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フォルジュ家

本日三話投稿予定、二話目です。

読み飛ばしの方、お気を付けてください。

ここまでのまとめみたいな感じで、お堅くなってしまった。




 翌日。二週間後と迫った結婚式の打ち合わせの為に、ロンドル子爵の領都にある別邸へと来ていた。

 恐れ多くも、お貴族様主導で結婚式を開催してもらうこととなり、こうして打ち合わせと相成った訳だ。


 案内された客間で俺たちを待っていたのは、ロンドル子爵とカイル、それに護衛のテレサだった。二週間ほど空いただけだが、久しぶりに会った気がする。


 以前に比べると、テレサのオレンジ色の髪が妙に艶やかでみずみずしい。

 視線で会話をする三人を見るに、ルイーゼかマリオン経由で、リゼット謹製のリンスでも入手したのだろう。


「いいのか? 衣装くらいは私の方で用意を考えていたが」


 当日の衣装について、カイルは用意があると教えてくれた。この後にでも仮合わせをする予定があるとか。

 俺は夜会で二人が着たドレスに、飾り布と銀糸のベールを足して花嫁衣装にするつもりでいた。


 でも折角だからカイルのお言葉に甘えようとしたところで、二人が丁寧にそれをお断りする。


「過分な申し出で、とてもありがたく思いますが、すでに素敵な衣装がありますので」

「わたしも同じです。あの衣装を着たいと思います」


 そこまで思ってくれるのは嬉しいが、少しプレッシャーだな。

 一応リゼットと相談して、俺の好みになるよう手直しに出してはあるが、あくまでも俺の好みだからな……。


 リゼットは、その方が二人は喜ぶと言ってくれたが、同時に二人には試練かも知れないとも言っていた。ちょっと、露出が多かったかもしれない。

 よく考えたら、俺だけが見る訳じゃないからダメなのでは?

