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作戦開始・中

本日は連投しております。

ご迷惑をお掛けいたしますが「第92話 シャルルロアの戦い・前」からお読みください。




 俺は教皇ゼギウスが何かしらの行動に移るのを阻止する為、部屋に突入することにした。


 どうせ気付かれるなら、先手を打つ!


「状況が変わった、直ぐに飛ぶ。転移酔いに気を付けてくれ」

「はい、アキト様」

「わかったわ」


 俺は二人の手を取り、再び『空間転移』(テレポート)を唱える。

 出来れば俺が『空間転移』を使えることは、奥の手という意味でも伏せておきたかったが、そうも言っていられない事態へと進んでいる。


 一瞬のホワイトアウト、そして続くブラックアウト。

 めまぐるしく変わる状況に転移酔いとよんでいる症状が襲う。


 転移先はまさに神殿騎士の目の前だ。

 中に直接という手もあったが、神殿騎士の戦力が不明の為、リスクが大きかった。

 小部屋で四人を同時に相手するとなれば、何が起こるか読み切れない。

 だったら入り口の二人をルイーゼとマリオンに任せ、中の二人は俺が何とかする方が状況を読みやすい。


 飛び込んだ勢いで一人を無力化できれば良いんだが――


「!?」

「なっ!?」


 ルイーゼが右に、マリオンが左に、転移酔いをものともせず神殿騎士に詰め寄る。

 転移魔法が存在する世界とはいえ、その利用は一般的ではない。

 突然目の前に人が現れるという常識外れの事態に、騎士として鍛えていても驚きは隠せないようだ。


 この場を二人に任せ、俺はあらゆる状況に対応するべく『身体強化』(ストレングス・ボディ)を使い、五感すら向上させた上で取っ手に手を掛ける。

 その瞬間、手を逆流してくるような鋭い魔力の反応を感じ、とっさにその魔力を霧散させた。

 何だったのかはわからないが、それ以上は特に変化を感じなかったので、そのまま扉を勢い押し開く。


 最初に目に入ってきたのは、部屋の奥でナイフを少女の胸に突き立てている教皇ゼギウスの姿だった。

 それを見た俺は、反射的に『魔弾』(マジック・ブリット)を撃ち放つ。


『魔弾』は、勢いよく開けた扉が壁を打つ音に振り向いた教皇ゼギウスの右肩に辺り、衝撃でナイフを取りこぼす様子が見て取れた。


「それ以上はさせない!!」

「馬鹿な!? 破邪の魔法をどうやってかいくぐった!

 あれは神々の加護がなければ破れぬはずだ!」


 うへっ!

