7話 出会い
カミサマによって転移させられた悠は、気がつくと西洋風の大広間に立ち尽くしていた。
それはまさに、昔、世界史の資料集に鼻毛を生やしたりと盛大に落書きを施した“なんとか7世”みたいな感じの王様がふんぞり返っていた部屋そっくりだった。
「……やっべ……異世界にハンバーガー売ってっかな……」
異世界に召喚され、開口一番の悠のセリフは何とも緊張感を感じさせないものであった。
日々、色褪せた毎日をだらだらと送っていた彼にとってはハンバーガーセットギャンブルが一番の楽しみであったが為にそんな心配事を口にしていた。
「おい、もっと他に言うべき事があるだろうが……」
呆れ混じりに悠に向かって言葉を言い放ったのは最近、ハンバーガーセットギャンブルで負けが込んでいた桜井彰斗だ。
転移の光に包まれた直後、まるで全員が同じタイミングで召喚された形となっていた。
カミサマとの会話が間にあったにも拘わらず、タイムラグ0の現状に驚いていたものの、事前にカミサマから説明があったので「何が起こったんだ!?」等とわめき散らす事もないのだ。
その上、学校での座席の丁度後ろがリア充共だった事あって培われていた周囲の会話スルースキル[レベルマックス]によってこれ以上なく冷静に淡々と彰斗と悠は会話していた。
「他か……出来れば美人な王女様でありますように……とか?」
「おっ、悠もたまには良い事を言うじゃねーか。そうとも、美人な王女を俺が上手くたらしこみ、そこから始まる俺のリア充ライフ!! 50歳までの人生計画は今、立て終わったわ」
「……クズだな」
「お前にだけは言われたくねーよ!!」
適当に思い浮かんだ事を口にするが、これが意外とビンゴだったらしく彰斗は得意気な顔で淡々とクズ思考を述べていく。
このまま放置するとマジで50歳までの人生計画を語りかねない。
そう判断した悠は蔑むような眼差しを向けながら盛大にブーメランを決めていた。
「それにしてもよ……普通、「や、やったぞ! 勇者召喚成功だ!! これでこの国も安泰だ!」ってモブ共が叫ぶなりしてからの……「ゆ、勇者様方。お願いします! 私のこの体を好きにして貰っていいので、どうか私共をお助けください!」ってセリフを言われる筈だろ?」
「……なぁ、彰斗。それ、ツッコミ待ちなのか? ……まぁ、それはさておき……俺ら以外誰も居ねぇな」
演劇魂でも急に燃え上がったのか、彰斗はアルトボイスでどこぞのオッサンのような声を出した直後、吐き気を催してしまう程にキモく甲高い裏声で、キャピキャピと空想上に存在する王女の真似を都合の良いセリフに変えながら言い放つ。
ぼーっと突っ立っていた悠であったが、今一度周囲を見回し、目に飛び込んできたのは華美な装飾が施された中世の西洋のような大広間と担任である結月未希ことミキティーやクラスメイトの面々。そして妄想の激しい彰斗だけであった。
床へと視線を移せば何やら召喚の際に使われたであろう青く描かれた円形状の魔法陣が存在するだけ。
要するに、悠達を召喚した人間が居ないのだ。
だが、そんな事を考える時間も束の間。
悠達が召喚されて数分後、大広間に唯一存在した幅が4m程の無駄に大きな扉がガチャリ、と音を立たせながら開かれた。
「ねぇ、本当に勇者様方はここにいらっしゃるの?」
「文献によれば間違いない筈です。私共が王家に代々伝わるあの召喚部屋に立ち入った状態では不具合が起こった、という言い伝えもありますし、前々からご説明した通り遠隔地からの召喚でなければ……」
白銀のティアラを頭に乗せ、純白のドレスを身に纏った金髪碧眼のいかにも西洋。
といった特徴を持った端正な容姿の少女は騎士甲冑に身を包んだ女性に向かって険しい表情を向けながら部屋へと足を踏み入れていた。