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作戦開始・後

本日は連投しております。

ご迷惑をお掛けいたしますが「第92話 シャルルロアの戦い・前」からお読みください。




「貴様も化け物か!」


 吼える教皇ゼギウスの背後には『支配の王杯』があった。

 最優先事項はその奪還にある。


 俺は神殿騎士が一時的にしろ行動不能となったことを確認し、『支配の王杯』へと駆け寄る。

 こちらの様子を見ていた教皇ゼギウスは俺の前に立ちはだかることなく、再び倒れた少女の元へ駆け込む。


 あれほどの力を持つ『支配の王杯』に目もくれず少女の元へと向かうその行為に、俺は胸騒ぎを覚えた。

『支配の王杯』の力を行使し隷属魔法を使うには心の臓が必要だ。

 逆に言えば、『支配の王杯』を奪取してしまえばその少女に用はない。


 ないはずだが、何かあるのか!?


 俺は念の為に教皇ゼギウスに『魔弾』を放つ。

 手荒ではあるが気を失ってもらっていた方が良い。


「なっ!?」


『魔弾』が教皇ゼギウスの纏うマントに当たると、霧散するようにはじけ飛ぶ。


 防御魔法の掛かったローブか!


 魔法を刻印した武器があるんだ、防具があっても不思議じゃない。

 権威も権力もある教皇ゼギウスが、それを手にしていないはずはなかった。

 ましてや護衛を大勢連れている程度には身の危険を感じているのだ。

 その様子を見ていたのに、魔法防具の可能性を考慮できないのは経験不足によるものか。


 それでも、純粋な魔力を物理的な力として行使する俺の魔法は、一般的な精霊魔法とは違う。

 例え対抗魔法(カウンター・マジック)があったとしても、対抗すべき精霊力がない純粋な魔力による物理的な圧力は消しきれない。


 教皇ゼギウスが魔力による衝撃を受けて蹌踉(よろ)めくと、その体を今だ動じない二人の少女が支えた。

 少女の様子から、完全に意識がないと言う訳でもないとわかる。


 隷属下において命令を与えられていないのか?

