番外編 異世界に召喚される以前の悠の日常Part7
そろそろ番外編を全消去し、
新たに番外編。
として小説を作ろうかと思います(^^;
見辛いってメッセが多く飛んできてたので……
恐らく遅くて来週。
早くて今週中に番外編のみの構成の拙作を投下致します(´ー`*)
「はぁぁー。なぁ、彰斗」
名残惜しそうに窓越しで手を振っていた悠が唐突に話を振る。
悠達の学校は紅奈が下車する場所よりも5駅先にある為、彼女は一足先に電車を降りていたのだ。
「なんだぁ? 悠」
訳知り顔で彰斗は返事をする。
かれこれこの下り、3桁にのぼる程に彼は経験をしていた。その為、次に悠が言いそうな言葉を大体ではあるが分かっているのだ。
「俺ってさ……イトコンだよな……」
まーた言ってるよ……コイツ。と言わんばかりに呆れてみせながら、
「なに、今更な事言ってんだ。言われなくても知ってるっつーの。それよりも、文化祭……近いよな」
「……俺さ。そろそろ紅奈離れをするべきだと思うんだ……」
「お前らさ! 俺の話聞く気あんの!? ねぇよな!? ねぇなら聞くなよカス!」
彰斗が憤慨する中、見事買収されていた静香はスポーツ誌を読んでいた。
静香は前々から既に紅奈の従順な犬っころ。毛ほども頼りになんてしてはいない。
「すまん、すまん彰斗。でさ、俺らの学校……文化祭といえば、アレがあるだろ?」
「アレ? ……あぁ、文化祭に告った男女は必ずカップルになるってヤツか」
悠が持ち出した話は彼らが通う学校の文化祭が近づくと、いつも話題になる定番の話だ。
女子生徒達が好みそうなモノであるが、実はこの話。静香が広めた、などと影で噂されていたりする。
かれこれ悠、彰斗、静香の3人で行動を始めて随分と時間が経ってはいるものの、静香の頭の中身だけは謎が深まるばかりであった。
「俺は……そこで絶対、彼女を作ってやるぜ……」
何やら文化祭2年目にして、やる気で満ちていた悠であったが、彰斗には未来が透けるようにして見えていた。
なにせ高校1年の頃の文化祭では、最初から最後まで勿論の如く悠の隣には紅奈がひっついていたのだ。そりゃ、彼女なんて一向に出来ないというモノ。
彼女持ちに誰が告るんだよボケ! と突っ込んでやりたかったが、無意味だと分かっているのでそこは安定のスルー。
「……ま、頑張れよ」
100%悠に彼女なんて出来ないと確信しながらも握りこぶしを作る彼に小さなエールをおくる苦労人、彰斗であった。
曙光が照りつける中、行われる朝礼。
通勤ラッシュから解放された悠達は臨時朝礼に学校に着いて早々、招集されていた。
「だ、だりぃ……何で講堂に集めて朝礼すんだよ……」
「全員同じなんだし、文句言ってもしょうがねぇだろ……お前も少しは静香を見習ったらどうだ? 立ち寝だぞ、立ち寝。いつも思うが、無駄にスペック高いよな静香」
眠気を誘う校長先生による有難いお言葉を聞き流しながら文句を垂れる悠を彰斗が咎める。
船を漕いでいる静香は爆睡しており、ちょっとやそっとでは起きそうに無かったのだが、
「久保田君! 何で君は毎度のように寝るのかなぁ!?」
彼らが担任、結月未希ことミキティーから1発ゲンコツを与えられ、叱咤される羽目になっていた。
「げ! 何でミキティー俺が寝てる事を知ってるんですか!? 今日こそは全寝してやろうと真ん中の位置を陣取ってた筈なのに!」
「……君をマークしてるからに決まってるでしょうがああぁぁぁ!!」
「せ、生徒指導室だけは! 生徒指導室だけは勘弁して下さい! あの頑固ジジイの話は長いんですって! 悠! 彰斗! 助けてくれ! たす……嫌だあああぁぁぁ!!」
事なかれ主義の校長は文化祭での諸注意を何も無かったかのように続けて言い放つが、先程のシュールな光景を前に、生徒達は
今日もすげぇな……などと感嘆しており、駄弁っていた生徒達も口を閉ざしていた。
「……もう完全に見慣れた光景だが、いつもながらすげぇな」
「静香も懲りないよねぇ……アイツ、昨日の午前2時までゲームにinしてたし眠かったんだろうさ。……生徒指導室を経てまた会おうぜ! 友よ!」
他人不幸は蜜の味。
美味しく蜜を頂きながら悠はサムズアップをする。
生徒指導担当教師に、こってり絞られ、3時限目開始のチャイムまで静香が帰ってくる事は……なかった。
