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愛剣の発注・後

本日二話投稿、二話目になります




「作れるのはバスタードソードで一本、ショートソードなら余りでダガーも作れるな」


 バスタードソードは両手でも扱えるように柄が長めに作られた剣で、刃の長さも一メートルを超えてくる。昔と違って今ならば筋力的な問題はないだろう。

 ショートソードはいわゆる普通の片手剣だ。使い慣れているので最も無難と言える。ダガーと合わせて二刀流という手もあるが、長さが違う剣を使いこなせる気がしないな。作るならサポート用か。


「これだけの素材だ、作るなら最も使い慣れた武器を薦める」

「俺もその意見に賛成だ。一本は片手剣にしてくれ。残りはそうだな……」

「何も武器に拘らなくてもいいと思うわ」

「武器以外か……ダガーの代わりで鎧って程は残らないな」


 ベルディナードの攻撃で今使っている防具は駄目になっていた。補修も難しそうだったので、武器とは別に用意する必要がある。まずは武器を作って、それから防具を買うつもりだ。


「アキト様、左腕用の特殊な武具を用意するのは如何でしょうか?」


 唸る俺にルイーゼが妙案をあげる。

 俺の戦い方は特殊で、左腕が攻防の要になっていた。とっさの時に怪我をしやすいのも左腕だ。


「マリオンとルイーゼのおかげで考えが纏まった」


 俺の言葉を受け、二人は顔を見合わせて微笑んでいた。仲睦まじい様子を見せる二人に、改めて安堵する。二人に結婚を申し込んだことで関係性が変わってしまうことだけは危惧していたけど、問題ないようだ。


「ゴードン、余りはダガーじゃなくて左腕用の手甲にしてくれないか。攻防に使える物がベストだけど無理なら打撃に特化して欲しい」

「人狼族が得意とする武器だな。何度も作ったことがあるから問題ない」


 マリオンが懐かしそうな表情を見せる。かつて人狼族を率いる立場にいたマリオンにとってはその思いも一入(ひとしお)だろう。

 俺はマリオンの肩に手を置く。今は人狼族と袂を分かったが、俺がいることを伝えたかった。


「平気よ」

「俺が平気じゃないんだ」

「なにそれ」


 マリオンがおかしそうにクスクスと笑う。

 別にトラウマになっていることはなさそうで何よりだ。


「作る物が決まれば後は金額だな」

「金は心配するな。今回はギルドから出ると聞いている。俺はそれに見合う最高の仕事をするだけだ」

「は?」


 カイルの紹介状が仕事をしすぎで逆に怖いぞ。


「安くはないだろ……」

「ふっ。お前は最高の武器を手にし、俺は最高の金を手に入れる。困る奴はいない」


 鍛冶ギルドはカイルに借りが返せて、カイルは俺に借りが返せる。

 いない……のか? いないならいいか。


「それじゃ最高の物を頼む」

「任せておけ。素材に恥じない武器を作ってみせる。時間は一ヶ月ほど見てくれ」

「思ったより長いな」


 二度と会うことがない可能性もあるとはいえ、ベルディナードのことも含めれば強力な武器は早めに手に入れておきたい。恐らく、武器だけでも互角以上にしなければ剣を合わせることも難しい。

