5話 倍プッシュ
「おりゃあああぁぁ!! エースのフォーカードだ! スキルは頂いたああぁ!!」
威勢良くそう叫ぶと同時に悠は手札にあった5枚を柄が見えるように地面へと叩きつけた。
イカサマをしていた彼の表情端々には隠しきれぬ下卑た笑みが浮かんでおり、傍から見れば完全に悠が悪役だろう。
トランプをシャッフルする役を配る役と兼任していた悠はどんな事が起ころうとストレートが出ず、かつ、同じ数字が続かないようにシャッフルした筈だったが
「くくっ、良い役のところ悪いな。俺もフォーカードだ」
憎たらしい程に晴れやかな笑みを浮かべるカミサマのカードは
10のハート
10のスペード
10のクラブ
10のダイヤ
そしてハートの2だった。
恐らく目の前に居るルールを覚えたてのカミサマは知らないのだろう。
役は同格であるが、勝負では負けているという事を。
だが、勝負では勝ったものの、どうにも消しきれない愁いが頭の中を渦巻いていた。
(……嘘だろっ!? ちゃんとフォーカードとストレートは絶対に来ないように仕込んでおいた筈なんだが……あり得ねぇ……)
実はこの根っからのクズこと宮西悠はあろう事か、デックにまで仕掛けを施していたのだ。
その為、100%勝負が始まる前から決まっていたというのにギリギリの勝利。という事に止めどなく考えれば考える程に疑問が湧いてしまっていた。
「なぁ、役が同じだとどうなるんだ? 引き分けか?」
神聖なる勝負にイカサマが使われていた事を全く知らないカミサマは首を傾げながら尋ねてくる。
絶世の美人。や、可愛い幼女。といった思春期の男子高校生が思い浮かべそうな女神がすると先程の30程のオッサンカミサマの行為も可愛い。と思えるが、髭を生やしたオッサンがやると誰得なんだよ……。と突っ込んでしまいたくなるものだ。
その為、あまり見たくもない仕草を目にした事によって悠の吐き気ゲージが少々だが、確実に上昇していた。
「役が同じ場合は、役を作ったカードを比べるんだ。2が最弱でエースが最強。よって俺の勝ちだ。何なら調べてもらっても構わない」
手札をメンコでもやるかのようにパシィ、と地面に叩きつけていた時のふざけた雰囲気はすっかりなりを潜めており、真剣な表情にて言い放っていた。
「……あー、本当のようだな……俺の負けか……約束は約束だ。それじゃ、スキルの用意をするぞ」
てっきり、イカサマチェックでも入るかと思っていたが拍子抜けする程にあっさりと自分負けを認めたカミサマを唖然と見詰めていたが何故か悠の頭には先週、彰斗が言い放ったとあるセリフが頭の中で反響していた。
————ふふふ、今回の賭けは俺の勝ちのようだな。だが、今日の俺は一味違うぜ? ……このハンバーガーセットの権利を使って……
倍プッシュだ!!
悠と彰斗の賭けは通常、ハンバーガーセットを奢るだけだったのだが、彰斗が提案してきたのは1000円のハンバーガーセットを奢ってもらう権利を手にした今、その権利を上乗せしてのもう一戦。
勝てば2000円のトンカツ定食。
負ければ先程の白星はなかった事になる。という勝負だった。
結局、欲を出した彰斗は無残に散ったが、悠は何故かその出来事を思い出していた。
「いいや、まだスキルは選ばない。手にした5つのスキルを使って……
————倍プッシュだ!!」