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23.#肥沃なる精神的土壌(2)

「かくかくしかじかで、みんなで昇級試験を受けることになったから。今日」

「はっ!?」


 どういうこった。

 目を丸くした俺に、アメリアが補足してくれたところではこうだ。


 いわく、冒険者の昇級のためには試験が必要で、その試験は大陸に散らばるどの国のギルドで受けてもよい。

 ただし、……残念なことに、ハーフエルフや獣人には、受験資格を認めないというギルドも多いらしい。


 そんな中、全種族に対して受験を認めている、有能と評判のギルドマスター――同時に、あまりの多忙ぶりに、めったにギルド本拠地にいないことで知られる人物――が、このたび外遊を終え、珍しく書類仕事をしに帰ってきたらしい。


 彼のもとでならば、少々訳ありなアメリアたちでも憂いなく試験に臨めるし、なにより合格した後、一気に彼との面会まで持ち込んでしまえる。

 ギルドの有力者の彼を通じてならば、信頼できる国のトップとも接触できるかもしれず、――つまり、一気に、俺の帰還の可能性は高まるということだった。


「冒険者の間では、トビアス・キストラーかツチノコか、って言われるくらい、滅多にギルドに顔を出さないギルマスでね。ここで会ったのは運命よ。折しも今日は月に一度の昇格試験日。これを逃せばエルたちは向こう一年は受験できそうにない。というわけで、受けるわよ。今日。いや、今!」

「それは……わかったけど、『みんな』? もしかして、俺も?」


 状況は理解したが、俺にも昇級試験の受験を求められているのだとしたら、困ってしまう。

 なにしろ、俺は自分がなんの職種に属するのかも把握していないし、それに試験となるとほら、やはり傾向と対策をきちんと練ってからでないと。


 心の準備が、とまごついていると、アメリアは「はん?」と怪訝な顔になった。


「なに言ってんの、あんたに昇級試験なんか受けさせるわけないじゃない。あんたは応援要員」

「……デスヨネー」


 ……ええ。

 彼女たちのなかで、俺が戦闘力としてカウントされていないことは、薄々理解していましたとも。


 理解してたけど……「みんな」の内訳に入れてくれねえのかよ。ハブかよ。

 切ない思いを噛み締めていると、マリーが苦笑いする気配がした。


「ターロさん。私たちがターロさんの力を認めてないっていうことじゃないんですよ。むしろ逆、すごく頼りにしてます。でも……昇格試験なんて目立つ場でスペルを使って、不用意に注目を集めたり、噂を立てられたりしてしまったら、大変なことになるでしょう?」

「う……」


 そうだった。


 普段この三人とばかりいっしょにいて、のびのびと行動しているものだからつい忘れがちになるけど、俺の正体が召喚された異世界人だとバレて、噂でも立とうものなら、俺は王様に殺されてしまうのかもしれないのだった。

 いやまあ、多少はスペルが使えるとなると、もしかしたら殺されはしないかもしれないが、いいように利用されるのは間違いない。


 今の俺には、信頼のできる国の権力者に出会うまで、都会に不慣れなジャルパ人、という設定で押し通すことが必要なのだ。


「エメラルド級の薬草にポーション。オンセンともつぁると牛は現地に残してきたから、今のところ公式の功績は二つだけだが、銅級でしかなかったパーティーが立て続けにこれだけの成果を出すというのは異様なことだ。我々は、勘のいいパーティーからはすでに目を付けられているし、――さらに勘のいい人物なら、おまえがキーパーソンだということにも、すぐに気付くはずだ」

「勘がよくて、道徳心もある人物なら問題ないですけど……そうじゃない人たちも、ギルドにはたくさんいますからね。変に目立って、噂ばかり先行するような事態は、一番ターロさんにとって避けるべきことでしょう?」


