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モモ、冒険者になる

間が空いていて申し訳ありません。

本日は二話投稿予定です。

第一話目。






 豊穣の女神デメテルへの祈年祭に沸く、ここシャルルロア領の領都シャルルロア。

 その中央通りを一本入ったところにあるカフェテリア『フィレンツェ』は、今現在、満員御礼だった。


「マリオン、ミートパスタを二つ追加だ。モモ、配膳を手伝ってくれるか?」

「追加二つね。これも出来たからお願い!」


 モモと二人で注文を捌きつつ、新たな注文を取り、それをルイーゼとマリオンに伝えては、新たに出来上がった料理を配膳する。

 決して安くはないのに祭りの開放感もあってか、お客のお財布の紐もゆるゆるだ。


 そこにプラスして、歌姫ミーティアの生歌付きである。

 カウンターテーブルもあわせて五〇人程度しか裁けない我がカフェテリアは、まさしく許容量をオーバーしていた。


「まさかこんなところでミーティア様の歌が聴けるとは思わなかった」

「俺、昼のステージは泣く泣く仕事で見られなかったけど、これで報われた」

「前回聞いたのは五年前だけど、今も変わらず最高の歌姫だ」

「嬉しいけれど、なんでこんな店で歌っているんだ」

「何処だって良いさ、ミーティアちゃんの歌が聴けるなら魔物の森にだって行ってやる」


 熱狂は、町の明かりが粗方消え落ちるまで続いた。名残惜しそうに残っていたお客にも、閉店と言って引き取って貰う。

 後にはミーティアといつの間に現れたのかマネージャーの女性がいた。前にも会ったことがあるけど、名前は聞いていなかったな。


「再会パーティーのつもりだったけど、仕事をさせてしまったな」

「ミーティア様は気が乗らない時は歌いません。逆に歌ったということは、それだけご機嫌だったのだと思います」


 歌い疲れたのか、ミーティアはテーブルに突っ伏す形で寝ている。すやすやと心地よさそうな寝息は、無防備すぎるほど安心しきっていた。


「アキト様、こちらは私とマリオンで片付けておきますので、ミーティア様をお願い出来ますか」

「わかった。責任を持って送り届けてくる」

「申し訳ございませんアキトさん。本来なら私の仕事なのですが」

「気にしないでいいさ。町馬車も止まる時間まで引き止めてしまったのは俺の方だし」


 俺はミーティアを起こさないようにそっと背負う。とは言え、さすがに目を覚ました。


「……任せた」


 任された。再び眠りに就くミーティアを背負い直し、マネージャーの案内に付いていく。寝息が首元にかかりくすぐったいが、心地よくもある。

 残念ながらこの一年ちょっとで、胸の方は成長していないようだ。マネージャーには美味しい物をいっぱい食べさせて貰うとしよう。


「こちらでお会いすることになるとは思いませんでした」

「俺もだよ。いつエルドリアに?」

「一月ほど前ですね。そのままここまで直行しましたので、ミーティア様も大分お疲れでした。ですが、今日はゆっくりと休めそうですね」

「そうだと良いんだが」


 俺はミーティアの魔力を精査し、淀みを取り除いていく。魔力の流れがスムーズになると、身体能力が上がるだけでなく気持ちもリラックスするからだ。


 案内されて着いたのは、領都でも最高級と思われる宿――というか、迎賓館だろうか。恐らく一泊で銀貨が三〇枚くらいは飛んでいくだろう。初心者冒険者の一ヶ月分の稼ぎだな。


