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イーストロアの激闘・前

二話連投します。




 シルヴィアは全く隠密行動を取る気がないのか、飛んでくる勢いのままガラス窓を突き破って室内に侵入してきた。


 舞い散るガラスの破片が落ちるより早く、俺とマリオンの『魔刃』(マジック・ブレード)が室内の様子を窺うシルヴィアに襲い掛かる。

 夕暮れの日を反射してオレンジ色に煌めくガラスの破片の中を、二枚の『魔刃』が飛んでいく。それは驚異的な反応を見せるシルヴィアを以てしても躱しきれるものではなく、翼と左腕を切り裂いた。


「ぎゃあ!!」

「畳み掛けろ!!」


 俺とマリオンは直ぐに二射目を放ち、続けて三射目を放つ。研ぎ澄まされた『魔刃』の一つ一つがシルヴィアの体を刻み、余波を受けて近くの調度品が砕け散っていく。『魔刃』はそのまま奥の石壁にも鋭い爪痕を残す。洗練された技は、殆ど魔法と変わらない威力を発揮していた。

 シルヴィアの片足が千切れて飛び、体勢を維持出来ずに倒れ込む。それでも俺とマリオンは『魔刃』を放ち続けた。


「お前ら! 殺してやる!!」


 血の海の中でシルヴィアが吼える。体の多くを刻まれ、なお意識を保つ強靱な精神力――やはり上位魔人族か!?


 ルイーゼが突き破られた窓側に立ち塞がり、退路を断つ。

 マリオンの放った『魔刃』がシルヴィアの首を飛ばし、その生命活動を止めるまでに撃った『魔刃』の数は俺だけでも一〇は越えた。その波状攻撃の前に石壁さえ半ば崩れ落ち、所々奥の部屋が覗いていた。


「やったわ!」


 マリオンの気が緩むのを感じた瞬間、ただの肉塊としか思えないシルヴィアの元から、目を見張るほどの速度で鎖ナイフが飛び出す。

 マリオンは構えたナイフでその軌道を反らし、首を捻って躱す。


 俺は注意を促す暇もなかった。

 簡単な敵ではない。そうはわかっていても常識が何処か邪魔をする!!

 マリオンは左の脇腹に刺さった二本目(・・・)の鎖ナイフを掴み膝を突く。


 俺は続けざまに飛んでくる三本目を黒曜剣で弾きつつ、シルヴィアだったものに向けて『火弾』(ファイア・ブリット)を唱える。

 四本目、五本目はルイーゼが盾で防ぎ、メイスで弾く。

 六本目を躱しつつ唱え終わった『火弾』を放ち、マリオンへ向かった七本目を『魔盾』(マジック・シールド)で防ぐ。

 その殆どがぎりぎりというタイミングで、半ば反射的な行動のみで鎖ナイフの攻撃を防いでいた。


『火弾』が着弾する寸前、視界の中を小さな黒い影が覆い尽くし、それは無数の蝙蝠となって部屋の中を飛び回り始める。

『火弾』は血だまりさえ消え失せた絨毯を焼き、炭へと変えただけだった。


「何がどうなっている!?」


 何処を狙えば良い!?


 ルイーゼの『多重障壁』(マルチプル・バリア)が発動しその効果範囲を広げていくと、蝙蝠は部屋の端に押し集める形となった。


「ルイーゼ、良くやった!」


 その際、多くの家具が圧壊していたのは忘れよう。

 片隅に集められた蝙蝠は、そこで再び人の姿を形取っていく。


 それにしてもシルヴィアはまるでヴァンパイアだな。この世界の魔物や魔人族は微妙に知識とずれてくることがあった。元の世界の知識でサキュバスとか思ったのは間違いか?

 なかなかラノベやゲームのようにはいかない。


「マリオン、具合はどうだ!?」

「回復薬を飲んだから問題ないわ!」


 いくら性能が良いとはいっても、そんなに直ぐに効く物じゃない。『魔力感知』では闇の血がマリオンに使われた形跡が見当たらないのが救いか。

 全ての攻撃にあの効力があるわけじゃないようだ。あれだけの技をかすり傷一つで引き起こすようなら脅威どころじゃないが。


「時間を稼ぐ! ルイーゼ、マリオンの援護に回れ!」

「はいっ!」

「ごめん」

「気にするな、その為の仲間だ!」


 俺は、ついにはシルヴィアの姿を取り戻した魔人族に立ち向かう。殆ど無傷の様子を見せるその姿に俺は驚き、シルヴィアもまた俺を見て驚いた様子を見せてた。


「なんでお前が生きているのさ!」

「死の淵で足掻くのは得意なんだ。シルヴィアこそあれで死なないとか人間捨ててるだろ」

「そんなひ弱な生き物と一緒にするな!」


 やっぱり人間じゃないよな!


「ん? あれぇ、なんだ。セシリアの代わりをきちんと用意しているじゃない。三人目を探す手間が省けたわ」

「何を言っている!?」

「だーかーらー、その女が三人目だと言っているのよ!!」

「ルイーゼ!?」


 シルヴィアが振るう右手から鎖ナイフが飛び出しルイーゼを目指す。

 それはルイーゼの張った『多重障壁』を貫くが、次々に展開される『多重障壁』の全ては貫けなかった。続けて振るわれた左手から伸びる鎖ナイフもルイーゼの元までは届かない。

 魔力の障壁がガラスのように飛び散る中、シルヴィアの顔に再び驚きが表れるのが見えた。


「うそっ! 硬いなぁ!

