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新たな思い

二話投稿しますのでご注意を。




「朝だ……」


 凄いスッキリと目が覚めた。

 爽やかな風が窓を抜けて髪を揺らす。眩しいほどの日差しが部屋を鮮やかに彩り、昨夜の幻想的な様子はなりを潜めていた。


「あれ……夢……」


 ベッドには何時ものように俺とモモがいるだけだ。俺は上体を起こして部屋の中を見回すがルイーゼの姿もマリオンの姿も無かった。

 シーツが捲れると、左肩から右の脇腹に掛けて古傷のようなものが走っていた。中途半端に『自己治癒』(セルフ・キュア)で治ったので『神聖魔法』(アルテアの奇跡)でも跡が消えなかったのだろう。だが、傷跡はしっかりと残っているので、昨日のことが現実だとわかる。


 でも、昨夜のことは?


「あれ?」


 俺は確かルイーゼとマリオンに告白して、同時に結婚を申し込んで、二人はそれを受け入れてくれて、それから二人と――


「夢?」


 嘘だろ……あんなに幸せを感じたのは人生で初めてだったのに。

 俺は額に手を当て、昨夜の夢を思い出す。それは夢にしては余りにも現実的で、それでいて甘美な世界だった。

 夢だというなら、今一度戻りたい……。


 俺は起こした体を再びベッドに投げ出し、心を落ち着かせる。こんな気持ちのまま二人に会うのは良くない。その場の勢いで結婚を申し込みそうだ。

 ベッドを揺らしたせいで上半身がずり落ちていたモモを引き寄せ、幸せそうに眠るその頬をつつく。にへらとした顔を見ていると心が落ち着いてきた。


「仕切り直しだな」


 よし、気持ちは切り替えた。

 ベッドを出ていつもものように用意された服を着る。新鮮な空気を吸って体内の酸素を入れ替え、息吹で魔力を練り上げる。


 大丈夫だ、魔力は十分に回復している。


「取り敢えず、あの後どうなったか確認しないとな」


 思えば派手にやってしまったので、色々拙いことになるかも知れない。何せお貴族様の客間を破壊と言っていい程度にはボロボロにしてしまったのだから……。


「まぁ、今更だ。成るようにしか成らないか」


 俺は居間に通じるだろう扉を開ける。するとそこには食事のトレーを引いたルイーゼとマリオンがいた。


「!?」


 二人の顔を見た瞬間、落ち着かせたはずなのに昨日の夢が現実としか思えないほどはっきりと思い浮かぶ。自分でもわかるほど首筋が熱くなり、どうしたら良いのか目が回りそうだ。

 綺麗なルイーゼが、美人なマリオンがいつも以上に輝いて見える。同時に一糸纏わぬ姿が重なって見えるとか、どんだけ俺は欲求不満なんだ。


 だが、顔を真っ赤にしていたのは俺だけじゃなかった。ルイーゼもマリオンも耳から首筋まで真っ赤にしていた。俺と同じでなんと言ったら良いのか言葉が出ないようで、既に限界を超えて涙目になっている。


 夢の訳がない。起きた時に二人の姿がなくて余りにも心細かったから、夢なら当然だと安心しようとしただけだ。でも二人を見れば夢なんかじゃないとはっきりとわかる。


 ここは男の俺がどうにかすべき所だろう。


 俺はかつて一番じゃないかと思うくらい精度を上げて魔力を制御し、心を落ち着かせる。戦いの場でこれくらい精度を上げられればきっと『魔斬』(マジック・スラッシュ)で鉄さえ断ち切れるだろう。