「えーっと、文化祭で何をやるか。誰か意見とかある?」
黒色のホワイトボードマーカーを片手に白板へ文字を走らせ、後ろ頭を掻きながら悠や彰斗が在籍するクラスの生徒の注目を集めていたのは鳥海真由香。
主に文化祭を仕切る役目を負った文化委員の1人だ。
学級委員然り、風紀委員然り。
委員会とは1クラスにつき、男女1人ずつ選出する事になっていた。
ちなみに鳥海の相方となる文化委員の男子生徒は現在進行形で生徒指導室にて、有難い為になるお説教をくらっている静香だ。
悠は風紀委員。
そして彰斗は美化委員。
一見、適当に決まったと思えるが彰斗と静香はどちらかが絶対に文化委員にならなければいけない理由があった為、静香が犠牲となっていたのだ。
「やはり、文化祭と言えばメイド喫茶だろう。男子諸君、ここは一致団結して日本の闇、民主主義ならではの多数決にてメイド喫茶を勝ち取ろうではないか!」
椅子からガタンッと音を立てながら紅山稔が立ち上がる。
リア王という異名を持つ彼はクラスカーストで言えば頂点に君臨するものの、かなり敵が多い。
しかし、メイド喫茶という最強のカードを初っ端から切ってきた為、クラスの男子共の心情が揺れ動く。
だが、そんな状況を良しとしない男子が1人。
「……チッ、早く静香帰って来い……なんの為に文化委員やってんだ。こんな時の為だろうが馬鹿野郎!」
貧乏揺すりをしながら左の人差し指で忙しなく机を叩く彰斗であった。
普段ならばクラスの行事程度。
と鼻で笑ってみせるところだが、文化祭となれば話は別。
心の底からどうでも良いと思う感情はすっかり、彰斗の中でなりを潜めていた。
「おい、悠。てめーも命が大事ならメイド喫茶を何が何でも却下に持ち込め!」
独り言と思しき声量にて、周りの話し合いに邪魔にならないよう悠に話し掛けるが
「んー? 何でメイド喫茶が駄目なんだ?」
机の下でスマートフォンをピコピコ弄る悠は怪訝に首を傾げてみせる。
こ、こいつ。俺の苦労も知らずに……
と、普通ならば激情して可笑しくないところであるが、生憎と彰斗はそこまで馬鹿ではない。
「……紅奈さんか?」
「お、よく分かったなぁ。さては覗いたな?」
「毎日、毎日飽きずに連絡取ってるだろうが。流石に分かる」
悠の従姉である紅奈が彼を溺愛している事を彰斗は知っている。
知っている故に、悠と紅奈のやり取りを邪魔すれば己に火の粉が飛んでくる事は容易に想像が出来るのだ。
アニメなどでヤンデレを見たオタク達は「俺たちもヤンデレな姉妹とか欲しかったよな」などと呟いたりしているが、彰斗はそう思った事は一度もない。
最近では、ヤンデレと聞くだけでゾクリと悪寒が背筋を刺す程である。
「それにしても、お前ってさ……もう病気のレベルだよな」
「唐突にどうしたよ、彰斗らしくない」
「悠って紅奈さんといつ籍を入れんの?」
机を叩くのを止める。
左手で頬杖を突きながら右隣の席に座り、手慣れた手つきでスマートフォンを操作し続ける悠に彰斗は投げかけた。
「籍を入れんの? って聞かれても俺と紅奈は家族だぞ? 紅奈の事は確かに大好きだがそれはあくまでも家族として、だなぁ……」
溜息まじりに苦笑いを浮かべる悠を横目に、彰斗のこめかみに青筋が浮かぶ。
瞳は黒い感情を湛えており、
「はぁ……」
深い溜息と共に彰斗の右腕が悠の使う机の中に伸びた。
そして、一冊のブックカバーが施された小説を取り出す。
「おい、悠。じゃあこの『俺の従姉が可愛過ぎて困る件について』ってラノベはどう説明するんだ? 言ってみろよ」
日頃のたまりに溜まった鬱憤を晴らすように問いかける。
悠が紅奈にばれないようにと趣向を凝らして隠し通す嗜好品の1つ。
通称“俺イト”と呼ばれるライトノベルだ。
な、何故その本の存在を!?
と言わんばかりに青ざめる悠であったが、一拍ほど間を空けた後に口を開いた。
「……断然、紅奈の方が可愛かった」
「よし、分かった。焼却炉に今から燃やしてくるわ。おーい! 鳥海ぃ! 俺、ちと保健室行ってくるわ。センセーでも来たらそう伝えといてくれ」
一冊のライトノベルを片手に彰斗は立ち上がり、仕切っていた鳥海に教室を後にする旨を伝えてドアへと向かう。
「あっ、ちょ、待って彰斗!! 言う事聞く! 言う事聞くから燃やさないでッ! まだ全部読めてないんだってばあぁぁぁぁあ!!」