 迎えに降りてきたスタッフに後を任せ、俺も帰路に就く。

 不意に現れたモモが俺の手を引き、満天の星空で照らされた町の中を進む。

 モモは星空と俺を交互に眺めながら、楽しそうに笑う。釣られて俺も笑みを返し、二人で家へと帰った。


 ◇


「ミーティアさん……だよな? なんでここにいるんだ!?」

「俺が聞きたいな」


 今日はマッシュたちパーティー『鉄壁の番人』と、審判の塔の四〇層にいる守護獣を討伐する予定だ。

 俺たちは装備も万端に、塔の入り口近くにある冒険者ギルド前で待ち合わせていたところ、何故かミーティアが現れた。


「モモに聞いた。私も行く」

「冒険者ギルドに登録していないと無理だったと思う」

「大丈夫」


 そう言って首から提げていたプレートを取り出してみせる。それはEランク冒険者を示していた。Eランクと言うことは、それなりに活動した結果になる。

 確かミーティアは弓が使えたはずだ。実力的にはEランクに不足なしと言ったところだけど、これから行くのは四〇層の守護獣戦。とは言え――


「まぁ、ボスフィールドは広い。見学くらいは問題ないか」

「おいおい、本当に一緒に行くのか!?」

「問題、ない」


 問題は……ないと、俺も思う。

 マッシュたちの驚きはごもっともだが、強めに見てもAランクに満たないゴーレムだ。人ひとり守っていても問題はない。

 それに、長旅を終えて直ぐに祭りに参加し、ようやく休めるのだから気晴らしに付き合うくらい悪くない。


「怪我の一つでもさせたら袋叩きにあいそうだな」

「その時は俺が責任を持つさ」


 ミーティアは普段のドレス姿とは違って、どことなく民族衣装的な雰囲気の装いだ。

 ツバのある帽子を被り、長めのジャケットに短めのスカート、足下はロングブーツといった感じで動きやすそうな服装をしている。濃い緑がベースで、差し色的に黄色や白の布が使われているせいか、森の民というイメージがよく似合っていた。

 

 気になるのは背中に抱えた竪琴だろうか。身長一六〇センチ弱の彼女からしたら少し大きめにも見える竪琴は、変わった武器――と言う訳でもなく、本当に楽器の様に見える。蔓をイメージした作りは重さを感じさせないが、実際のところは不明だ。

 まぁ、いざとなればモモに預かって貰えば良いか。


 昨日まで舞台に立って歌っていたイメージとは随分とかけ離れている為か、冒険者ギルドに向かう人々もミーティアとは気付かなかった。騒ぎにならなかったのは救いだろう。


 今日の俺は、塔に入る前に一つだけやっておくことがある。


「この子の冒険者登録をお願いします」

「……え!?」


 ここは冒険者ギルドで、その受付にいるのは初老の男性だ。如何にもビジネスマンと言った感じで、皺一つない清潔感のある服を着ていた。

 その初老の男性は、俺の言葉にしばし固まる。


 今まで、出来るだけモモの能力は隠す方向でいたが、それは偏に、その能力を期待した貴族などに取り込まれるのを避ける為だった。

 だが、今は幸いにしてカイルを始め何人かの貴族との繋がりを持てた。そして俺自身も理不尽な力には屈しない程度の力が出来たと判断した。

 問題がないのであれば、出来るだけモモと対等でありたい。隠すようにではなく、普通に精霊の子として、そして仲間としてだ。


「この子は精霊なので年齢要件は満たしています。登録は人族じゃないと出来ないとかありませんでしたよね?」

「た、確かにそうですが、そんな前例は――」

「オスカー、硬いこと言うなよ。前例がないなら初めての名誉なんだ、ありがたく受け取れば良いだろ」

「簡単に言わないでくれよ。余り変なことをするとクビになるのは私なんだ。いずれにせよ認証プレートが登録出来なければ無理だ」


 マッシュの援護射撃で話が進む。前回、受付の女性に無体な対応をされた時もマッシュに助けられたな。


「それじゃこのプレートに触れてください」


 俺がモモを抱え上げると、ミーティアがモモの手を取ってプレートに触れさせる。するとモモから魔力が僅かに吸われるような反応を示し、認証プレートにモモという名前が刻まれた。


「まさか……登録出来るとは……」

「ほら、やってみるもんだろ。これで、初めて精霊を冒険者として認めたギルドだって、懐の深さを宣伝出来るだろ」

「まったく、冒険はもうこりごりだよ。何はともあれ、これが認証プレートになります。説明はいりますか?」

「いや、もうわかっているから大丈夫だ。ありがとう」


 ミーティアが受け取った認証プレートを、モモの首に掛ける。それをモモが手に取り、目と口を大きく空けて驚いて見せた後、何とも締まらない顔でにまにまとしていた。

 とても嬉しそうだ。もっと早くやってあげれば良かったな。


「良かったですね、モモさん」

「モモ、冒険者としてはわたしが先輩になるから、よく学ぶように」


 ルイーゼとマリオンに、モモは力強く頷いて答える。そして小枝を腰に、葉っぱの盾を背中に背負い、胸を叩いて準備が整ったことをアピールする。


「戦闘準備完了だな。モモの仕事は戦闘が始まったら隠れて、迫ってくる敵の警戒だ」


 真剣な表情で頷いて返すモモに「頼りにしている」と声かける。実際のところ、やる事は今までとまったく一緒だったりするが、まぁ、気持ちの問題だな。


 全ての準備が整ったところで、まずは三九層に飛び、軽く腕ならしをした後に四〇層へと挑む。

 マッシュたち五人に続き、俺たち四人とミーティアも一緒に三九層へと飛んだ。

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 塔えの転移は五階層毎じゃなかったっけ?
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