突然ですが、体重にまつわる不可解な事象が発生したそうです
突然ですが、体重にまつわる不可解な事象が発生したそうです。
……なんて言われても意味が分からないかと思いますが、はい、まぁ、僕もその言葉の意味が分かりませんでした。事の起こりは、今から十数分前、隣の部屋から聞こえて来た「ギャーッ!」というまるで楳図かず○の漫画に出てきそうな悲鳴です。
僕はアパートで一人暮らしをしているのですが、隣の部屋には妙齢の女性が住んでいたりします。それで楳図かず○漫画な悲鳴ですから、当然それは部屋に上がり込むチャンスな訳で、なんとも羨ましがられそうなシチュエーションだと思う読者諸兄も多いかとは思いますが、実を言うのならこれがそんなに羨ましがられるようなもんでもなくて、実際僕はその悲鳴を無視しようかと少しばかり悩んだくらいです。
ええ、まぁ、その女性は少しばかり厄介な人なものですから。
どう厄介なのかはかなり説明が難しくもあるのですが、困難を承知で敢えて挑んでみると、宝くじで大金当たってお祝いのパーティで盛大に金を使って却って借金を背負うとか、そんな感じの人なのです。ちっとも伝わった気がしませんが、少しは伝わったでしょうか?
とにかく、どうしようかと悩んだのですが、何しろ楳図かず○漫画な悲鳴です。部屋にヘビ女かなんかが出ていたら一大事なので放置する訳にもいかず、ゴキブリが出た程度だったら良いななどと願いつつ、もし仮にヘビ女が出現していたら既に丸のみにされているんじゃないかってな遅すぎるタイミングで、僕は隣の部屋のドアをノックしたのでした。
「どうしました? 何かありましたか?」
って。
ところが、それに彼女は何も返さないのですよ。半ば楳図かず○漫画な悲鳴に対するただの社交辞令で彼女の部屋を訪ねた僕は、そこで初めて危機感を覚えました。もし、本当に何かに襲われていたらどうしよう? 仮にヘビ女に丸のみにされていたとしたら、どう助ければいいのだろう?
それで慌ててドアを開けたのです。不用心にもドアにカギはかかっていませんでした。まぁ、そういう人なのでこれは予想通りです。ドアを開けるなり彼女は見つかりました。風呂場の近くで、後ろ姿でうずくまって何やら考え込んでいます。しかも下着姿で。
おお、これはラッキー。
なんて僕は思います。黙っていれば普通の女性なので、そういう光景はそれなりに眼福なのです。でもって、どうやら彼女は無事そうでもありました。ヘビ女の姿も見えません。そっちからまずは告げるべきでしたかね?
とにかく、その姿を認めると「どうかしたのですか?」と、再び僕は話しかけたのです。すると彼女は、クルッと振り向くなり「ギャーッ!」と、また楳図かず○漫画な悲鳴を上げました。表情もそんな感じです。因みに僕の背後にヘビ女が出たとかでは決してありません。
そして、それから彼女は「見るなー!」と声を上げつつ洗面器・他諸々を次々と投げつけて来たのです。その洗面器・他諸々を次々と頭部等々にくらいまくった僕は、それから這う這うの体で彼女の部屋から逃げ出しました。別に這っちゃいませんがね。確かに僕が悪いと言われれば、否定し切れなくもないシチュエーションではありますが、僕だって入る前に声をかけたのだし、そもそも彼女を心配してドアを開けたのだし、ちょっとばかりその仕打ちを理不尽だと憤りもしましたが、抗議をしたならしたで却って面倒な事になりそう雰囲気がプンプンしていたので、僕はそのままそれを放っておくことにしました。ところがどっこい、彼女の方がそれでは済ましてはくれなかったのでした。
「ちょっと、入れなさいよ」
と、数分後、そんな声が僕の部屋のドアの向こうから聞こえて来たのです。彼女の声です。ヘビ女の声じゃありません。
「何?」
と、嫌だなぁと思いつつ、僕はドアを開けました。すると、ホットパンツに大きめのTシャツというさっきとあまり変わらないのじゃないかと思えるような格好の彼女がいたのです。こんな格好で人前に出られるのなら、あの程度であんなに怒らないで欲しいものだ、なんて思っていたら、彼女は勝手にズカズカと入って来て「見た?」とそう訊いてくるのでした。
見たと言えば見ましたが。
それで僕は「少しは」と、そう返します。そして、その後で弁明も忘れちゃいけないとばかりに「でも、今のその姿とそんなに変わらないじゃない」とそう続けました。ホットパンツだとちょっとあれなので、大きめのTシャツを眺めながら。
「何の話よ?」と、それに彼女。
「何の話なの?」と、それに僕。
下着姿を見られたって話じゃないのでしょうか?
