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獣人領ヘリオン・前

本日二話投稿しています。





 獣人族の都ヘリオスにて装備を調えていた俺たちは、もののついでに『カフェテリア二号店(仮)』を開いていた。多少のトラブルはあったものの、ハンバーガーは概ね好評で、なかなか良い売り上げとなっていた。


 そんな折、銅鑼(どら)の音が森の町に響き渡ると、あちらこちらから歓声が上がり始め、ハンバーガーを食べていたお客たちも、こうしてはいられないとばかりに支払いを済ませ、東の方へと向かっていく。


「アキト様、私たちも行ってみませんか?」

「わたしも行ってみたいわ」

「それじゃ俺たちも空気を読んで参加してみるか」

「はい」

「前哨戦ね」


 それは審判の塔で守護獣を相手にすることへの前哨戦であって、結婚式の前哨戦じゃないよな?

 鼻歌交じりに片付けを始めたマリオンに突っ込みを入れるのは止めて、俺も片付けを手伝う。


「始まったみたい」


 マリオンが耳をピクピクさせて獣人族の様子を伝える。

 俺はレッカから受け取ったバシリスクの鎧を身に付け、軽く体を動かして様子を見ていた。微調整は必要だが、悪くない。


 俺はモモを肩に乗せ東に向かう。同じように東に向かう獣人族に混じって走るが、凄い数だった。みんな店を放って出て来ているんじゃないだろうかと思える程で、通りを行くだけでも五〇〇人近くいそうだ。


「凄い数だな!」

「みんな戦いに向かっているのでしょうか」

「殆どは見物人ね。私も昔はよく見掛けたわ」


 人狼族であるマリオンも国にいた頃はこんな雰囲気の中で育っていたのか。


 おおよそ町の外れという辺りで、森の先二〇〇メートルほどの位置に見え隠れする魔物を見付けた。それはともすれば周りの木々に匹敵する程の大きさを持つ魔物だった。その立派な角を含めれば七メートルには達するかと言うそれは巨大なヘラジカだ。


「思ったよりも随分と近くまで迫っているじゃないか!」

「大きいですね……」

「ドラゴンの胴体部分より大きそうだわ」


 魔物はベースとなる生き物が強い魔力を受けて変異したと言われている。それとは別に人と同じ様に生まれながらにして魔力を持つ生物もいて、そちらは魔獣と言われる。巨大ヘラジカは魔物の方だが、元の世界の倍はあるだろう巨大さだった。もう殆ど小山が動いているとしか思えない。


「モモさん、完全武装をお願いします」

「!!」


 俺の頭に両手を突いて身を乗り出すようにヘラジカを見ていたモモが、そのまま前に転がるようにして降り立つと、小枝を横に振るう。ルイーゼとマリオンを魔法陣が包み込み、次の瞬間には給仕服から戦乙女へと変身だ。


 俺たちが駆けつけると、何十人もの獣人族が直径一メートルを超えるだろう足にしがみつき、その進攻を食い止めようとしていた。

 力自慢の獣人族だけ合って、あれだけの巨体を持つヘラジカの進行を遅らせることはできていたが、止めるには至らない。


「おまえら! 死ぬ気で止めてんのか! こいつに抜かれたら町は潰れるぞ!」

「おおっ!!」

「目を回している奴が邪魔だ、端に避けておけ!」

「弓は通らねぇ、猿人族はサポートに廻ってくれ!」


 ヘラジカが一歩踏み出す度に五、六人ほどの獣人族が吹っ飛び、大木のような角が振られる度に同じく何人もの獣人族が吹っ飛んでいく。


「さてどうしたものか……まずは足を止めるか」

「アキト様、右の前足が人手不足のようです」

「足を止めたら私は上に乗って、『魔刃』(マジック・ブレード)を直接撃ち込んでみるわ」

「それじゃ加勢に入るとするか」

「はい!」

「わかったわ!」


 ヘラジカが巨大な右足を前に出そうとしたところで俺たちも加勢に向かう。


「そんな細い体じゃ――」

「お役に立てませんか?」


 ルイーゼに声を掛けたのは、首根っこを掴まれていた熊人族の男だった。その奥には仲良く虎人族の男もいる。

 二人はルイーゼを見るや、震えるように顔を横に振る。


「おらぁ! 力を込めろ野郎ども!!」

「「「うおおっ!」」」


 リーダー格らしい豹頭の男が声を上げると、熱気が上がる。

 ヘラジカの巨大な足が前にスライドを始めると、抑えていた何人もの獣人族が押し負けて地面を滑り始める。だが、先程までは押される一方だった右の前足が、ルイーゼの介入によってその動きを鈍くする。