 エルヴィーラとマリーに重ねて言われ、こくこくと頷く。

 さらにはアメリアまでもが、


「いい、くれぐれもこれまでみたいに、うっかり無双するんじゃないわよ。試験場は、人目のない自由区とは違うんだからね?」


 腰に手を当てて、そんな釘を刺してきた。


「いや、そんな、無双って……」


 活躍できてたという認識なら嬉しいんだけど、果たしてあれらは無双などと呼んでもらえるような状況だったろうか。


 曖昧に笑っていると、三人が三人とも、「本当にわかってるのかこいつ」みたいな顔になって言い募ってきた。


「あんたね。大型魔獣をたった一言で無力化したり、エメラルド級の薬草やポーションをじゃんじゃん量産したり、牧畜水準に激震を走らせといて、なに言ってんの?」

「そうだ。しかも都度都度、こぶし大の源晶石まで獲得しておいて」

「いいですか、ターロさんは、スペル使いじゃなくて、一般人。ニホン人じゃなくて、ジャルパ人。その異様な器用さや、潔癖症も披露しちゃだめですからね」

「い、異様……」


 純粋に、日本人なら誰でもできることばかりだと思うんだが、この言われようはどうだろう。

 というか、自分としてはかなりこっちに適応しているつもりだったんだけど、三人からすれば、まだまだ俺は潔癖症っぽい扱いなのか。


 反論したい事柄はいくつかあったけれども、


「ね!?」


 三人から声を揃えて念押しされ、


「…………はい」


 俺はいい子のお返事をするにとどめたのであった。




***




 試験会場となるギルドは、これまでに立ち寄ったところよりもかなり規模が大きく、いくつかの建物から成っているようだった。

 日本の大学のキャンパスくらい、という感じだろうか。

 ちなみにイギリスの大学は、構内に平然と湖を擁していたりするから除外だ。


 なかでもひときわ大きく、コロシアム状になった石造りの建造物。

 そこが、昇級試験の会場であるらしい。


 試験でありながらも、剣士や魔術師たちが華々しく公式に闘う場というのは、いわば闘技という娯楽でもあるわけで、ギルドは試験を一般公開することでちゃっかり金儲けをしているようだ。