「とにかく、わたしの腹回りを見たってワケじゃないのね?」
なんて彼女は続けます。腹回り?ぶっちゃけ覚えていません。そのもうちょっと下辺りに注目をしていたものですから。
「見てないけど?」
と、僕が答えると、彼女は「そう。それならよし」とそう言います。何が“よし”なのでしょう? 「ところで」と、それから彼女はまた口を開きました。
「体重にまつわる不可解な事象が発生したのよ」
はい。
ここで冒頭に戻るのですがね。
先に述べた通り、僕はそう言われても意味が分かりませんでした。それで僕は精一杯に“意味が分からないぜ、ドララ~”とそう目で訴えたのですが、それを無視して彼女は続けるのです。
「当にミステリー。怪奇現象。妖怪探偵団なあなたの出番ってワケよ」
「妖怪探偵団なんて初めて言われたけど?」
「聞きなさい」
「聞かなくちゃ駄目なの?」
「わたしはね」と、それから彼女。
「……何も意味もなく、楳図かず○の漫画に出てくるような悲鳴を発したワケじゃないのよ」
どうやら彼女にも楳図かず○漫画の悲鳴だって自覚があったようです。それから彼女は何があったのかを説明し始めました。
「ほら、わたしってばスレンダーな体型が売りでしょう?」
「知らないけど」
「聞きなさい。
それで、今から数か月前の事。私は食事制限ダイエットをする決心をしたのよ。スレンダーな体型を維持する為に。でも、甘いものを我慢するのは嫌じゃない?」
「わがままだね」
「聞きなさい。
だからわたしは、糖質ゼロな食品に注目してそればかり食べるようにしたのよ。人工甘味料とかいーうの。分かるでしょう?」
「まぁ、分かるけど」
「結果は上々だったわ。体重が減った。それでもう良いだろうと思って、炭水化物も普通の甘いものもまた食べ始めたの。米って美味しい! ああ、日本に生まれて良かった! アイラブコメ!」
「うん。良かったね。で、それでどうしたの?」
「そうしたら、体重が瞬く間に増えたのよ。そればかりか、前以上になっちゃったの! 断っておくけど、食べたって言っても前よりも随分と減らしているのよ? 何よ、この怪現象は!」
それを聞くと、僕は腕組みをしました。
「はぁ、なるほどねぇ」
と、そう言いうとこう続けます。
「それ、典型的なリバウンドじゃない?」
それから僕はノートパソコンの電源を入れました。検索エンジンで“耐糖能”と入力して検索実行。一瞬で一覧が表示されます。その中の良さげなのをクリック。
「何しているの?」と彼女。僕は淡々と説明をします。
「ほら、ここに書いてある。人間の身体ってよく出て来ていてさ、糖質を長く摂取しないでいると、いざ糖質を取った時にそれを体脂肪にしてたくさん蓄えようとしちゃうらしいんだよね」
と、そのページの内容を見ながら僕はそう説明しました。
「どーゆー事?」と、彼女。
「いや、だから、君は糖質をずっと取らないでいたのでしょう? だから、それで糖を吸収し蓄えやすい状態になってしまっていた。つまり、肥りやすい状態ってことだね。でもって、そんな状態のところに、ある日突然糖質を取り始めたもんだから、その糖を脂肪として蓄えて太った。つまりはそーいう事なんじゃないの?」
それを聞くなり彼女は叫びました。「ヒーッ」と。今度は伊藤潤○の漫画に出てきそうな悲鳴でした。違いを説明しろと言われても分かりません。
「なによ、その甘い罠わー!(糖質だけに) わたしは、わたしは一体どうすれば良いのぉぉ?」
と、伊藤潤○漫画チックに狼狽える彼女。それに僕は淡々と言いました。
「いや、普通に地道な運動中心のダイエットにすれば良いのじゃない?」
もっとも、彼女はそんなに太っているようには僕には思えませんでしたが。太ってもいないのに痩せようとがんばる感じの方が、どちらかと言うとホラーかも……
昔、ネット上で一日一膳ダイエットをやっている人がいました。それからしばらくして会う機会があったのですが、肥えていました。やっぱり、そーいうダイエットは、逆効果みたいです。
因みに、最近じゃ、リバウンドは腸内細菌が深く関わっているなんて言われています。
まぁ、リバウンドだけじゃなく、肥る全般ですがね。
「腸内細菌 ダイエット」で検索すれば出てきますよ。