 さっきの魔力の刃と良い、あんた達も十分人間止めているでしょ!」

「何故ルイーゼが狙われる!」

「さぁねぇ、生きていられちゃ困るんで――」


 赤い影がシルヴィアの元に走り込むと、それに反応して左右の腕から四本の鎖ナイフが飛び出す。


「マリオン!?」


 マリオンは魔剣ヴェスパを両手に、まるで舞でも踊るかのように鎖ナイフを撃ち落とし、あるものは躱しながらシルヴィアの元に肉薄する。

 俺も追撃したかったが、シルヴィアを『多重障壁』で部屋の隅に追いやった為、今接近戦を挑めるのはマリオンだけだ。


 援護出来ないのがもどかしい!


「人間の小娘風情が生意気なんだよ!」


 何かが神経を逆なでするような感覚に、俺はシルヴィアが幻覚を使ったのだと直感する。

 問題ない……か? いや、今のはマリオンにか!?


「あ、えっ!? なんで! なんで!!」

「死んでから考えれば良いわ!」


 マリオンが詰め、左手の魔剣ヴェスパを振るう。それは『刻印』魔法により炎の属性を持つ赤いオーラを纏わせた一撃だった。

 不意を突かれたシルヴィアは、その攻撃を躱しきれず、それでも首を守るように体を捻る。


 何故躱す必要がある!?

 あれだけの再生能力を持ちながら……首か?

 いや、首は一度切り落としている。首じゃなければ頭か!?


 マリオンの剣がシルヴィアの右腕を捕らえ、その上腕部を切断する。その腕は床に落ちる前に再び闇色の蝙蝠へと姿を変えた。マリオンはそれを躱すように一端間合いを取る。


「ぐあっ!!」


 断ち切った上腕部が魔剣ヴェスパによって焼き上げられ、シルヴィアは明らかに苦痛に呻いていた。

 直接攻撃がダメージを与えたのか、それとも属性を伴った実剣の影響か。いずれにせよダメージは与えられる!


「マリオン頭を狙え!!」

「わかったわ!」


 俺は唱え終えた『火弾』を蝙蝠の群れの中へと撃ち込む。『多重障壁』により隅に追いやられている為、今度はその半数を焼き上げ、次いで奥の壁も焼き上げた。


「お前ら!!」


 シルヴィアの目が一瞬だけ光を失い、同時に俺は意識を書き換える強烈な何かを感じた。

 俺はそれに抗う。だが、動きの止まった一瞬を狙い撃つようにシルヴィアの右手から鎖ナイフが伸び出す――寸前、ルイーゼの『多重傷壁』がシルヴィアを壁に追い込み、そのまま壁を突き破る。


「があっ!!」


 シルヴィアは崩れ落ちる石壁に巻き込まれ、その姿を消した。


「助かったルイーゼ!」

「はいっ!」


 慎重に構える俺たちの前で、崩れ落ちた石壁から湧き出るように闇の蝙蝠が姿を現す。そして同じようにシルヴィアの姿に変わっていく。だが、右腕は再生していなかった。


「あぁ? 私の右腕は何処だよ!!

 お前ら全員その右腕を毟り取ってやるからな!!」

「お前は油断しすぎだ、馬鹿者」

「ベルディナード様!」


 いつ現れた!?


『魔力感知』(センス・マジック)に引っかかることなく現れたのは、赤い重板金鎧(プレートアーマー)に身を包んだ二〇代前半の男だった。兜は着けず、ルイーゼによく似た茶色の長い髪が、破られた窓を抜けてくる風に揺れていた。


「ぐっ……アキ、ト、様」

「ルイーゼ!」


 その男は背後からルイーゼの首を左手で締め上げ、右手で剣を抜く。


 ドクッ!


 大きな鼓動、次いで今度は全てが止まったかのような一瞬。


「させるか!!」


 全力で放った魔弾がベルディナードの右腕を弾き、『魔斬』(マジック・スラッシュ)でルイーゼを掴む左腕を断ち切ろうとする。しかし不可視の刃はベルディナードの着る鎧に弾かれ刃が通らなかった。

 だがその衝撃に力の緩む隙を突いてルイーゼがベルディナードから逃れる。


「ルイーゼ、マリオンとシルヴィアを押さえろ!」

「は、はい!」


 ベルディナードは左手を握りしめ、その身に何が起きたのかを考える素振りだったが、俺は追撃までは出来なかった。踏み込んだ瞬間に斬られる、そんな予感が脳裏をよぎる。


「面白い。油断と言ったのは間違いだったか。

 一度だけ聞こう、俺の元に付く気はないか?」

「ベルディナード様、こんな奴等倒しちゃいましょうよ!

 あ、その時はその男だけはくだ――キャッ!」


 マリオンがシルヴィアの口を閉ざそうと再び間合いを詰めながらヴェスパを振るい、ルイーゼが聖鎚で追撃する。


「お前はそこで遊んでいろ。

 さぁ、どうする。このまま戦ってここで死ぬか?」


 俺はベルディナードの言葉に怒りを覚え、黒曜剣を突き付ける。


「ふざけるな!

 ルイーゼやセシリアを狙うお前達に組する理由はない!」


 まるで二人が存在しないかのような物言いに腹が立つ。


「その女が生きていると言うことがどういうことか気付いていないようだな。それが世界を敵に回す結果になったとしても女を取るか」

「何を言っているか知らないが、仲間の為に世界を敵にすると言うなら、世界を変えるまでだ!」


 自然体で立つだけのベルディナードに斬り込む隙が見当たらない。場数が違いすぎる、そんな経験が作り出す存在感に飲み込まれそうになる。


「ハッハッハッ!」


 ベルディナードは俺の答えがおかしいとばかりに笑い声を上げた。

 ルイーゼやセシリアにいったいどんな秘密がある!?



カバーイラストが仕上がりました。

景様渾身の作品は大変素晴らしい出来となっております。

是非、活動報告をご確認ください。

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