「二人とも、おはよう」


 それが精一杯だった。

 だけど、それで十分だった。


「おはようございます、アキト様」

「アキト、おはよう」


 それはもう素敵な笑顔で答えてくれた。何故この世界にカメラがないのか。だが、ないならないでこの笑顔をいつまでも守っていけば良いじゃないか。


 俺は二人を軽く抱き寄せる。


「幻じゃなくて良かった」

「アキト様、私もです」

「よかった、アキト……」


 俺が二人の存在を噛みしめていると――


「あー、あー。そろそろ良いかな?」


 テレサがいた。

 非常に羨ましそうな、それでいて悔しそうな、なかなか出来ない難しい表情をしている。


「心配して損したわ。朝からあてられて私の方が倒れそうよ」

「ご心配をお掛けいたしました」


 テレサはわざとらしく手を煽って熱にあてられたと態度で示す。

 俺もテレサがいると知っていれば、もう少し違った反応を返したと思うが、生憎と眼中になかった。少しだけ反省している。


「それだけ朝から元気なら、話も出来るでしょ。食事を終えたらカイル様とロンドル子爵に会ってもらうわ」

「承知しました。手短に済ませて伺います」

「場所はルイーゼが知っているから。食事はゆっくりで良いわ。お疲れ様アキト」

「お気遣いありがとうございます」


 片手をあげて去って行くテレサを見送る。


 まだテレは残るものの幸せな時間の中で食事をし、三人揃って身だしなみを整える。二人はお揃いの真っ白な袖付きのワンピースを着ていた。左の手首にはルイーゼが青色、マリオンが赤色の布が縛られていてアクセントになっている。ウエディングドレスやイブニングドレスのような煌びやかさはないが、飾り気のないシンプルさが素材の良さを引き立てていた。


 首元が少し寂しいか。ネックレスでも――いや、それよりも結婚指輪が必要なんじゃないか!?

 いやいや、まてまて。この世界に結婚指輪とか言う習慣があるのか?

 これは色々と早急に相談が必要だな。カイルへの報告が終わったら早速動かねば成るまい。


 ◇


 恐らくロンドル子爵の執務室だろうと思われる部屋に着き、ルイーゼが扉の前に立つ警護兵に用件を伝える。警護兵の二人はルイーゼとマリオンに目を見張り、しばし呆然とした様子を見せた後、首を傾げたルイーゼに反応するように動き出す。


 わかる、わかるぞ。今日の二人はいつにも増して魅力的だからな。俺も直視されて固まらない自信がないくらいだ。


「アキト様並びにルイーゼ嬢とマリオン嬢がおいでになりました」

「入ってもらえ」


 中からロンドル子爵の入室を許可する声が聞こえた。それにしても平民を相手に仰々しいな。


「失礼します。アキト並びにルイーゼ、マリオンです。お待たせしまして恐縮です」

「……許す。まぁ、座りたまえ」


 微妙な間の後、ロンドル子爵の許しを得る。

 ロンドル子爵は立ち上がると執務机を離れ、手でソファを示した。

 テーブルを挟んで反対側には、既にカイルが座っていた。その目は少しばかり驚きを現している。美人さんには慣れているだろうカイルでも、今日の二人は眩しいようだ。


「これはめでたいことだ。三人に祝福を贈ろう」


 ん?


「見届け人は既に決まっているのか?」


 んん??


「いえ、この地に親族はおりませんので」


 状況を理解出来ていない俺の代わりにルイーゼが答えてくれた。意味はわからない。


「であれば、その見届け人。私が申し出ても構わぬか?」

「これ以上ないお言葉です」

「大変嬉しく思います」


 ルイーゼとマリオンがお礼を伝え、俺もわかってはいないが言葉は必要と思いお礼を言う。


「では準備が出来たら遠慮なく声を掛けてくれ。必要なものがあれば祝いに用意しよう」

「私からも三人の門出にお祝いを贈らせてもらおう」


 カイルに続きロンドル子爵からもお祝いの言葉を頂いた。

 もうこれは俺たちが結婚するとわかっているようだ。二人を見て反応したところを見ると、もしかして二人の装いには婚姻したことを知らせる意味合いがあったのかも知れない。


 なんとなく照れくさいが、祝福されているルイーゼとマリオンは幸せそうだ。そしてそんな二人を見ている俺も頬が緩むのを感じていた。


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