落ち込むルイーゼ
本日三話投稿予定、一話目です。
話の区切り上、ちょっと短くなっております。
四〇層の守護獣であるゴーレムが、ドロップした魔法具の指輪。それを使って作り出された土壁の強度を試す為に、ルイーゼが放った聖鎚による一撃は、土壁もろとも聖鎚の損失という結果をもたらした。
丁度、ルイーゼの武器等級だけ低いと思った後のことでもあり、使い手の成長についてこれなかったのは仕方のないこと思う。むしろここは、ルイーゼの成長を喜ぶべきところだ。
だが当の本人は、まるで聖鎚と一緒に自身の何かまで失ったかのような悲痛な面持ちだった。
自分の武器にばかり気がいっていて、ルイーゼの成長に武器が耐えられなかったことに気付かなかったのは、俺の責任だ。
「ルイーゼ、気にする必要はないからな。直ぐに新しい武器を用意するさ」
「はい……」
これは本当に何とかしないといけないな。ルイーゼのことだから、武器がないと俺を守れない、と考えて落ち込んでいそうだ。
その後、俺たちは聖鎚を失い落ち込むルイーゼを励ましつつ、四一層を様子見で攻略し、審判の塔を降りた。
出現する魔物はガーゴイルに小型のゴーレム、浮遊する砲台に光学迷彩が施されたなにかといった、一筋縄ではいかない魔物ばかりだった。
いや、すでに魔物という言葉が正しいのか判断がつかない。おおよそ生物とは思えないような敵ばかりなのだ。
だが、それらから取れる素材は珍しい物が多かった。
ゴーレムを倒せば魔鉱石が取れ、浮遊砲台からは魔石や魔魂とはまた違った魔力の結晶体。見えない何かからは光輝く砂。
使い道のわからない素材も、未知というだけで価値がある。
唯一つまらないのはガーゴイルだろう。倒した途端に砂と化すガーゴイルは、何も残さなかった。
それでも平均すれば、一層辺り一〇倍近い稼ぎがあるとロイスは言っている。初物価格とはいえ随分と景気のいいことだと思う。
ただし、その一層を攻略する為に、Bランクに属する敵を打ち倒す必要はあったが。
「四〇層を超えたのか!?」
「ご覧の通りだ」
「なんてことだ、信じられん……」
モモの冒険者登録をしてくれた初老の男性が、マッシュの提出した素材を見て驚きの声を上げる。
夕方の冒険者ギルドは、その日の素材を換金する為に訪れる冒険者で一番の賑わい時だ。当然、マッシュたちの会話を聞いた冒険者が次々と驚きの声を上げ始めた。
「越えたのか!?」
「『鉄壁の番人』がやったのか」
「おいおい、本当に越えちまったのかよ」
「俺はてっきりオルトガたちが先に越えると思っていたんだが」
四〇層越えは久しぶりということもあってか、ギルド内は大いに沸いた。
マッシュたちは俺たちのおかげだと口々に話してくれたが、一緒に戦った訳でもない冒険者にとっては、それが謙遜にしか思えないのも無理はない。
今はこの町で活動し、後続の育成にも励んでいるマッシュたちに注目が集まるのは当然だ。
俺たちの知名度を上げるのは一つの目的でもあったが、それは五〇層突破の時でも十分だと思っている。
金銭的なやり取りは後日とし、知人に囲まれて身動きが取れないでいるマッシュたちに手で別れを告げ、帰路に就く。
手土産は四一層のゴーレムが落とした魔鉱石だ。魔力の通りが良いこの魔鉱石は、ミスリル鉱に並ぶ素材らしい。
と言うことは、これを素材として武器を作れば最上級。魔力で満たせばマリオンの持つ魔剣ヴェスパと同じ超越級に届く。
魔力の通りがよい鉱石は、精錬魔法を用いた武器の加工が早い。
ここで、獣人領ヘリオンの鍛冶屋でロダンと共に、翡翠剣の加工をした経験が役に立つ。
俺だけでは、あの時ほど簡単にはいかないと思うので、ロダンの元に通いながら製作するとしよう。彼らの助けがあれば、成長したルイーゼの力に耐えられる武器が作れるはずだ。
「アキト、あれ」
ルイーゼの武器について考えを巡らせていると、マリオンが驚きとも呆気とも取れる声を上げる。
その視線を追うと人の列が出来ていた。先頭はどうやら俺たちの家――カフェテリア『フィレンツェ』らしい……。
「なんだなんだ……」
「アキト様、作り置きにそれほど余裕はないかと」
いつもなら在庫も豊富だが、先日の開店で思った以上に客が入り、それを補填する暇がなかった。
いくら祭りに沸いているとは言え、他にも多くの出店があることを考えれば異常だろう。
「私の分があれば十分」
冒険者ギルドで別れたつもりでいたミーティアだったが、しっかりと後に付いてきていた。そして自分の要求もしっかりと伝えてくる。
ミーティアが手を引くモモも、お腹をさすってニッと笑う。
原因はミーティアかも知れないな……さすが人気の歌姫といったところか。オフモードの様子からはまったくそんな雰囲気を感じないが。
「取り敢えず、疲れているところで悪いが店を開けるか」
「はい、アキト様」
「体を動かし足りなかったから丁度いいわ」
二人のいい返事と共に、カフェテリアの開店だ。
本日もミーティアの生歌付きとあり、ここにルイーゼとマリオンのエプロンドレスとくれば、更に大変なことになりそうだったので、給仕は俺で我慢してもらう。
もっとも誰も彼もがミーティアの歌に聴き惚れていて、俺のことなど気にしてはいなかったが。
とは言え忙しいことに変わりはない。相変わらずモモが目を回しながら走り回っているのを見るに、本格的に求人募集をした方が良さそうだ。
早めに商業ギルドにでも廻って人材の確保に励もう。
結局、今日も乗合馬車の最終便を大幅に乗り過ごし、ミーティアを背負って送るまでがセットとなった。