 一度合わせる為に着る必要があるから、その時に様子を窺っておこう。


 式の流れを決めた――もとい訊いた後は、実際に式場予定の場所を見せてもらうことになった。

 場所はロンドル子爵邸の来賓客に向けた館だ。

 二〇人くらいが入れる程度の広さだが、招待客向けの館だけあり、造りは非常に素晴らしい。


 地元産の高級なガラスを大量に使ったホールは、優しく太陽光を取り込み、壁際に飾られた金細工が光り輝く演出が見事だ。

 外に開けた窓からは手入れの行き届いた庭園が見え、初夏の花の蕾が開花するその時を待ち遠しそうにしていた。

 洒落た建物と庭園、祝福を奏でる楽器隊、少なからず知り合った人たちからの喝采となれば望みうる最高の環境だろう。


「とても素敵です。このような場をお貸しいただけることを感謝します」

「本当に素敵だわ。私たちは幸せ者ね」


 ルイーゼとマリオンもお気に召したようで何よりだ。

 二人はモモの手を引き、ホールへと入っていく。


「喜んでもらえたようで、準備した甲斐がある」

「私から見ても良い出来だ。普通に貴族の祝いであっても十分に通るだろう」


 ロンドル子爵は用意するといった手前、十分以上に頑張ってくれたようだ。


「ありがとうございます。二人もとても嬉しそうで、感謝しきれません」


 無邪気にホールを見て回る二人は、いつになく子供っぽさを見せていたが、むしろそれくらいが普通なのか。

 二人は厳しい戦いの中、強くなければならないと気負うことも多かった。でも、本来ならもう少し少女らしい行動が許されてもいいはずだ。


 もっとも、その甲斐もあってか、一対一の戦いにおいて二人に勝てる者はそう多くない。そして、力を合わせれば多数を相手にでも生き抜くことが出来るはずだ。

 それは俺が望んだ生きていく為の力でもあり、今の二人に心配はない。これなら不死竜エヴァ・ルータの世話になることはないだろう。


「フォルジュだと!?」


 カイルが、俺たち三人の名前を書いた札を見て、驚きの声を上げる。カイルの驚きが何を示すのかはわからない。

 札は夫婦として市民登録をする為、そして式の送り状など、名前を必要とすることが多く、スペルミスがないか確認する為に用意した物だった。


 その名札にはルイーゼのみ家名が書かれている。本来ならマリオンにもあるはずだが、その名を捨てたマリオンは名前のみだ。

 そしてフォルジュはルイーゼの家名になる。平民のルイーゼに家名があるとは知らなかったが、本人も特別な時にしか使わない名前らしい。

 特別……あの夜、俺のプロポーズに答えてくれた時に始めて聞いた名前だった。


「まさか、あのフォルジュ家ではあるまいな」

「そうだと考えれば、ベルディナードが残したという言葉の意味もわかる」


 ロンドル子爵の言葉に、カイルが納得したような言葉を口にした。


 ベルディナードの名前がルイーゼの家名から連鎖的に出てくることに、急に不安を覚える。

 逃したベルディナードは最後に見させてもらう、と言っていた。

 一線を退くような言葉と共に、どこへともなく消えたベルディナードだったが、気変わりがないとも言い切れない。


 だから俺は対ベルディナードの為に準備を進めていた。

 何も審判の塔の五〇層を目指しているのは、興味からだけじゃない。下の階層を考えれば、五〇層の守護獣は間違いなくAランク。それも強めのが来るはずだ。


 と言うことは、そこから取れる素材は竜の素材と同程度の物になる。俺とマリオンの防具は竜素材で用意出来たが、ルイーゼの防具もまた武器と同じように等級が低い。

 戦いとなれば常に前に出て敵の攻撃を受けるルイーゼに、ベルディナードが纏っていたような一級品の防具は必須だ。


「ルイーゼの家名とベルディナードの言葉に、何か関係があるのですか?」


 隷属魔法と教会、そしてルイーゼと教会。その関係は今だ不明だ。

 だが、ベルディナードはこうも言っていた。教会は力を欲し、その理由を俺が知れば、俺はルイーゼを殺すだろうと。


 その言葉の意味することを俺はずっと考えていたが、前提条件が少ない為か答えを見いだせなかった。

 だが、思わぬところから話が進展した。


 不安を抑え、それでも確認は必要だった。

 多くはないが、平民でも家名を持つ者は珍しくない。家系を辿れば没落貴族だったり、下級貴族の娘をもらった大商人、優れた戦士や魔術師が貴族に仕えて名をもらうこともある。


「フォルジュは現教皇ゼギウスの姉君が嫁いだ貴族家の家名だ。

 もしルイーゼがゼギウスの血筋に連なる者であるならば、隷属魔法の支配下にある者たちを統べることも可能であろう。

 現にゼギウスは前教皇からその力を引き継いでいると考えられる」


 ベルディナードはルイーゼの血を追えばわかるとも言っていた。

 だが、何故それを知っていた?


 ルイーゼの両親はすでに亡くなっていて、天涯孤独の身だと聞いているし、それが嘘だとは思っていない。

 だけど、それはあくまでもルイーゼの知っている限り、だ。

 何かしらの理由があって、両親が話さなかった可能性などを考えれば、ルイーゼの知っていることが全てとも言いきれない。


 その本人すら知らない秘密をベルディナードが知っている理由……ベルディナードもまた、それを知る立場にいるということか。


 !?


 シルヴィアとの戦いの中でベルディナードが現れた時、俺は第一印象でルイーゼによく似た髪の色だと思った。

 ……そんなことがあり得るのか。もしそうだとするなら、ベルディナードは実の妹を殺そうとしていたことになる。


「どうしたアキト? 何か気掛かりなことでもあるのか?」


 これは伝えるべきことか?

 俺の最優先が何かなんか決まっている。ただ、その為に伝えた方が良いのかどうかがわからない。

 だけど、遅かれ早かれベルディナードを知っているカイルなら気付くはずだ。いや、既に気付いている可能性もある。


「ベルディナードがルイーゼのことを知っていた理由を考えていました」

「……これは可能性の話だ」


 カイルがそう一言おいて話した内容は、ルイーゼとベルディナードの関係について、既に考えた先のことだった。


 ルイーゼの両親は教会のあり方について父親と反目し、この国を追われることになった。その時、四歳になる子供が一緒だったという。

 その子供は長い逃亡生活の中で命を落としたといわれているが、歳の頃でいえばベルディナードと一致する。

 まるで完成仕掛けのパズルが、綺麗に組み合わさっていくように情報が繋がっていく。


 ベルディナードは明らかに教会側に属していた。それはセシリアの暗殺に来たシルヴィアと、行動を共にすることからも間違いない。

 だが、そうなると両親を追いやった教会に戻った理由が不明だ。それも隷属の能力を持つ古代文明の遺物(アーティファクト)である『支配の王杯』まで携えて。

 本人にでも訊かなければわからないか……。


「まだ可能性とは言え、ルイーゼは教会に属する血筋の者だ。それも教皇ゼギウスという最高権威に連なる。

 それを知った上で、アキトに問う。今までのように協力関係でいられるか?」

「……」


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