 昼下がりの観客席は、飲み物や食べ物を持ち込んだ観客でにぎわっていた。


「うお……すごい熱気……」


 念のためフードを目深にかぶって、こそこそと観客席のひとつに腰を下ろした俺は、周囲の熱狂ぶりにすっかり圧倒されてしまっていた。


 対戦表代わりなのか、席の壁には名前の書かれた木札が掛けられているのだが、アメリアの名前を見た観客たちは、先ほどから「おお」だとか声を上げている。

 どうやら、すでに一度ルビー級まで昇り詰めている彼女は、美少女剣士として名を馳せているらしい。


「アメリアってこんなに有名だったんだな……」

「ただでさえ女冒険者が少ない中で、いけすかない野郎どもをごぼう抜きしてのルビー級昇格だったからな」

「男性からの人気はもちろんですけど、その姿に憧れる、っていう女性のファンもいるんですよ」


 思わずつぶやけば、両脇を固めたマリーとエルヴィーラが返してくれる。

 彼女たちもまた試験を控えているわけだが、出番が来るまでは特にすることもないのでと、昼食を買って観戦モードになっていた。


 昇格試験は、試験官長となるギルドマスター監視のもと、等級の近い受験者がいれば対戦式で、いなければ、試験官の出す課題をこなすという形で行われるらしい。

 三人の場合だと、アメリアとエルヴィーラは対戦式、受験者の少ない鑑定士のマリーは課題式で執り行われるとのことだった。


「しかし……因縁だな」

「そうですね。あの男、ちょっとアメリアさんのストーカーじみたところがあったらしいですから、もしかしてこの受験登録を聞きつけて急遽登録したのかもしれませんよ」


 ふたりが剣呑な表情で見下ろす先。

 闘技上の舞台の真ん中には、筋骨隆々たる男が佇んでいる。


 名前はウッツ。

 構えているのは、アメリアの長剣が子どものおもちゃに見えてしまうくらいの、巨大な剣。


 聞けば、ルビー級のそこそこ名の知れた剣士で――かつて、サファイア級に足を掛けようとしたアメリアを襲って不祥事を起こさせ、ランクを引きずり落とした張本人らしい。


 遠目からでも眉を顰めたくなるような、嫌らしい笑みを浮かべ、向かい合うアメリアに何ごとか話しかけている。

 アメリアは無表情を保って、己の愛剣をただ撫でていたが、そのシチュエーションと、あまりの体格差に、見ていて不安になってきてしまった。


「アメリア……大丈夫かな……」


 あくまでも試験であるため、昇級は試合の勝敗に関わりなく判定されるのだという。

 だがそれは逆に言えば、勝利にこだわってスピーディーに決着させるのではなく、己の欲望のためにだらだらと相手をいたぶる可能性もあるということで……大人と子どもほどに体格の差があるふたりの間で、そんな見るに堪えない戦いが展開される可能性を思い浮かべ、つい眉を寄せてしまった。


 エルヴィーラも、白皙の美貌を少し心配そうに曇らせている。

 だが、一度アメリアの戦闘力を鑑定したマリーは、拳を胸の前できゅっと握り、自らに言い聞かせるようにして答えた。


「大丈夫です。オンセンで繰り返し身体を強化した今や、アメリアさんの戦闘力は、実質的にはサファイア級すら凌駕するほどですもん。あんな嫌味な男、きっと五分もせずにやっつけちゃいますよ」


 彼女はくるっと俺に向き直ると、励ますような笑みを浮かべた。


「オンセンの力を信じましょう、ターロさん!」


 いつの間にそんな温泉信者になったのマリー!?


 そうこうしている間に、アメリアとウッツの間に立っていたギルドマスターが片手を挙げる。


「それではこれより、ルビー級剣士、ウッツならびにアメリアの、サファイア級昇格を懸けた試合を開始する!」


 トビアスという名前であるらしい、狐顔の男性――思ったより若い――は、


「ついでにこの試合には、観客千人ほどの観戦料ならびに賭け金も懸かっているので、おおいに華々しく闘うように。――開始!」


 そんな言葉を言い添えて、勢いよく上げた手を振り下ろした。

 めちゃめちゃ商魂たくましい奴だなおい!


 トビアス氏がさっと後ろに退くのと同時に、ウッツが大剣を振り上げる。

 ごう、と風が唸る音とともに、巨大な凶刃が、細身のアメリアをめがけて勢いよく――振り落とされなかった!


「――えっ!?」


 思わずぽかんとする。

 が、次の瞬間、さらに目を見開くべき現象が起こった。


「――……っぁあああああああ!」


 まるで布を裂くような悲鳴を上げて、闘技場の床に倒れ込んだのである。

 ……ウッツが。


 そしてなぜか、股のあたりをかばうように、うずくまった状態で。


「――…………!?」


 なにが。

 いったいなにが起こったんだ。


 事態を把握できなかったのは周囲も同じらしく、みんなざわめきながらその場に立ち上がっている。

 闘技場に向かって戸惑いの視線を向ける俺たちをよそに、エルヴィーラは悠然と飲み物を啜りながら呟いた。


「峰打ちか……潰れたかもしれんな。懸念が現実となったか……哀れなやつ」

「切り取るのは躊躇われたんでしょうね。汚そうだし」


 マリーも神妙な表情で頷いている。

 文脈からアメリアの攻撃の正体を理解して、俺はさあっと血の気を引かせた。


 アメリア……。アメリア、それはおまえ……やっちゃだめなやつだろ……。


 心なしか、俺の股まで痛む気がしてきた。

 っていうかあれですか、さっきのエルヴィーラの心配顔は、ウッツに向けられたものだったのか。


 ふるふる青褪めて震えていると、横のマリーが、そっと俺の腕に手を掛けてきた。


「ターロさん、ごめんなさい。五分じゃなくて、五秒でしたね」


 てへって顔をするところじゃねえよマリー!