 いきなり怖そうな魔法のお出迎えだった。


「俺の行動は神様から見ても邪じゃないってことだろ」

「ふざけるな!」


 ふざけている訳ではない。

 神様がもし本当に俺をどうにかしようというのなら、俺がそれに抗う術はないだろう。

 ルイーゼの天恵を見るに、神様の力というのは本当に規格外だ。


 恐らく古代魔法だと思われるが、その特性として必要以上の魔力を込めても、威力が上がるといったことはない。

 まるで数学のようにくみ上げるきっちりとした魔法が特徴だった。

 だとすれば、破邪の魔法とは元々威力の弱い魔法といえる……おそらく。

 正直魔法のことはリゼットに訊かなければわからないことが多い。


 それよりもまずは目の前のことだ。

 俺は改めて状況を確認する。


 突然の侵入者に不意を突かれた二人の神殿騎士だったが、即座に教皇ゼギウスを守るように立ちはだかり、追撃をする時間までは許さなかった。

 神殿騎士は二人とも同じ装備で剣と盾を持ち、兜まで着けた重装備でしっかりと防御の態勢に入っている。


 初手で一人は行動不能にするという都合の良い展開は早速潰れたわけだ。

 まぁ、行き当たりばったりはいつものことだな。


 床に倒れた少女は胸の辺りから血を流し、動く気配がない。

 まだ息があるのは感じ取れるが、その命はルイーゼが合流するまでもたないかもしれない。

 悲しいことに人の生き死にを見続けてきた結果、自分に救えるかどうかがわかるようになっていた。

 もう少し早ければと、それが意味のないことだとわかっても考えてしまう。


 心の臓が強く脈動する。

 自らの血で濡れた痛ましい少女の姿に熱いものが込み上げ、こめかみが(うず)く。


 だが、俺は一呼吸をおいて怒りを飲み込む。

 総合格闘を習う際に覚えた息吹を使い、呼吸を落ち着かせる。

 ティファナの死を見届けたことで頭に血が上り、怒りのままにシルヴィアと戦った結果は無様だった。

 同じことは繰り返せない。


 リスクがあると承知で飛び込んだのだから、出来るならば助けたい。

 それでも全ては助けられないことも知っている。

 俺に出来ることは、目的を見失わずただ全力を尽くす、それだけだ。

 少女を助けたいなら、ルイーゼが直ぐに『神聖魔法』(アルテアの奇跡)が使えるよう、今はこの場を抑えることが最優先だ。


 他の二人の少女は俺の乱入にさえ一切の反応を見せず、何かしらの外的要因で思考あるいは意識を縛られていると考えられた。


 変に騒がれるよりは良かったと言うべきか……


 そして、部屋の一番奥、台座のような物の上にそれはあった。

 魔力こそ失われているが、事前にリゼットから説明を受けていた外形に一致するそれが『支配の王杯』だろう。


「ネズミの正体は貴様か」

「……」


 落ち着け俺。色々とバレているのもいつものことだろ。

 素人の聞き込みだ、見る人が見ていれば気付かれても不思議はない。


「さっさと始末しろ!」


 小部屋とはいえ、俺たちが剣を振るうだけの広さは十分にある。

 状況的には二対一。

 その構える姿からは手練れを思わせる雰囲気を感じたが、不思議とどうにかなる気がした。


 ただ、天恵を持っている可能性は大いにあるので、油断できる相手ではない。

 だったら――


「はっ!!」


 視線だけで放った『魔弾』(マジック・ブリット)が手前に立つ神殿騎士の右足を(すく)う。

 神殿騎士は突然の衝撃に堪らず右膝を突き、体を支える為に右腕を下げた。

 俺はその隙を突き、狙い澄ました左の回し蹴りを放つと、それを側頭部に受けた神殿騎士は、転がるように吹っ飛んでいく。


 先手必勝。

 まずは一人、こちらの戦力を把握される前に無力化する!


 確かな手応えから、兜越しだろうと激しく脳を揺さぶったことは間違いない。

 もし意識があったとしても当分はまともに立てないだろう。


 思ったより手応えがないか?


 ルイーゼならあれくらいの衝撃は耐えるし、マリオンなら片足でもバランスを崩さず追撃を許さない。


「何をやっている!! 外の奴等はどうした!!」


 神殿騎士の一人が容易に倒された様子を見て、教皇ゼギウスが怒気を含んだ声を上げる。


 無詠唱による見えない魔法攻撃。

 俺は魔法というより『技術』(スキル)と考えているが、近接戦闘において絶大な効果を発揮するスキルを用いた戦い方は、その扱いの難しさ故に一般的ではない。

 だから教皇ゼギウスからすれば、まるで自分から蹴りを受けにいき、倒されたようにしか見えないのだろう。


 だがそんな反応も戦い慣れていない教皇ゼギウスだけだ。

 もう一人の神殿騎士は腰を落とし、明らかに俺を警戒していた。

 それでも付け入る隙はいくらでもあるように見える。


 俺は再び先手をとる。

 経験から天恵を使うには若干の時間が必要とわかっていた。

 戦いを長引かせれば予想外のことが起こるのはこちらも一緒。

 ならば使われる前に終わらせるしかない。


 詰め寄る俺に向けて突き出される剣を、左腕のガントレットで払い、身を逸らすようにして躱す。

 竜の素材で表面の強度を上げたガントレットは、俺の期待通りに防具としての役目をしっかりと果たしている。

 思った以上に使いやすく、近接戦では有効と感じた。


 俺は身を逸らす勢いで体を捻り、後ろ回し蹴りを叩き込む。

 それは盾に防がれたが、体重を乗せた蹴りは神殿騎士を大きく吹き飛ばし、部屋の壁に激しく打ち付けた。

 神殿騎士は衝撃で息が止まったのか、喘ぐように崩れ落ちる。


 軽いな!?


 ルイーゼやマリオンを相手にするのとは違い、力加減が狂う。

 不測の事態に備え『能力解放』(リリース・アビリティ)は使っていなかったが、それでもあっけなさ過ぎる。


 ルイーゼとマリオン、二人の強さがもう常識の域を超えているのか?


「貴様も化け物か!」


 ちょっと『身体強化』を使ったくらいでいちいち化け物を扱いされたくはないが、いっそうのことそれくらいのイメージを持ってくれた方がやりやすいか。

 気になるのは貴様も(・・・)という一言だ。

 恐らくベルディナードたちを指す言葉だと思うが、他の可能性も捨てられない。


 だがこの場にいない者のことを考えても仕方がない。

 俺は残った教皇ゼギウスを睨む。


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