 二人の獣人族がルイーゼを見て、信じられないとばかりに目を合わせているのが印象的だった。


「よし、ルイーゼの技を俺も試させて貰う」

「はいっ!」


 俺はルイーゼを見習って『身体強化』(ストレングス・ボディ)を発動し、同時に足から魔力を放出し、地面に杭を打ち込む。

 そしてルイーゼと共にその抱えきれないほどの足にしがみつき、持てる力を振り絞ってその進みを受け止める。初めて受ける超圧力に体中が悲鳴を上げ、その力を抑えきれずに体が押し返されていく。


「おおおおっ!!」


 目映いばかりの星が視界を埋め尽くし肉体が限界を告げ、抑えきれないかと思ったところで、動きが止まる。


「今だ! おおおおっせーーーっ!」

「おっ! 押せ、押し返せーっ!」


 俺の掛け声に、弾き飛ばされていた獣人族が加勢に入ると、押される一方だったところを今度は逆に押し返すまでに至った。すると、まるで何かに躓いたかのようにヘラジカが体勢を崩し、右肩から崩れるようにして倒れてきた。


「下敷きになるぞ、逃げろ!!」

「どわああっ!」

「ルイーゼ! こっちだ!」

「はい、アキト様!」


 みんなが避けたところにヘラジカの右肩が落ち、重く響き渡る音と共に俺の体が一瞬一〇センチほど浮かび上がった。浮き上がったルイーゼを抱き寄せ「よくやった」と耳元で囁く。


「アキト様も見ただけで同じことを」

「ルイーゼが見せてくれたからな」


 嬉しそうに微笑むルイーゼの後で、マリオンがヘラジカの角を足場に頭へと駆け昇っていき、それに続けとばかりに獣人族も倒れ込んだヘラジカに押し寄せる。

 だがヘラジカも倒れてばかりではない。頭を振るって角で獣人族を弾き飛ばし、足をばたつかせては同じく獣人族を吹き飛ばす。

 中には飛ばされた勢いで木の枝に引っかかり宙吊りになる獣人族までいた。


 見たところ斬属性の攻撃は殆ど効果がないようだ。剛毛に阻まれて、殆ど皮膚まで届いていない。突属性の攻撃も、分厚い脂肪に阻まれてダメージらしいダメージを与えていなかった。


 それでも波状攻撃とばかりに続く攻撃を受け、ヘラジカは徐々にダメージを蓄積していく。剛毛に刃が阻まれるなら全てを斬り落とす勢いで剣が振られ、皮膚に槍が阻まれるなら抜けるまで同じ場所を突き続ける。


「俺たちも攻撃に加わるか!」

「はいっ!」


 ヘラジカが再び立ち上がろうと立てた足を獣人族が直ぐに払い、立つことを許さない。自重の乗った足を払うことは難しいが、一度倒れてしまえばそう簡単に立たせるほど獣人族も甘くはなかった。


「ルイーゼ、止まれ!!」

「!?」


 ヘラジカの魔力反応が急激に高まるのを『魔力感知』(センス・マジック)が捉える。Aランクの魔物に多く見られる狂暴(バーサーク)状態だろう。

 振り上げられた頭を地面に打ち付け、その勢いでもって上体を起こす。激しい揺れが押さえ込みに走った獣人族を踏み留まらせ、その巨躯に昇っていた獣人族の多くを振り落とす。


「マリオン!」

「平気よ!」


 立ち上がるヘラジカの角にしがみつき再び頭を目指して駆けるマリオンに、同じく振り落とされなかった獣人族が続き、頭部を中心に攻撃を加え始めた。

 それでもヘラジカは頭を振るうようにして立ち上がり、再び町に向かって侵攻を始めた。


「進行方向の木にロープを張れ!! 町に入れたら三日三晩飯抜きだぞ!!」

「そいつぁごめんだ!」


 巨体の熊人族が数十人がかりで抱えるようなロープが持ち出され、大樹に巻き付けられていく。

 だが、ヘラジカはロープなどお構いなしに引きちぎり、その歩みを止めない。


「かぁ! 駄目だぁ、止まらねぇ!!」

「そろそろ町の奴等を引き上げさせろ!」

「なんってこった!」


 どことなく緊張感のなさそうな様子に拍子抜けするが、このまま侵攻させては武器の仕上がりに影響が出るかも知れないな。


「ルイーゼ、ヒザにキツいのを頼む!」

「はいっ!」


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