6話 漸く
「……倍プッシュだぁ?」
「あぁ、そうだ。今手にしたスキルを使って更にスキルの量を「駄目だ」……へ?」
例え高校生だと言っても心は一端のギャンブラーな悠はスキルを賭けてもう一戦。
と、提案するがそれはあっさりと却下された。
「勝負をする以前に言っただろう? 後がつっかえている、と。これでも結構忙しい身でな。もし、どうしても勝負がしたいのなら君がスキルを選ぶ為に確保していた時間を充てる事になるがどうする?」
カミサマは右手をぷらぷらと振りながら悠の様子を窺っていた。
要するに、もう一戦するのならスキルを選ぶ時間がないので自分で選ぶ権利が消えるぞ?
という事だろう。
それを数十秒かけて理解した悠は、何故か得意気にふふん、と鼻息を振り撒きながら
「そりゃ勿論……
————倍プッシュ発言取り消しで!」
先刻まで頭の中を支配していたギャンブラー魂はどこへ行ったのか。
自由に選べる5つのスキルとランダムで選ばれる10個のスキル。
どちらがよりお得か、というのを瞬時に見極めた悠は一瞬の躊躇いもなく、発言を取り消していた。
勝負に勝つ前提で話を進めていたのは根っからのクズにのみ、なせる技だろう。
「……くくっ、そうか。そうか。なら、スキルを早く選べ」
口角を吊り上げながらパチン、と右手で指を鳴らす。
直後、膨大な数のスキル……というよりも最早、文字の羅列が部屋全体を支配した。
一応、魔法なら魔法。
体術は体術と項目別で分けられていたものの、それでも部屋を支配した文字の羅列の量は計り知れない。
「……多すぎだろ」
つい、そんな言葉が洩れるがカミサマは悠の呟きに反応する事なく、ニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべながら動向を眺めているだけだ。
恐らく、スキル選びに関しては一切口を出すつもりが無いのだろう。
一応、平等という言葉に重きを置いているらしいカミサマに
一番便利なスキルは?
等と聞いてもまともな返答を貰えないだろうな。
と思いながら、悠は細分化された項目の1つ、1つに目を通していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それじゃ、これと……これと……あとこれと、あれと……あれだ」
一体、何分……いや、何時間も時間を掛けてスキル選びに熱を入れていた悠は、やっと決まったのか、床や天井。そして壁等に存在していたスキルを指差しながらカミサマに伝えていた。
「……へぇ……まぁ、俺からは何も言うつもりは無いが……悪くはないと思うぞ」
「そりゃ、どーも」
腕を組ながら未だに胡座をかいていたカミサマに悪くはない、という評価を頂いた悠は反射的に軽く会釈する。
「んじゃ、結構時間が掛かったが転移させるぞ……ま、今度ポーカーをやる時はお互いイカサマ無しでやろうや」
口角を上げ、カミサマは勝負の際に見せていたカードを悠に見せつけながら転移をさせようと行動に移す。
カミサマが手にしていたカードをよく、よく見てみるとまるで幻覚でも見せられていたかのように4枚の10のカードが4や、3といったカードへと変化していった。
「なっ!?」
「スキルは久々に楽しませて貰った駄賃だ。俺の前で堂々とイカサマをする度胸は認めるが、相手は選べよ?」
まさかの告白に悠は開いた口が塞がらなくなっていたが、そんな事はどこ吹く風だ。
と言わんばかりに悠は転移する光に包まれ、姿を消していた。