「以前のアメリアなら、さすがに数十分の死闘を要していただろうが……さすが、念入りに朝風呂に入りなおしていた甲斐があったというものだな。いやはやオンセンとはすさまじい」


 温泉を不老不死水(エリクサー)の泉かなにかと勘違いしてませんかエルヴィーラ!

 俺が思わず突っ込むと、エルヴィーラは長い睫毛を瞬かせた。


「うん? 我々にとっては似たようなものだが。言っただろう、あのオンセンに浸かると、それだけで身体が回復し、強くなれると」

「そんな物理的に効果のあるもんだったのアレ!?」

「えっ、私、あのときに言ったじゃないですか! ものすごい癒しの効果がありますよ、滋養強壮にすごく効きますよって!」


 横ではマリーまでもがそんなことを言ってくる。

 たしかにそれは聞いたけど……温泉だからそれはそうだろうと、半ば聞き流してたんだ。

 まさかこんなに、物理的に、かつすさまじい滋養強壮効果があるだなんて思いもしなかったんだよ。


「いや……温泉っていうのはさ……そんなドーピングまがいの激現象を引き起こすマジックアイテムじゃなくてさ……もっとこう、老若男女が日常的に楽しむさ、穏やかな――」

「なんと。ニホンでは老いも若きもが、日常的に身体を強化しているというのか? なんという戦闘民族だ……」

「地震という脅威に対抗するために、身体が要請した進化なのかもしれませんね……」


 ふたりの中では、日本人が筋骨隆々の戦闘民族と化しつつあるようだった。


「いや、ちげえよ? その想像ちげえよ!? そうじゃなくて――」


 俺が誤解を解こうとするその間にも、アメリアはトビアスから試合終了の判定をもぎ取ると――だってこれ以上、ウッツにどう戦えというのだ――、さっさと舞台から引っ込んでしまう。

 それを見たエルヴィーラたちは、すっとその場に立ち上がった。


「さて、我々も行くとするか」

「そうですね。アメリアさんの瞬殺のせいで、お昼があまりゆっくり食べられなかったのが残念ですけど」


 そうして、「それじゃあ、行ってきます!」と爽やかに去ってしまうではないか。

 俺は「え、え」と心身ともにすっかり取り残された状態でそれを見送り――そしてわずか数十分後、マリーの試験を見守ることになる。


「それではこれより、シルバー級鑑定士マリーの、真珠級昇格を懸けた課題を開始する! 受験者マリーは、試験官アルバンの用意した三つの品について鑑定を行い、真贋を述べること」


 舞台上では、トビアスが先ほど同様試験開始の合図を告げる。

 が、アメリアのときとは異なり、舞台には対戦相手ではなく、アルバンなる男とともに、簡素な机と、壺や書物、薬草が二つずつ用意されていた。


 あまり華やかな試験ではないと踏んだのか、観客たちが手洗いを済ませたり、昼食を取るために席を立ちはじめる。

 空いた前方の席に駆け下り、近くからマリーを応援しようとした俺だったが、そのとき不意にアルバンのだみ声が飛び込んできて、目を見張った。


「ふん、獣人ごときが昇格だと? 身の程知らずめ」


 でっぷりと太り、豊かな髪を大量のポマードで固めた試験官は、侮蔑の色を隠しもせずに、そんなことを言い放ったのだ。

 あげく、彼はローブをかぶったマリーの顔を覗き込むと――獣人という身の上に配慮したのか、試験が始まったときから彼女は大きめのローブで耳や尻尾を隠していた――、いやらしい笑みを浮かべた。