 指示を受けていないなら抵抗もないと思えた。

 ならば俺にも解除出来るはずだ。

 もっとも、今の俺なら例え抵抗されても力尽くで押さえ込める気はするが。


 少女たちのことはひとまず置いておき、その隙に『支配の王杯』を奪取した。

 一瞬触れることに不安が過ぎった。

 だが、起動していなければ特に問題はないようで、ホッとする。


 俺が『支配の王杯』を奪取するのに合わせて、ルイーゼとマリオンも部屋に入って来る。

 入り口の二人を無力化したのだろう。

 思った以上に順調だった。


「セルフィナ……その娘、ルイーゼか。

 姉上によく似ている、教会につかぬのも血筋か」


 教皇ゼギウスとルイーゼの初対面だった。

 ルイーゼも直ぐにその言葉の意味を理解する。


 マリオンがルイーゼを隠すように前に出ようとするが、ルイーゼはマリオンの腕を引き、頭を振る。

 心配そうな表情を浮かべるマリオンだったが、大人しく身を引いた。


「はじめまして叔父様。

 この様なかたちでお会いすることになるとは思っておりませんでした。

 お言葉を返すようですが、私が教会に入らないのは、入ることで助けられない人もいると知っているからです」

「綺麗事を。神々に授かりし力を己の物とでも思っているのか」

「それは違います。

 授かった力ですからこそ、誰もが分け隔てなくその恩恵を賜る権利があると思います。

 高貴な生まれの者にしか恩恵が受けられない今の教会の教えを、私は受け入れられません」


 目的を達成した以上は長居すべきじゃないと思うが、ルイーゼは俺だけを見て叔父と敵対する答えを出していた。

 その答えを信じると決めたが、それは話し合うことすら拒絶するものじゃない。

 次に話せる機会があるとは限らない以上、可能な限り時間はとってあげたかった。


 俺は二人の神殿騎士から武器を取り上げ、マリオンと共に警戒にあたる。

 部屋の外にいるはずの二人が入ってこないのは気になるな……やり過ぎていなければ良いんだが。


 ルイーゼはひとしきり話し終えると、倒れた少女の傍に跪き、祈りの言葉を捧げる。

 その天恵の為か、ルイーゼは女神アルテアの存在を強く感じるようだ。

 そして強く感じれば感じるほど信仰もより強く持てる。

 ルイーゼは俺以上に女神アルテアに近いのかも知れない。


 天井を抜けて差し込む不思議な光り。

 青く淡い光りに魔力が活性化し、ダイアモンドダストのように煌めく。

 何度見ても美しい光景だった。


 命すら失われつつあった少女の青白かった体に、温もりの色が見られる。

 昔は失われた血液までは回復できなったはずだ。

 その力は確実に強まっていると言えた。


 そう言えば、条件はわからないが、魂すら呼び戻す奇跡を見せることもあったな。


「おぉ、誠に愛娘アルテアの奇跡。

 純真たる思いがこれほどまでの強さとは」

「教会に付かないからこの思いがあると、わかってもらえると嬉しいんだが」

「教会が天恵の力を制限してきた意味をわかっておらぬ。

 天恵は神々の力。それをむやみやたらと使えば神々の力が衰え、世界に悪魔が降りると何故わからぬ」


 教会の教えの一つだが、その教えは信徒の中でしか広まっていない。

 それでも悪魔が降臨し、世界を焼き尽くしたということは広く知られている。

 それを言い伝える者がいて、それを証明する物があるからだ。

 前者は長命なエルフ族であり、後者は古代文明の遺物(アーティファクト)といわれる物だ。

 遺物には『支配の王杯』のような魔道具があり、必ずしも人の為に使われるとは限らないのが厄介だ。


 厄災の影響は凄まじいもので、それにより多くの命と文明が失われていた。

 再興が始まり一〇〇〇年を越える年月がたった今でも、前文明末期には及ばないと言われている。

 高度な文明と稚拙な文明が入り乱れるここセルリアーナ大陸。

 歪に見える文明は前文明期の影響によるところが大きかった。


「女神アルテア様に感謝を」


 繋ぎ止められた命にホッとする。

 もし護衛騎士を相手に苦戦をするようなら、少女を救う余裕はなかっただろう。

 強くなりたくて戦い続けた。

 そうして手に入れた力がこうして役に立つなら良いことじゃないか。


「叔父様。私は母から、天恵は神々が地上の人々と力を繋ぐ為に与えたもの、と教わっております。

 それにより地に封じた神ならざる者たちへの楔となると。

 より強い信仰心を持って、神の力を地上に降ろすのが天恵を授かった者の役目と信じています。

 もし信仰が失われ天恵を授かる者がいなくなった時、地上は神ならざる者により混沌を迎えるのではないでしょうか」

「それこそ世迷い言。

 教会の管理下に置かれて以来、その様なことは一度も起きておらぬ。

 それがまさに証拠」

「私には『支配の王杯』を手にし、その力を使って人の意思を操る今の教会こそが魔の降りた姿に思えます。

 自身のことには気が付かないものでしょうか?」

「!?」


 天恵を使用した直後のルイーゼは、何処か女神アルテアの面影を宿していた。

 その力が強まるにつれ、面影もまた強くなっている。

 魔力の残滓が照らし出すルイーゼは、普段の物静かな雰囲気を持ちつつも、反論を許さない強さを醸し出していた。


 それでも教皇ゼギウスの精神は強いようだ。

 異常なほどの汗を掻きながらもルイーゼに応える。


「み、認めぬ。教会の権威が落ちれば信仰も薄れる。

 それは即ち神々の力が薄れることと同意。

 必要なのは人々の信仰心を高めることであり、その為に教会が正しくある必要はない。

 時に誰かを犠牲にしてでも力を示す必要があるのだ」

「犠牲など、女神アルテア様は望んでおりません」

「知ったようなことを!

 ならば何故あの様な物を教会が使うことを許された。

 あれは『支配の王杯』などではない、神々を喰らう猛毒だ!!」


『支配の王杯』じゃないだと!?


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