 黒曜剣では打ち負けて折れるだろうし、あの鎧を裁ち切るどころか貫くこともできそうにない。

 ついでに、慣らしも考えて審判の塔を攻略する時に持って行きたい。五〇層の攻略は結婚式前を考えているが、この予定だと過ぎてしまいそうだ。


「おいおい、爪を精錬するだけでも三週間は掛かるんだぞ、これでも十分早い方だ」


 自分で使ったこともあるからわかるが、精錬魔法は膨大な魔力を消費する。普通(・・)ならそれくらいの時間が掛かるのだろう。


「精錬の手伝いをするから直ぐに作業に掛かれないか?」

「手伝うったってな……魔力回復薬漬けにでもする気か?」

「まぁ、似たようなものだが体に悪いもんじゃない。ただ、精錬魔法を実際に使ってもらう必要があるんだ」

「珍しい天恵でも持ってんのか?」

「そんなとこだ」


 与えられた才能という意味でなら嘘とも言えないだろう。流石に今の俺に一般性があるとは思っていない。


「面白いもんが見られそうだし、断る理由もないな」


 ゴードンはそう言うと俺たちを作業部屋に案内した。

 そこは炉のある部屋と違って、どちらかというと実験室といった趣をしていた。図面やら資料と思われる紙や本が置かれ、なんとなくだがリゼットなら意気揚々と魅入っていそうな部屋だ。


「ロダン、仕事だ。こいつに一発やってくれ」

「こいつはまた凄い物を持ってきたな」


 ロダンと呼ばれた男は五〇歳ほどで白髪の交じり始めた人間族の男だった。鍛冶屋と言うよりは魔法師と言った感で、ローブの似合う渋いおじさんだな。

 ちなみに魔法師というのは生活魔法や錬金魔法と言った非戦闘職としての魔術師を指していた。元は魔法が使えるのに戦おうとしない者を卑下する意味で使われていたようだが、今は普通に区分として使われている。その性質上、戦闘向きの精霊魔法ではなく便利魔法の多い古代魔法が中心となる。


「急ぎで悪いんだが、お客人が試してみたいことがあるらしく、直ぐに精錬して貰えるか」

「急な話で悪いけどよろしく頼む」

「なるほど。ま、仕事なら断る理由もないな」


 ロダンは部屋の中央で敷物の中央に胡座をかくと、竜の爪を前にして準備を進めた。といっても、精錬魔法に特別な準備は必要なく、せいぜい精神統一くらいだ。


「それで、試したいこととは?」

「普通に精錬魔法を使ってくればいい。その際、俺が背中に触れるけど何があっても魔法は止めないでくれ」


 ロダンが訝しげにゴードンに視線を送る。ゴードンはそれに頷くだけで答えた。

 流石に何をされるのかわからない状況では不安が大きいか。


「魔力を流し込むだけだから安心してくれ」

「「魔力を流し込むだと?」」


 まぁ、そう思うよな。『魔力付与』エンチャント・マジックができる人物を俺はリゼットしか知らない。だがロダンは逆に興味を持ったのか、是非試してみたいと言ってきた。その目が爛々(らんらん)と輝いているのを見て俺はちょっと引いた。


「いつでもいいぞ!」


 ロダンの掛け声に合わせ、俺は背中に当てた手からロダンの魔力を感じ取る。すると古代魔法を示す幾何学的な魔法陣が読み取れた。トレースするつもりはなかったが、折角なので覚えておく。

 高級素材を精錬する魔法陣は一子相伝と言うほど秘匿されているものでもない。貴重なことは確かだが、魔法そのものより使える人材の方が遙かに貴重であり、人材発掘の為にと以外にもオープンに扱われていた。


 実は俺も覚えようと思って鍛冶ギルドを訪れたことがある。そこで教わって魔術書も買い、初めて手掛けたのがルイーゼの聖鎚だ。

 素材が鉱石系ならば覚えた精錬魔法で済むが、竜の爪ともなるとベースの魔法陣を改良する必要がある。その辺は経験がものを言うところで、俺は竜の爪を精錬することができなくて諦めていた。


「何が起きても集中力を乱さないでくれ」

「おう!」


 俺はロダンが意識下に生成した魔法陣に向けて魔力を流し込んでいく。ついでに魔法陣の歪みを修整して効率を上げる。

 これは魔法陣をトレースしてしまったことに対するプレゼントだ。ロダンくらいの熟練者なら今の魔法陣を感じ取り、より良い物のを精錬できるようになるだろう。


「こいつは凄いな……」


 更に魔力を上げていくと、石灰色だった竜の爪が魔力に反応し緑色の輝きを放ち始め、徐々に形を変えていく。それは細長く一つの板のように伸び、次いで剣の形をとる。

 以前ルイーゼの聖鎚を精錬していたので、魔法陣のどの部分が形に影響を与えるのかはだいたいわかっていた。

 俺は意図的にロダンの魔法陣を変形し、自分の使い勝手に合わせて微調整する。そしてついでに銀細工で慣らしたセンスを元に、意匠を凝らす。


「おいおい……」


 ロダンの声に、昔やり過ぎてしまったことを思い出し、ほどほどに自粛した。


「どういうことだよ、まさかこれだけの時間で成形まで済ましちまうのか!?

