ込むための記号なんかじゃない。

 感情があって、信念のある、生身の女の子なんだ。


 まじめで、ひたむきで、わかりにくいけど実は仲間思いで、すごく努力していて、謂れのない差別を受けてもそれを静かに、でも自力で撥ね退けようとする――そういう、……報われるべき、女の子なんだ。


 泣きそうになっている俺をよそに、ギードは観客の声を聞き取ったらしい。

 にやりと嫌らしい笑みを深めると、ぐいと片手を持ち上げ、エルヴィーラをさらに高い位置へと吊り上げた。

 地上からは十メートルほど――命の危険を感じる高さへと。


「人気者だなァ、お嬢ちゃん? そら、みんなにもっとよく見てもらおうじゃないか。おおっと、嫌ならいつでも『棄権して』くれよ? 俺はあくまで試験としてあんたと対戦してるだけで、べつにいたぶりたいわけじゃないからさ」


 そんなことを言いながら、やつは手を動かし、腕と口だけに蔓を集中させた。

 エルヴィーラは両腕だけを拘束された状態で吊るされ、下半身は完全に宙に浮いている。

 時折吹く風にぐら、と煽られるその様子は、いかにも不安定で、危なっかしかった。


 しかも、その無防備なローブの裾を、つ……、と、まるで焦らすような動きで蔓が持ち上げようとしている。


「もう我慢の限界……! トビアスに中止を訴えるわ!」


 隣では、いよいよ目をぎらつかせたアメリアが、片足を手すりに掛けようとしている。

 が、意外にもそれをマリーが制止した。


「待ってください……! エルヴィーラさん、なにか合図してる……!」


 その指摘に、はっとエルヴィーラを振り仰ぐ。

 蔓に吊るされている彼女は、険しい顔をしていたが、それでもその蒼い瞳に助けを請う色はなかった。

 むしろ、凛とこちらを見下ろし、拘束された顔を小さく左右に振っている。


 口は塞がれたままだったが、俺たちには彼女がこう言っているように見えた。


 ――来るな


「エルヴィーラさん……なにか考えがあるのかも……」


 胸の前で両手を握りしめて呟くマリーに、アメリアが「考えってなによ!」と吐き捨てる。


「こんな状況に陥ってるのに、考えもなにもあるわけないじゃない! こんなの、……プライドの高いあの子が、単に意地を張ってるだけだわ!」

「でも……だとしたら、その意地を、私たちが踏みにじっていいんでしょうか……? 受験者の魔力以外のものが展開されたら、その時点で試験は失格……エルヴィーラさんは、また一年近くチャンスが来るのを待たなくてはいけなくなります」

「だからって、この状況を見過ごせるわけ!?」


 アメリアが鋭く言い返すと、マリーはぐっと口をひき結んだ。

 もちろん、彼女だって看過したいわけではないのだ。


 言い合っている間にも、ギードの仕掛けた卑劣な魔術は、こちらを焦らすような動きでエルヴィーラの衣服を巻き上げていく。

 エルヴィーラが、拘束された両手首を、ぎしぎしと不自由に動かすのが見えた。

 その凛とした瞳には、涙も恐怖も浮かんではいなかった。

 彼女は、まだ戦うつもりなのだろう。


 ――でも。


 周囲が興奮に身を乗り出している。

 舌打ちして手摺を乗り越えていったアメリア、両手を握り合わせて立ち竦むマリーをよそに、下卑た笑みを浮かべた観客たちが、ギードを囃し立てている。


 それらを視界に収めながら、俺はぎゅ、と拳を握り締めた。


 ――エルヴィーラがまだ戦うつもりなのだったとしても、それでも。

 俺はこれ以上、誇り高い彼女が、こんな風にいたぶられるのを、見たくはない。


 どうにかして、助けられないのか。

 愚直に昇級試験に挑もうとしている彼女を、極力邪魔することなく、その誇りを、生身の女の子として当然の尊厳を、守ることはできないのか――。


 そのとき、


 ――かさっ


 無意識に握り締めたローブの懐から、微かな物音が響いた。

 紙が擦れる音だ。


 俺はそれをなにげなくやり過ごそうとして――それからふと目を見開いた。

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