「なかなか愛らしい顔をしているじゃないか。どうせ鑑定物を嗅いでまわるしか能がないのなら、私の香水の匂いでも嗅がせてやろうか? むろん、寝台でな」


 ひどい侮辱だ。

 俺はかっとなったが、周囲は「なんだ獣人か」といった表情で、むしろアルバンの側に回るかのような視線を向けている。


 それでますます調子に乗ったらしいアルバンは、再び下品な口を開き、


「さっさと鑑定したらどうだ。まあ、無理だろうな? 野草でも食んで過ごしてきた狐には、真珠級の薬草など目にする機会すら――」

「シルバー級です」


 凛としたマリーの声に遮られた。

 言葉尻を奪われ、一瞬きょとんとしたアルバンに、マリーははきはきとした口調で畳みかける。


「ここにある二つの『薬草』のうち、左は雑草であるセイラグ草を、薬草に似せて加工したもの。ただし右も、真珠級の薬草であるロクサネロ草の生育過程で『間引き』された残り――つまり、効果としてはシルバー級のものです。その証拠に、この薬草の回復力は、真珠級の基準値100を下回る89しかない」

「な…………っ!?」


 ぎょっとするアルバンの前で、マリーがすいと手をかざすと、たちまち薬草の周りからふわりと光の文字が立ち上り、漂いはじめる。


 ロクサネロ草 (二級品)  回復 力  8   9   ……


 とても手品の類ではありえない、神聖な光の文字を目の当たりにして、席を立ちかけていた観客たちがどよめいた。


「鑑定証明……!」


 アルバンも驚愕に目を見開いている。

 が、マリーは次に壺を取り上げると、淡々と鑑定を続けた。


「壺は、左のものが、魔物の臓腑を練り込んだ土で作ったもので、黒魔力15。魔力量としてはわずかですが、所持していると不運が続くレベルですね。右は魔力こそ帯びていませんが――でも、相当年代物のようです。あえて対称性を崩した、不均衡ながらも視線を引き付けるフォルム。釉薬の重なりまで計算しつくされた彩色。推定製作時期1422年、おそらくはグナイスト工房の代表的陶芸作家、ゲーラ―の手によるものでしょう」


 ……なんだか、「いい仕事してますねえ」みたいな展開が繰り広げられている……!


 観客たちも、試験を見守るのとはまた異なる緊張で手に汗を握りながら、マリーにくぎ付けになっている。

 それでも彼女は気にする素振りを見せず、書物についても切れ味のよい鑑定をこなすと、最後ににこりと笑みを浮かべて試験官に向き直った。


「以上です」

「な……な、な……」


 アルバンは完全に呑まれ、口をぱくぱくとしている。

 シルバー級の薬草を「真珠級」だなんて称していたところを見るに、きっと能力的には、マリーのほうが上回っているのだろう。

 そして彼は、その事実が受け入れられないでいるようだった。


「おまえ……いったい……!」


 アルバンが信じられないものを見るような目を向けると、マリーは「あ」というように口に手を当てる。

 それから彼女は、ちょっと照れたように付け足した。


「すみません、『真贋を述べる』試験ですもん、詳細はいらなかったですよね。ただ、ご覧の通りの鑑定結果だったので、なにを以って『本物』『偽物』とすべきか悩んでしまって……」

「な…………」

「あ、でも、今この場に、明確に『偽物』だと判じられるものもありますよ」


 呆然としている試験官に、マリーはすっと指を突きつける。

 そして観客席に向かって、大きな声を張り上げた。


「この髪、『偽物』です!」

「…………っ!」


 絶句するアルバンと裏腹に、観客席がどっと沸き立つ。

 拍手や口笛を背後に聴きながら、マリーは優雅にローブを捌いてお辞儀した。


「失礼しました、高級なロクサネロ草は、回復薬であると同時に、向精神性を持つ薬草。下賤なる獣人が嗅ぐと、いささか興奮してしまうものなので。――酔った末の所業ということで、ご容赦くださいませね」


 それから、振り向きもせずに舞台を去っていった。

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