 天恵ってのは出鱈目だと知っていても、これは凄いな」


 ロダンの驚きに続き、ゴードンもまた驚きに目を見開いていた。

 ドラゴンの素材は鉱石と違って炉を使って打つものじゃない。ある程度魔法で加工し、最後の仕上げはドラゴンの骨を使って研磨するという、とても剣とは思えない作り方になる。それだけに加工ができる者は限られていた。素材を手にしてから半年以上も手が付けられなかっただけの理由があるのだ。


 俺は成形が満足に達したところで、一端竜の爪から魔力を『魔力吸収』(ドレイン・マジック)で抜き取る。それに合わせて緑色のオーラのような輝きが収まり、石灰色の剣に変わっていく。


 魔力を抜いたのは、そうしないと加工することができないと思ったからだ。いくら竜の骨を使って削り上げるとは言え、竜が死んだ時点でその素材から魔力は失われる。失われた魔力は魔石や魔魂となるわけだが、そうなると素材自体の強度が落ちることになる。そこに魔力で満たされた爪と削りあっては骨の方が負けてしまうだろう。


 そう言えばベルディナードの使っていた剣も同じ色をしていたな。あれも竜の爪が素材だったのか。魔力で強化された甲殻鎧をいとも容易く切り裂いただけある。この剣に魔力付与すれば武器は同等どころか打ち勝つだろう。

 直感で感じていたが、戦うという経験ではベルディナードに勝てない。だから俺の戦うフィールドは意外性だ。使える力を上手く隠し、少ないチャンスで畳み掛ける。


「よし、いいな。後はゴードンに任せる」

「任せるも何も、ここまで精度良く仕上げられちまったら磨くくらいしか仕事が残ってないぞ」

「それじゃ磨き上げて、ついでにいい感じの鞘を用意してくれ」

「お安いご用だが……アキト、お前俺に雇われないか?」

「折角だけど無理だな。俺はこれでも店を抱えているんだ」

「だよなぁ、それだけのことができればな店を持つよなぁ」


 ゴードンはきっと同職だと誤解しているだろうけど、敢えて誤解は解かない。


「いつ取りに来ればいい?」

「七日で仕上げる。ここまで仕上がっているのにそれ以上の時間を掛けたら金も取れない」

「わかった。それじゃ七日後に来る」


 俺は商業ギルドの認識プレートを差し出し、取引の記録を付ける。自分の買い物でさえ取引として扱われるのは良いのだろうか。お金を回して税金も発生しているのだから遠慮するところでもないか。


 七日後の予定を決め、俺たちが次にニコラを引いて向かうのは装備屋だ。




100話ぶりくらいに武装を変えることになりました。

星月剣に続く扱いにくい剣となるか、それともアキトは使いこなせるようになったのか。

星月剣が扱いきれず、黒曜剣の時代が長かった。

ちなみに作中の評価で言えば黒曜剣は上級、マリオンの魔剣ヴェスパが最上級(レア)、ルイーゼの聖鎚も最上級(レア)と定義しています。星月剣は魔力付与無しで最上級(レア)、ありで超越級(ユニーク)ですね。

今回作ったのは素材ベースでそれらを上回りますので、作中で二番目の性能でしょう。一番はアレです。


一応ランクは下記の通り

神話級(ゴッズ)伝説級(レジェンダリ)超越級(ユニーク)最上級(レア)・上級・中級・下級

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